もちろん、そんな本音は喉の奥に飲み込むしかない。太一はぶつぶつと文句を並べた。「いつまでも逃げ回ってたって、一向に埒が明かねえだろうが!同じ街にいる以上、どうしても今日みたいに鉢合わせるんだよ。もしさっきの物音がなかったら、お前、今頃捕まってたんだぞ?――これからどうするつもりなんだよ」答えを拒むような、長い沈黙が流れた。やがて、柊也の声が低く漏れた。「……さあな。自分でも、どうしたいのか分からん」詩織が席に戻ると、ミキが不思議そうに尋ねてきた。「遅かったね、どうしたの?」「ちょっと仕事でトラブルがあって。もう大丈夫、食べよう」詩織は平静を装って箸を動かした。一方、白彦がようやくミキを捕まえたのは、夜の九時を回った頃だった。ミキはホテルに戻り、シャワーを浴びたばかりだった。濡れた髪を乾かすのも忘れ、彼女の意識は先ほど受け取った澪士からのプレゼントに釘付けになっていた。包装の雰囲気からして、中身はジュエリーの類だろう。洗練された、いかにも女性が好みそうな上品なセンス。だが、ミキの心はなぜか晴れなかった。――きっと、今まで大勢の女に贈ってきたから、手慣れているだけ。ミキはふいっと顔を背け、タオルで髪を拭き始めた。けれど、半分ほど乾かしたところで、どうしても抗えずに手が止まる。結局、彼女はその包みを手に取り、リボンを解いた。予想通り、中に入っていたのは宝飾品だった。しかし、それは単なる高価なジュエリーではなかった。重厚な輝きを放つ、最高級のラベンダー翡翠のセット。それを見た瞬間、ミキの視界が急激に熱く潤み、鼻の奥がツンと痛んだ。震える指先で、ベルベットのケースに収められた翡翠にそっと触れる。胸の奥が、激しく揺さぶられた。このジュエリーは、かつて父が自らデザインに加わり、母の三十歳の誕生日に贈ったものだった。ミキの家族にとって、何物にも代えがたい大切な思い出の品。両親が相次いで他界した後、母が遺した宝石や資産はすべて叔父の手によって持ち去られ、跡形もなく売り払われてしまった。ミキの手元には、形見と呼べるものは何一つ残されなかった。ここ数年、ようやく経済的な余裕ができたミキは、両親ゆかりの品を探し回っていた。だが、あまりに長い年月が経ちすぎており、多くの品は行方知れずのままだった。
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