澪士の手には、夕食の入った紙袋が提げられていた。テイクアウトとはいえ、中身は北里市でも屈指の高級レストランの料理だ。本来なら数ヶ月待ちの予約が必要な店だが、オーナーの一人である澪士にとってはどうということもない。澪士はすでに食事を済ませてきたらしく、詩織とミキが箸を進める横で、ソファに座ってスマホをいじっていた。「明日退院だろ?今後の予定は?もしよかったら、どこかパッと遊びに行かないか?」画面から目を離さず、軽い調子で澪士が提案する。「いいですね、行きましょう」詩織が即答した。ミキは箸を止め、驚いたように詩織を見た。「詩織、大丈夫なの?今週はずっと私につきっきりで仕事も溜まってるはずでしょ?これ以上休んで平気なの?」詩織は何も言わなかったけれど、ミキは気づいていた。彼女が自分の前ではスマホをマナーモードにし、かかってくる電話も最低限しか取らずにいてくれたことを。だからミキも、詩織の負担にならないよう、なるべく眠っているふりをしていたのだ。彼女が安心して仕事に戻れるように。「平気よ。ただ……私ってバカンスなんて柄じゃないから。澪士先輩、どこかおすすめはありますか?」詩織の返答に、澪士はニヤリと笑った。「その質問、待ってましたって感じだな」遊びにかけては、彼の右に出る者はいない。「任せとけ。気候も良くてリラックスできる最高の隠れ家を用意してやるよ。お姫様たちを極上の楽園に案内することを約束する」その夜、ミキが寝息を立て始めたのを見届けてから、詩織は澪士を送るのを口実に、彼と共に病室を抜け出した。廊下に出た途端、彼女の声から温度が消えた。「先輩、プールの件はどうでした?」澪士は小さく首を横に振った。「ダメだ。ピンポイントで監視カメラの死角だった。何も映ってない」ミキが発見されたのは更衣室の中。プライバシー保護のためカメラがないのは当然だ。だが、ミキが誰かに背中を突き飛ばされたのは紛れもない事実だ。詩織が悔しさに眉をひそめると、澪士は諭すように言った。「証拠がないから法で裁けないってだけだろ? 犯人が誰かはわかってる。だったら、やりようはいくらでもあるさ」彼の瞳の奥に、危うい光が宿る。「信じろよ。警察に突き出すだけが能じゃない。ムショにぶち込むより、もっと面白い地獄を見せ
Read more