七年の恋の終わりに、冷酷な彼は豹変した의 모든 챕터: 챕터 961 - 챕터 970

1031 챕터

第961話

璃々子はぐっと腹の底に感情を押し込め、普段通りの愛らしさを装った。「だって、オークションに参加しに来たんだもん」「そうか。なら先に入ってろ」「えっ……一緒に入らないの?」「俺はちょっと用がある」一刻も早くミキを追いかけて、誤解を解かなければ。あの冷たい視線から察するに、また面倒な勘違いをされたに決まっている。苛立ちと焦りで足を向ける白彦を、璃々子はすかさず引き止める。「でも、私招待状がないから中に入れないの。ねえ、白彦兄さんの力でなんとかならないかな?」上目遣いで、最もあどけなく可憐に見える表情を作る。昔から彼を思い通りに動かしてきた、百発百中の手口だ。……しかし、今回ばかりは違った。「今は手配してる時間がない。今回は諦めろ、また今度連れてきてやるから」「でも……!」すがりつこうとする璃々子の言葉を遮り、白彦は足早に会場へと消えていった。招待状を持たない璃々子は、当然ながらエントランスで足止めを食らった。地団駄を踏んで悔しがったが、どうすることもできない。だが、このまま引き下がるわけにはいかなかった。白彦が一体誰とオークションに行くつもりなのか、どうしても突き止めたかったのだ。まさか、あのミキじゃないわよね?その予感が、璃々子の危機感を一気に煽る。足早にビルを出ると、冷え切った表情で美奈子に電話をかけた。美奈子自身は事情を知らなかったが、少し探りを入れれば白彦の運転手からすぐに聞き出せる。数分後、璃々子の手元に答えがもたらされた。――やはり、あの女だ。怒りのあまり、握りしめたスマートフォンがミシミシと音を立てる。さっき白彦が自分をあんなに邪険に扱った理由が、ようやく腑に落ちた。許せない。絶対にミキの思い通りになんてさせるものか。せっかくミキの方から離婚を突きつけ、二人の関係に決定的な亀裂が入ったのだ。その上ミキはこの四ヶ月、北里市に滞在したまま一度も立ち寄る気配すらない。明らかに白彦を避けている。今こそ自分が正妻の座に滑り込む絶好のチャンスなのに、ここで邪魔されるわけにはいかなかった。ミキとは同じ家で育った間柄だ。彼女がわざわざこのオークションに足を運んだ理由など、お見通しだった。璃々子はすぐにオークションの出品リストを調べ、ミキの「お目当て」を瞬時に
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第962話

電話中だったミキは白彦が近づいてくるのに気づかず、その身勝手な抱擁を避けることができなかった。だが、彼が密着してきた瞬間、両腕にぞわりと鳥肌が立つ。いつからだろうか。彼からの接触のすべてに、これほどの激しい拒絶反応を示すようになったのは。触れられるたび、胃の腑がグロテスクに逆巻くような悪寒が走る。まるで生きた虫を飲み込んだかのような嫌悪感が、触れられた部分から神経を伝って全身へと広がっていく。おまけに、今の彼からは甘ったるい安物の香水の匂いが漂っており、それがミキの吐き気に輪をかけた。腕の中のミキが明確に体を強張らせたのを察知してか、彼女の腰に回された白彦の手が微かに硬直する。ミキはその隙を突いて、あっさりと彼の腕から抜け出した。スマートフォンに目を落とすと、通話はいつの間にか切れていた。澪士は別れの挨拶さえせずに電話を切ったらしい。ミキは冷え切った視線で白彦を睨みつけた。この男の神経はどうなっているのだろうか。たった今、外で愛しい幼馴染といちゃついていたばかりだというのに、よくもまあ平然と自分に触れられるものだ。本当に、どこまでもまとわりついてくる厄介な男だ。ミキは瞳の温度をスッと下げると、冷ややかに言い放った。「今日は随分と悪趣味な冗談を口にするのね。聞いてるこっちが気持ち悪くなるわ」その言葉に、白彦は一瞬だけ表情を強張らせた。以前の彼なら、迷わず彼女を非難していただろう。言葉遣いが下品だ、態度がなっていない、性格も可愛げがない、と。名門・由木家の嫁として、彼女はどの基準にも達していなかった。だからこそ、祖父からミキとの結婚を命じられた時、白彦は猛反発したのだ。結局、祖父の絶大な圧力に屈して受け入れるしかなかったが、結婚後もミキに対して良い顔を見せたことは一度もなかった。妻の身分を公にすることも、社交界の場に連れ出すこともしなかった。もちろん、今でも彼女のそういう部分を「ふさわしくない」と思っている。だが、今は自分から復縁を求めている立場だ。ここは我慢するしかない。さっき、外で璃々子と一緒にいるところを見られたから、ヤケになってキツい言葉をぶつけているんだろう。そう身勝手に解釈した白彦は、なんとか苛立ちを抑え込み、努めて穏やかな声を作った。「……璃々子が来るなんて、俺は知らな
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第963話

