太一はワケが分からず、移動の猛ダッシュで額に滲んだ汗をぐいっと拭った。昨日、柊也が突然ふらりと本港市へ向かうと言い出した時、太一はちょうど外せない重要な商談を抱えていて同行できなかったのだ。その時、太一は『いっそ商談をキャンセルして一緒に本港市へ行こうか?』と提案した。だが、返ってきたのは『そんなにお邪魔虫になりたいのか?』という冷ややかな一言。言葉に詰まった太一は、大人しく同行を諦めた。ところが、その翌日の午後。突然柊也から電話がかかってきて、『本港市まで俺を迎えに来い』と呼び出されたのだ。あの時の声のトーンと言ったら、完全にこの世の終わりみたいな、ひどく落ち込んだ響きだった。心配のあまり、太一は自社『栞』の生薬プロジェクトの取引相手をその場に放置し、大慌てで本港市行きの飛行機に飛び乗ったというのに。やっと到着し、まだ機体から一歩も降りていないというのに。『お前の出番はもうない』からの、『空港からそのままトンボ帰りしろ』だ。女心が秋の空なら、こいつの心はゲリラ豪雨か何かか?太一は心の中で必死に己を宥めた。『相手は病人だ。しかもウチのボスで、腐れ縁のダチだ。……耐えろ、俺。ここは大人になって水に流してやれ』そして彼は飛行機を降りるや否や、到着ゲートからそのまま出発ゲートへとUターンし、江ノ本市へ戻る一番早い便のチケットを買う羽目になった……ふとスマホを見ると、秘書からのメッセージが届いていた。【Ninaさんが激怒しています。栞との提携は白紙に戻すと言い張って……】それを読んで、太一はさらに盛大に頭を抱えた。あのNinaのご機嫌取りに行けば、またあの手この手でセクハラまがいにベタベタ触られるのは目に見えている。踏んだり蹴ったりだ。……一方その頃、詩織は響太朗との法的な打ち合わせを長引かせ、病室を出る頃には夜の十二時近くなっていた。慌てて柊也の病室へ戻ると、彼は本当にまだ起きていた。それどころか、扉から現れた彼女の姿を見た瞬間、心底安堵したように長く息を吐き出した。「早く休んでって言ったのに」詩織はベッドサイドのカルテを一瞥した。今夜はもう点滴を追加する必要はない。「……待ってるって言っただろ」ベッドの上の彼は、相変わらず頑固だった。怪我人に免じて、詩織はそれ以上のお小言
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