Mag-log in「改めまして、神子様の御相手をさせて頂く松葉と申します。齢は二十五だ」
「同じく、常盤と申します。歳は松葉と同じでございます」
「あ、えっと……牧野楓です……二十歳です……よろしくお願いします……」
ぺこりと二人に倣うように頭を下げ、顔を上げると、二人もゆっくりと顔を上げ、見つめてくる。精悍な顔立ちで色気のある松葉と、美麗な顔立ちで妖艶ささえ感じる常盤の、それぞれの真っ直ぐに見つめられ、楓は竦むような心地だ。
「神子様には、今一度此度の召喚の理由をお話してよろしいでしょうか。爺様の言葉だけでは足りないかと思いましたゆえ」
いきなり行為が始まるのだとばかり思っていた楓は、常盤からの申し出にほっと息をつき、「あ、はい……お願いします」と、答える。
常盤は居ずまいを正し何故楓が松柏の国へ呼び出されたのかを話し始めた。
「こちらの世界には、神子様の世界にあるような、電力や火力、などといった熱源がございません。それでも国を開き、発展してこられたのは、ひとえに私や松葉のような妖力を持つ者が発する力による働きが大きいのです」
「え、じゃあ、いまこの部屋の中の灯りとかも、全部妖力?」
「左様でございます」
部屋の四隅に置かれている、
しかし、驚かされるのはそこからだった。
「しかしな、ここ半年ばかり、妙な病――
「妖力が、消える……?」
「俺は薬問屋をやってるんだが、そいつには店で扱うどんな薬も効かねえ。この常盤はここで診療所を開いていて、そこで妖力で治療を施しても治りゃしねえ……そういう厄介な病な上に、どこから来たのか、どういうことが原因なのかさえもよくわかっていねえ。その上、妖力が尽きれば……やがて先祖返りしちまうんだ」
「先祖返り?」
「半獣から、獣になっちまう。
常盤の説明の後を継いで語られた松葉の言葉に、楓は目を瞠った。原因も発生源もわからない流行り病によって、国のエネルギー源が奪われ、理も失われていく、そんな奇病を、自分に治せと言われているのだとようやく気付いたからだ。
「そ、それを……僕に治せ、って言うんですか?」
医学生でも薬学生でもなく、ましてや医者などでもない自分に、なにができるというのだろう。しかも、いまいるのはどう見ても寝室のような布団を敷かれた場所で、自分も彼らも性行為をするための準備をさせられている。
まさか、セックスで治療しろというのか……? 過ぎる不安を見透かすように、松葉がふっと片頬をあげて笑み、ずいっと楓の方に近づいてくる。
「まあ、要は、神子様は俺らとまぐわうことで治癒力を高め、それで患者を治してくれりゃいいんだ」
「僕にそんなことなんてできません! ましてや、妖力をどうにかできる力なんて……」
松葉から視線を交わすように目を逸らして声を上げる楓の膝に、そっと何かが触れる。振り返るとそれは、常盤の手のひら、そして豊かな毛並みの尻尾だった。
「ですから、私たちとまぐわい、神子様がまだお気づきでない力を発揮させて頂くのです」
「ま、まぐわうって……それって……僕と、その……性行為、するってこと、ですか……?」
ここまで来ておいて悪あがきであるのは重々承知だが、それでまだ、当事者である彼らからの真相が聞きたかった。
しかしそんな微かな望みさえも、松葉が横から顔を覗き込んできて、笑いかけながら告げて打ち砕く。
「平たく言や、そうなるな。そうやって、神子様の中に精を注ぎ、御力を目覚めさせる」
精を注ぐということは、恐らく精液を楓の体内に注ぐということだろう。そしてその方法は、薄っすらとしか知識のない、男同士のセックスということになる。
「神子様は俺と常盤、好きな方とやってもいいし、両方でも構わないんだぜ?」そう、松葉はどこか楽し気に告げてくるが、楓にはそんな余裕などない。なにせ、行為そのものが初めてなのだから。
「さあ、神子様よ。どうしたいんだぃ?」
「え……えっと……その……」
「うん? お望みどおりにするぜ、何なりと言ってくんな」
