詩織も決してノリの悪いボスではない。部下たちの輪に混ざり、グラスを交わして笑い合う。ただ、少し気分が良くなりすぎて、いつもより杯を重ねてしまったのは確かだった。宴会がお開きになる頃には、とうに日付が変わっていた。ここ数日、新エネルギー事業のIPO案件にかかりきりで、二日も徹夜が続いていた詩織。そこにアルコールが回ったことで限界を迎え、彼女は個室のソファの隅に丸まってすっかり寝入ってしまった。こういう場では、密は一滴もアルコールを口にしない。宴会の後、全員を無事にタクシーに乗せて見送るという重要な任務があるからだ。最後の一人を見送り終えた密は、詩織を家まで送り届けるため、急いで個室へと引き返した。しかし、廊下の先で目にした光景に、彼女はハッと足を止めた。柊也が、眠りに落ちた詩織を大切そうに横抱きにして歩いてくる。密は口を開き、何かを言いかけた。すると柊也は、「しーっ」と人差し指を唇に当てた。「起こさないでやって。彼女、ここ数日ずっとまともに休めてなかったから」詩織の眠りを絶対に妨げないよう、その声はひどく低く、意図的に押し殺されていた。それでも、微かな響きに反応したのか、詩織は夢の中で小さく眉を寄せた。そして、心地よい温もりを求める本能のままに、無意識のうちにすり寄るように彼の胸へと顔を埋める。そのあまりにも無防備な彼女の姿と、二人の間に流れる親密な空気に、密は喉まで出かかった言葉を、ただそのまま飲み込むしかなかった。初冬を迎え、一週間続いた雨がようやく上がった。日中は晴れ間も見えたが、夜になるとやはり肌寒い。柊也は詩織を包むブランケットの端をしっかりと引き寄せ、彼女を横抱きにしたままゆっくりと歩みを進めていた。どんなに細心の注意を払っても、車に乗り込む際の動きでどうしても刺激してしまう。目を覚ました詩織は、霞がかったようなとろんとした瞳で彼を見つめた。ちゃんと相手が誰なのか認識できているのかも怪しい。「もう少し眠っていなよ。家に着いたら起こしてあげるから」柊也は穏やかな声で囁いた。詩織は何も言わず、しばらくじっと彼を見つめてから、ぽつりとこぼした。「レモンウォーター、ないの?」以前の彼は、こういう時いつも前もって用意してくれていたのだ。「あるよ。今、飲む?」こくりと頷くのを見
閱讀更多