何があっても、今日だけは絶対に手に入れる。目的がはっきりしているため、前半の出品物には目もくれず、ミキはただひたすらお目当てのティアラの出番を待っていた。同じ頃、別のVIPルームにいる白彦もまた、オークションどころではなかった。彼の頭の中は、ミキがどうやってこのオークションの招待状を手に入れたのか、そしてなぜVIPルームに入れたのか、という疑問で埋め尽くされていた。北里市におけるミキの人脈で、あんなVIP待遇の招待状を手配できるはずがない。考えられる可能性は、ただ一つ。――二階堂澪士の差し金だ。あいつは今日のオークションの主催元である『絶世グループ』の株主の一人だ。最高ランクの招待状を一枚用意するくらい、造作もないだろう。何より白彦の腹を立てさせたのは、ミキが「夫である自分が用意した招待状」を無視し、他の男が用意した招待状を嬉々として受け取ったという事実だった。自分のプライドが泥で踏みにじられたような、どうしようもない苛立ちが込み上げてくる。再びミキの部屋へ乗り込もうと腰を浮かせた瞬間、タイミング悪くスマートフォンが震えた。璃々子からだ。「……何の用だ?」白彦は舌打ちを堪え、苛立たしげに電話に出た。「白彦兄さん、私からのメッセージ見てないの?」「まだ見てない。どうかしたか?」電話の向こうで、璃々子がギリッと爪を噛む気配がした。メッセージを送ってから、もう一時間も経ってるのに。見てすらいないなんて……!昔の白彦なら、こんな風に自分を放置することなど絶対にあり得なかった。どうせ、あのミキに唆されて、私を蔑ろにしているに決まってる。璃々子の脳内で、どす黒い妄想が渦を巻いていた。璃々子は沸き上がるドス黒い感情をどうにか抑え込み、何も気づいていないような明るい声を作った。「ううん、ちょっと聞いてみただけ。あとでいいから、私が送ったメッセージ見ておいてね」「……ああ、わかった」白彦は電話越しの声から璃々子の落胆を察知していたが、特に何のフォローも入れず、そのまま通話を切った。言われた通りにメッセージを開くと、先ほどのティアラの写真と共に「どうしても欲しい」という旨が書かれている。彼にとって、それは単なる装飾品の一つでしかなかった。ちょうど彼女が欲しがっている。そういえば、もうすぐ
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第964話