望みどおりにしてくれる。その言葉に、楓は少し肩の力が抜けた気がした。それならば、こういう行為に慣れているであろう、彼らの善いようにしてもらう方が容易い気がしたからだ。
こくん、と喉を鳴らして息を吐き、楓は震えそうな声で思い切って告げる。
「――――お二人に、お任せします」
楓の言葉に、今度は松葉と常盤が喉を鳴らした気がした。
ある妖力を持ちて暮らす半獣の世界で、禍の病という恐ろしい病が流行っていた。世界の熱源や動力の素となる妖力を喪失させるその病は、どんな妖術による治療も、薬も効かず、ただただ人々が弱り、集落が荒れ果てていくのを見ているしかなかったほどだ。 しかしそれをある時、異世界からやってきた神子と呼ばれる青年が、最大の妖力を持つふたりの若い半獣と交じり合うことで治癒の力を発揮し、病を治していったと言う。 神子は病の素となる瘴気の根源も解決し、世界に平穏をもたらした。 そして――――「楓さまよぉ、今宵こそは俺と風呂に入ろうぜ。診察で疲れた体を癒してやるよ」「いいえ、楓さま。今宵は私と過ごしましょう。良い香が手に入ったのです」 一日の終わり、診療所の仕事と薬屋の仕事を終えて屋敷に戻り、一日の報告と共に夕餉を取っていると、日課のように行われる松葉と常盤の楓の取り合いが始まる。「常盤、お前は一日診療所で一緒にいるんだから、遠慮しやがれよ」「一日ご一緒したからこそ、最後までお世話するのが筋でしょう」「そう言って、閨までついて行くんだろうがよ」「それはあなたもそうでしょう、松葉。それに、あなたは閨でまた楓さまに無理をさせかねません」 ぴしゃりとそう常盤に言われ、松葉はバツが悪そうにぐっと黙り込む。先日、楓のマッサージと称して体に触れたことでセックスに発展して疲れ果てさせたことを言われたからだ。その翌日に楓は仕事がままならないほどだったため、その苦言とも言える。「常盤だって、隙あらば楓さまの閨に忍び込んで、世話のついでだって言って、あれやこれやするじゃねえか」「お世話の一環ですからいいんです」「ずる賢いぞ、腹黒狐!」「あなたが短絡的すぎるんです、単純狸」 またしても夕餉の席で一触即発な空気になりかけた所を、当の楓が、「松葉、常盤」と、名を呼んだことでぴたりと収まる。ふたりは立ち上がりかけていた体勢を改め、すごすごと腰を下ろし、再び夕餉を取り始めた。その様はしゅんと耳と尻尾を垂れて愛らしくさえ見える。
「今度は同時にシてやるよ、楓さま」「極楽へ、共に参りましょう、楓さま」 そう、ふたりがいざなうように囁くと、ぐっと後孔に松葉の肉棒が貫かれ、隘路を押し拓いていく。強く胎の中まで責められ、ナカを圧迫されていく楓が身を弓なりに反らすと、ぐっと腹の上から常盤が触れ、更に花芯を握りしめてきた。「ッあぁう! あ、あぁッ!」「ああ、善いな……すげぇ締る……」「同時に攻められるの、お好きですものね、楓さまは……」「ッは、カハッ……ッは、ああ……あ、ああぅ……」 強い刺激と急激な刺激を同時に与えられ、呼吸が止まりそうになる。はくはくと酸素を求めるように口を開ける楓に、常盤がさらに握りしめている屹立を扱いて快感を加え始めた。先程吐き出した精液のせいで滑りが良く、更なる快感が施されあられのない声を上げる。「あぁッ! とき、わぁ……やめ、あ、ン、ンぅ! ンぅ! お腹、さわら、なぁ……ッ!」「ここに、松葉がいるんですよ、楓さま……わかりますか?」 あお向ける腹をグッと押され、そこにある熱の存在をわからされ、言い知れない恥ずかしさと快感に声が漏れる。「あぁう! ッあ、ンぅ!」「ほら、こっちでも俺を感じてくんな、楓さま。常盤に触られてきゅうきゅうしてくるぜ」「ンぅ、ン、ンあぁ、ンぅッ! まつ、ばぁ……あ、ああ、っや、あぁう」 ぐっと体と体の距離がなくなり、松葉と繋がり合った箇所が熱く溶けていく。屹立を扱かれつつ常盤には唇を塞がれて吸われ、そちらもとろかされていく。「ああ、もう限界だ……気をやりそうだ……」 松葉からの熱が一層硬度を増し、ナカで重圧感を誇示していく。「楓さま、私も、精を注いでようございますか……」 楓がうなずくより先に、常盤の長い剛直が挿し込まれ、ぐっと喉奥まで貫いていく。 息ができないほどの熱に上も下も貫かれ、苦しい。意識も視界もぼやけて朦朧とするのに、拒む気になれない。寧ろ、もっと彼らの熱が欲しくてたまらないのだ。 もっと欲しい、