このオークションで母のティアラが出品されることを知ったのが直前だったため、資金の準備が間に合わなかったのだ。今、ミキの手元で動かせる限界が3億円だった。それでも、市場価値が1億円にも満たないジュエリーに対して出すには狂気の沙汰と言える額だ。それが、まさか瞬きする間に4億円まで跳ね上がるとは思わなかった。緊張と絶望で、手が小刻みに震える。震える指でどうにか親友の詩織に電話をかけて、資金の援助を頼もうとした。だが指先がもつれ、何度も画面の操作を間違えてしまう。なんとか通話ボタンを押せた時には、無情にもオークションハンマーの音が会場に響き渡っていた。「4億円!落札です!」オークショニアの決定的な宣言が、ミキの耳に冷たく突き刺さる。そんな状況とは露知らず、電話に出た詩織はいつも通り明るい声だった。「どしたの、ミキ?」「……ううん、なんでもない」ミキは全身から力が抜け落ちたように、虚ろな声で答えた。「ただ、ご飯……もう食べたかなって、聞こうと思って」電話の向こうで、詩織が時計を見る気配がした。現在、午後三時。ご飯の話題を出すには不自然すぎる時間だ。異変を察知した詩織の声が、スッと真剣なものに変わる。「ミキ、何かあったの?」「ううん、何もない。本当に、ちょっと聞いてみただけ」これ以上、詩織に心配をかけるわけにはいかない。ミキは無理やり声を明るく繕って通話を切った。だが、当然ながら詩織がそれで納得するはずもなく、彼女は電話を切った直後、状況を確認するためにある人物へと連絡を入れていた。ちょうどその頃、澪士はオークション会場にはいなかった。別室で、業界でも名高い大物コレクターとの商談を終えたばかりだったのだ。上顧客を見送った後、彼は自身の秘書に尋ねた。「あの『水滴のティアラ』は落札されたか?」「はい、落札されました。それが、予想を遥かに上回る4億円という超高額です」その報告に、澪士はピタリと足を止め、眉をひそめた。「なぜ、そこまで高騰したんだ?」秘書は首を傾げた。「高値が付くのは、良いことなのでは?」落札額が上がれば上がるほど、オークションハウスに入る手数料も莫大になる。主催側である澪士にとって、本来なら喜ばしい結果のはずなのだが。「落札したのは誰だ?」澪士が気にしたのは、ただその一点のみだった。
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第965話

だが、璃々子は甘ったるい声でさらにねだる。「今すぐ届けてもらうことはできないかな?私、まだ会場の前にいるの。白彦兄さんからの誕生日プレゼント、一秒でも早く見たくて」それを聞き、白彦の眉間に皺が寄った。「なぜまだ帰ってないんだ?」「くちゅっ」と、わざとらしいくしゃみの音が電話越しに聞こえる。「ずっと外で待ってたの……白彦兄さん、ここすっごく寒いよぉ」可哀想な被害者を演じる声。しかし白彦は冷淡に返した。「運転手に送らせる」「でも、私どうしても、今すぐプレゼントが見たいの!」「わかった。すぐに秘書に取りに行かせて、そっちへ持って行かせるから」「えっ……白彦兄さんは?嘘、私を家まで送ってくれないの?」璃々子の声に焦りが混じるが、白彦は取り付く島もなかった。「俺はまだ用がある。お前は車で先に帰れ」本心では白彦自身に家まで送ってほしかった璃々子だが、ここでこれ以上ワガママを言って機嫌を損ねては元も子もない。それに、今日は一番の目的を果たせたんだから。「わかった。……でも、素敵な誕生日プレゼント、本当にありがとうね。白彦兄さん」と、彼女は物分かりよく引き下がった。白彦は生返事をして電話を切ると、すぐに代理入札人へ指示を出した。「先に決済を済ませて、ティアラを受け取ってこい。外で璃々子が待ってるから、直接あいつに渡してやれ」指示を終え、自分はVIPルームに一人残ったものの、オークションの続きなど全く頭に入ってこない。しばらく座っていたが、とうとう我慢の限界に達し、白彦は立ち上がった。ミキの部屋へ乗り込むためだ。ところが、ミキの専用ルームへ向かう廊下の途中で、思わぬ人物と出くわした。二階堂澪士だ。白彦は目を細め、危険な光を宿した視線を射る。澪士は真っ直ぐ白彦の前までやってくると、あくまで紳士的な態度で口を開いた。「由木さん、水滴のティアラを多額で落札されたそうですね。もしお譲りいただけるのであれば、落札額に50パーセント上乗せした金額で買い取らせていただきたい。ぜひ、ご相談に乗っていただけませんか」白彦の瞳が、無意識のうちに暗く沈む。「……二階堂さんは、随分と他人の持ち物を横取りするのがお好きらしいな」明らかに、ティアラ以外の意味を含んだ牽制だった。だが、澪士は涼しい顔を崩さない。「もし金額に不満がおありなら
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第966話

ミキは床に倒れた白彦を一瞥だにせず、すぐに澪士へと向き直った。「澪士……殴られたの!?大丈夫? 病院に行かなくて平気?」「大丈夫だよ、大したことじゃない」澪士はすぐに首を振る。だが、ミキの目には彼の口角から一筋の血が滲んでいるのがはっきりと見えていた。またあのくだらない嫉妬だわ……!白彦がこんな真似をしたのは、自分と澪士の関係を疑ってのことだとミキは断定した。以前にも、澪士に対して言いがかりをつけていたからだ。ミキは振り返り、床の白彦めがけて冷たく言い放った。「文句があるなら私に言いなさいよ。どうして無関係な人に八つ当たりするの?」だが、白彦にとってその言葉は「ミキが他の男を庇って自分を責めている」ようにしか聞こえなかった。俺の元妻が、他の男と俺が揉めている時に、俺の敵に回るだと?耐え難い屈辱と苛立ちが、白彦の腹の底でドロドロと渦を巻く。無言のまま立ち上がると、彼はギリッと唇を引き結び、ミキの手首を万力のように強く掴み取った。「……一緒に帰るぞ」ミキは反射的にその手を振り解こうとした。だが、彼が手首を握り込む力は異常なほど強く、ミキの顔が苦痛に歪む。振りほどくどころか、強引に引っ張られた反動でバランスを崩し、あわや床に倒れ込みそうになった。その時、逆側の手を澪士が咄嗟に掴んで支えたため、ミキはどうにか転倒を免れた。互いにミキの腕を掴んだまま、男たちの間にピタリと緊迫した力が拮抗する。「彼女から手を離せ」「手を離せ!」一方は氷のように静かで冷たい抑揚、もう一方は激しい怒号。二つの声が、ミキの左右の耳元で同時に響いた。澪士は静かに目を上げ、白彦の殺気立った視線を真っ向から受け止める。「あなたが彼女を痛めつけているのがわかりませんか」そう指摘され、白彦はハッとしてミキの手首に目を落とした。確かに、自分の指の形が白く残るほど、彼女の細い手首が赤く鬱血している。無意識に指の力を緩めた、その瞬間――ミキはすかさず腕を引き抜き、迷うことなく澪士の側に身を寄せた。またしても、明確に自分を「敵」と見なすその立ち位置。白彦の胸に、先ほどよりもさらに重く、ドロドロとした不快感がのしかかる。ミキは澪士を見上げ、「どうしてあいつに殴られたの?」と聞きかけ、口を開いた。だが、その言葉が発せられる
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第967話

「……どうして私、あなたなんかに期待しちゃったんだろうね」ぽつりと漏れたその呟きは、今にも破れてしまいそうな薄紙のように酷く脆かった。「大丈夫?」澪士が、彼女の顔を覗き込んで心配そうに声をかける。「……うん。なんだか少し、疲れちゃった」「ホテルまで送るよ」ミキは拒まなかった。今はただ、一秒でも早くこの場所から逃げ出したかった。由木白彦という男と同じ空気を、もう一秒たりとも吸いたくなかった。澪士に支えられるようにして歩き出したミキを、白彦は慌てて引き留めようとした。祖母であるサワの圧力で離婚届こそ提出させられたものの、白彦の歪んだ執着の中では、彼女は未だに『絶対に手放すことのない自分だけの女』だったのだ。だが、言葉を発するよりも早く、ミキがすっと振り返った。そのあまりにも冷ややかで、静まり返った視線に、白彦は完全に射すくめられた。その瞳が雄弁に物語っていたのは、どうしようもないほどの『失望』。喉まで出かかった言葉は声にならず、白彦はその場に縫い止められたように立ち尽くした。失って初めて自分がいかに彼女を愛していたかを思い知ったというのに――そんなかつての妻が、他の男に大切に連れ去られていく背中を、ただ黙って見送ることしかできなかった。夜更けのバー。白彦はすっかり泥酔し、グラスの氷ばかりをカラカラと鳴らしていた。遅れて店に到着した仙道健は、テーブルに突っ伏した白彦の有様を見て目を丸くした。「なんだこれ。どういう状況?」健は、隣で呆れ顔の乾武志に尋ねた。「璃々子ちゃんと喧嘩でもしたのか?」武志はため息まじりに首を横に振る。健はいよいよ首をひねった。「じゃあ、誰がこいつをここまで荒れさせたって言うんだ?」「……こいつの元妻、ミキだよ」武志の口から出た予想外のこだえに、健は顎が外れそうになった。「嘘だろ?本気で言ってるのか?」「一時間前の俺と全く同じ反応だな、お前」健がさらに詳しい事情を聞き出そうとした矢先、すっかり出来上がった白彦が、唐突に大声で管を巻き始めた。「ミキ……っ、なんで俺と一緒に帰ってくれないんだよ!」「なんで、俺と完全に縁を切ろうとするんだ!」「俺のどこが、あの二階堂に負けてるって言うんだよ……っ」「あんな女たらしのことは受け入れるくせに、なんで……なん
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第968話