神事ではないと意識するだけで、触れられるすべてが熱くなっていくのが不思議でならない。しかもそれはただ熱を持つだけでなく、そこからじんわりと甘く痺れていくのだ。「っは、あ、ン……ああッ、ンぅ、ッんん」「随分と艶っぽい声が出るようになったなぁ、楓さま……聞いてるだけで疼いてくるぜ」「ッは、ンぅ!」「ここをこうすりゃ……もっと啼いてくれるか?」 なぶられ赤く染まる胸元に、松葉が軽く歯を立てられ、楓は悲鳴を上げる。鋭くも甘味がある痛みが、じんと腰に響き、疼く。疼きはやがて腰の奥で熱を待ち受ける秘所を刺激し、楓を甘く啼かせた。 松葉の激しい愛撫に啼いていると、その口に常盤の唇が重なり塞がれる。幾度となく交わしてきた口付けの中でも、今宵の物は飛びぬけて濃密に感じられる。 長く絡み合う口付けのあと、そっと唇を離すと、交わる吐息までも互いに甘く熱い。向かい合う瞳がいつになくとろけて見えるのも、きっと互いの想いを知った上での交わりだからだろう。「愛らしい私の神子様……私にもその可愛らしい御声を聞かせて頂けませんか?」 艶めかしく囁く常盤の声にも、楓の肌は泡立ち震える。松葉が雄々しく猛る声色であるならば、常盤は身震いするほどの美声なのだ。 そんな声に捕らえられ、楓は一層四肢の力が抜けていく。身を預けるようにしなだれかかる楓を、ふたりはそっと布団に横たえた。 横たわる楓の口元から胸元にかけて常盤が捕らえ愛撫し、下肢を松葉が舌を這わせていく。胸元も後孔も、複数の箇所を同時に攻め立てられ与えられる快感が、これまでのどのセックスよりも激しい。「あ、ンぅ……ッく、あ、ンぅ、で、出う……出ちゃ……あ、ああッ」「ああ、遠慮なく気をやっちまいな、楓さま……もっともっと気持ち良くしてやるよ」「楓さまのお顔も、御声も、全て愛しいです……さあもっと啼いてくださいませ」「あ、ああッ! ッや、あ、ああ、ンぅ、ン、ンぅぅ……ッ!!」 松葉がきつく屹立の根元を握りしめていたせいで、射精することなく楓は極まってしまった。体を打ち上げられた魚のように
「何故……何故そのような悲しいことを仰るのですか……楓さまは、我々がお嫌いになられましたか?」「常盤……? 何言ってるの、そんなわけないじゃない!」 真実を確認するために述べたに過ぎないのに、まさか泣かれるだなんて思っていなかった楓は、慌てた様子で松葉に同意を求めようと振り返る。 しかし振り返った先の松葉の顔も同様に、ぐしゃぐしゃに涙にぬれて歪んでいた。それはまるで打ち捨てられた子どものように心許ない顔をしている。「……松葉? なん、で……」「なんでもなにもねえよ……楓さまが俺らを嫌いでこの世界から出ていくってのが、悲しくねえわけねえだろ」「そんなことない! そんなことないよ、松葉、常盤!」「じゃあ何でそんなことを言うんだよ!」「共に過ごした日々は無になると言うのですか?!」 腕に抱かれ、泣き叫ばれて、自分は何か思い違いをしているのではないかと楓は気付き始める。しかしそれをそうではないかと確信してしまうには、まだ言葉が足りない。いま食い違う解釈をしている事柄を、落ち着いて、涙を拭いて照らし合わせなければならないのだから。 楓はそれをゆっくりと紡ぎ出し、言葉にして問う。「じゃあ、僕は……神子様の御役目が終わっても、この世界にいて、二人と一緒にいてもいいの?」 一番といたかったことを言葉にし、差し出すと、二人は泣き笑いをしてうなずき、それぞれに答える。