レストランは澪士が選んだ、ホテルからわずか徒歩五分の場所にあった。店に着いたときには、すでに澪士は席に座って待っていた。その姿を見て、ミキはふと過去の記憶に引き戻されそうになった。白彦との食事を待っていた日々――そもそも一緒に外食をすること自体が少なかったが、いつだって彼より先に着いて待つのはミキの方だった。だというのに、十回のうち八回は平気で約束をすっぽかされた。巨大企業のトップなのだから目まぐるしく忙しいのだろう、遅刻もドタキャンも仕方のないことだ。そうやって何度も自分に言い聞かせ、納得させてきた。だが、その思い込みは澪士にはまったく当てはまらない。激務という点で言えば、すでに巨大な規模になっていた由木グループをただ引き継いだだけの白彦よりも、己の身一つで今の地位を築き上げた澪士の方が、はるかに多忙なはずなのだ。それなのに、彼と会うときはいつも、澪士がミキを待ってくれている。「ごめん、私遅刻しちゃった?」席につくなり、ミキは申し訳なさそうに尋ねた。「ううん、俺が早く来すぎただけだよ」澪士はメニューを差し出し、この店の看板料理を手際よく勧めてくれた。さらに、オーダーを取るウエイターに対し、料理にピーナッツが使われている場合は必ず別の食材に変更するよう念を押したのだ。ミキがピーナッツアレルギーを持っていると知ってのことだった。「どうして私がアレルギーだってこと、知ってるの?」驚いて尋ねるミキに対し、澪士はティーカップに視線を落として一口飲み、静かに答えた。「前にリゾート島に行ったとき、君がシェフに話してるのを小耳に挟んだんだ」伏せられた目元からは、彼の感情を読み取ることはできない。ミキはどうしてもその時のことを思い出せなかったが、たしかにそんなやりとりがあったのかもしれない、と小さく納得した。日中は部屋に引きこもって水しか飲んでいなかったせいで、料理の匂いを嗅いだ途端に急激な空腹感が押し寄せてきた。運ばれてきた料理を、ミキは心底美味しそうに口へ運んだ。反対に、食事に誘ったはずの澪士はたいして箸を進めず、ほとんどの時間をティーカップを傾けて過ごしていた。ミキがすっかり満足した頃合いを見計らい、澪士は傍らの袋からベルベットの小箱を取り出すと、テーブルの上を滑らせてミキの前に置
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第969話

「今日はこの前助けてもらったお礼に食事をご馳走しようと思ったのに……これじゃあ、さらに借りが増えちゃって、何回ご飯を奢っても返しきれないわ」大げさなミキの言い回しに、澪士はふっと吹き出した。「人生は長いんだ。返しきれないなんてこと、あるわけないだろ?」「ふふっ、それもそうね。じゃあ、これからは北里市に来て時間がある時は、いつでも私にご飯を奢らせて」そこまで言ってから、ふとある懸念事項に気づいて付け足した。「ああ、もちろん、あなたの『女友達』が嫌がらなければ、の話だけどね」そうだ、すっかり忘れていたけれど、目の前の男は筋金入りのプレイボーイなのだ。もっとも、澪士が女性と親密にしている姿を実際に見たことはない。おそらく、人目につく場所では上手く立ち回っているのだろう。澪士は椅子の背もたれにゆったりと体を預け、悪びれずに言った。「安心して。彼女『たち』は文句なんて言わないから」――ほら、出た。堂々と複数形で答えるあたり、さすがはプレイボーイだ。一方、レストランの外の歩道。白彦は道端に足を釘付けにされたかのように、一歩も動けなくなっていた。ガラス越しに見える、レストランの中で楽しげに食事をする二人の男女から、どうしても目を逸らすことができなかったのだ。ミキの笑顔は、今の彼が知っているものとはまるで違った。生き生きとして、柔らかくて、自然だ。彼と一緒にいる時には絶対に見せない顔。いや、そもそも直近でいつ彼女があんな風に心から笑っていたか、白彦にはもう思い出せなかった。現在の彼の記憶にあるミキは、どれも氷のように冷たく、感情の抜け落ちた表情ばかりなのだ。白彦の瞳の奥をよぎった不快な色を、隣にいた璃々子が見逃すはずがない。彼女はここぞとばかりに囁きかけた。「こんな夜遅くに、ミキさん、他の男の人と二人きりで食事なんて……よっぽど特別な関係なのね」「この前のオークションの時も、ミキさんを庇って前に出てきたのはあの『二階堂さん』だったわよね。しかも、彼ったら私がミキさんを突き飛ばして流産させたなんて、ひどい言いがかりをつけてきて……」「男が女をあんな風に必死で守るなんて、下心があるに決まってるわ」白彦の胸の奥で、正体不明の感情が荒々しく暴れ回り、理由のない苛立ちが全身を駆け巡った。しかし、口から出た
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第970話

――まるで、あいつら二人が同じ世界の住人であるかのように。その瞬間、白彦はなぜか、彼らの輪に踏み込み、ぶち壊す勇気を失っていた。そこに座っているのが、かつて自分の妻であった女だというのに。白彦の意識は終始ミキに向けられており、向かいに座る璃々子のことなど完全に視界から消え失せていた。璃々子は、もはや愛想笑いすら維持できなくなっていた。彼女が何を話しかけても、白彦の返事はない。こんな一方通行の惨めなデートなど、彼女にとって屈辱以外の何物でもなかった。料理にはほとんど手をつけていないというのに、苛立ちだけで腹が満たされた気分だった。ふと視界の端で、ミキが立ち上がってレストルームの方へ向かうのが見えた。璃々子もすかさず「少しお化粧室へ行ってくるわ」と言って席を立った。白彦はそれに相槌を打つこともなく、ただミキの背中をじっと目で追い続けている。璃々子は唇を強く噛みしめ、背を向けた瞬間に顔を凶悪に歪ませた。一方のミキは、食事も粗方済んで、気分良くレストルームに立っていた。白彦の祖母の世話をしている家政婦からメッセージがあり、「サワ様は最近あまり体調が優れず、先週は風邪を引いて咳が続いている」とのことだった。ミキは少し考え、明日にでもお見舞いに行くと返信した。その際、「白彦と鉢合わせしない時間帯はいつか」と尋ねることも忘れなかった。その家政婦は祖母に長年仕えているため、この二人の仲が水と油であることは百も承知だ。【明日は水曜日ですので、白彦様はお戻りになりませんよ。ご安心ください】【それじゃあ、明日お伺いするわね】家政婦の返答にそう返信し、スマホをしまって個室を出た。手洗い場に向かうと、鏡の前でわざとらしくポーズをとっている璃々子の姿が目に飛び込んできた。最悪。ミキは心の中で毒づくと、璃々子を完全に無視して蛇口を捻った。だが、璃々子はもちろんミキを待ち伏せしていたのだ。こんな絶好の機会を見逃すはずがない。「ねえ、ミキさん。私の頭のティアラ、見えるかしら?」彼女はわざとらしく鏡に顔を近づけ、自分の頭上で輝く『水滴のティアラ』をうっとりと見つめた。ミキは伏し目がちに手を洗い続け、何も答えなかった。見えないわけがない。「これね、白彦兄さんがオークションで四億円も出して落札してくれた
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