しかし言葉より先に、背後で尻尾が大きく揺れていることが、何よりも雄弁にその答えを表していた。「当たり前だろ、楓さま。俺が心からまぐわいてぇ、愛しい相手はあんただけだ」「当然です、楓さま。私が心よりお慕いするのは、あなた様だけです」 自分はどうなのだ、と言葉と視線を差し向けられ、楓はじっと二人の目を見つめる。色気のある垂れた金色の瞳と、涼しげで美しい青い瞳。どちら共にそれぞれの魅力と愛情を感じるからこそ、楓は二人と共にありたいと思う。この先も、ずっと。 だからその想いを、そのまま言葉にして返した。「僕は、この先もずっと、松葉と常盤と一緒にいたい。この世
「……楓さま? どうした? どっか痛ぇのか?」「楓さま? どこか具合が悪いのですか?」 二人の腕に抱かれながら、楓はいつの間にかはらはらと涙をあふれさせていた。胸が苦しくて痛くて仕方ない、しかしそれが、病気やケガでないことぐらいわかっている。どんな意味の痛みを孕んでいるのかもわかっているからこそ、楓は口にするのをためらう。「どうした、どうした。この腹黒狐にイヤらしい触られ方でもしたか?」「それはあなたでしょう、松葉。下衆な勘繰りをする狸にどうこう言われたくありません」ここにきていがみ合う二人の様子に、楓は、「違う、ちがうの……」と、涙交じりに答え首を振る。松葉が楓の目元を指先でやさしく拭い、常盤がそっと背をさすってくれても尚、胸の痛みも悲しみも癒える様子がない。 最初に枕を共にして怯えた時にも泣いてしまっていたが、その時と様子が違うことに二人も気づいたのか、小競り合いをやめ、ただじっと、楓の気持ちが落ち着くまで寄り添っていてくれた。 触れて撫でてくれる手のひらも指先も、時折頬に触れる尻尾も、全てが楓に寄り添うためにここにあるのだと思うと、たまらなく愛しい気持ちが胸に溢れる。溢れ出て口からこぼれ落ちそうになる想いを、伝えてしまいたくなる。 でもそれはできない、してはいけない。何故なら、楓はもうこの世界にいるための役割を終えてしまい、元の世界へ帰らなければならないのだから。(二人を困らせるだけのことを、言っちゃダメだよね……でも、何も言えないのも苦しいよ……) 元々が住む世界が違う者同士なのだから、惹かれてはいけないものなのではないだろうか。半獣と人間、神事として結ばれることはあっても、そこに恋情を混ぜることを許されないのではないだろうか。 これが三人で過ごせる最後の夜になる。交じり合える最後のひと時になる――そう考えるだけで、楓は苦しく、涙が止まらない。 でもそれも、楓の我儘なのだと思えば、堪えてないものにするしかない。なにより、松葉も常盤も、楓と恋情を絡めて結ばれたいと思っているとは限らないのだから。(……そうだ、これは僕の独り善がりだ。二人の気持ちが同じ
ひんやりとした何かが頬を撫でて気持ちがいい……薄っすらとした意識の中で感じるものに、楓は無意識に自ら頬を寄せる。もっと、と、呟いてもいたのか、そちらからも近づいてこられ、密着していく。 冷たいものに頬を寄せている内に、自分の体が火照っていることに気付かされる。どうしてこんなに体が熱いのだろうか……ぼやけたままの意識と、段々と輪郭を明確にしてきた視界をみつめながら楓は考え、そこに映り込んだ人影の名を呼ぶ。「……まつ、ば? とき、わ……?」 名を呼んだそれらは、楓の言葉にホッとしたように息をつき、やがて頬や額に触れてきた。「よく眠ってたな、楓さま。気分はどうだい?」「何か飲み物をお持ちしましょうか?」「ありがとう……いまは、何もいらないよ……」 熱いと自分でもわかる吐息交じりに答える楓に、松葉と常盤が弱く微笑みうなずく。二人が安堵している様子に、楓もほっと息をつく。 どうやら宴会場でしたたかに酔ってしまい、別室に運ばれたようだ。遠く賑やかな宴会場の声が聞こえはするが、この部屋自体はとても静かで、うす暗い。「随分呑まされちまってたみてえだな……気付けなくて悪かったな、楓さま」「無礼講とは言え油断していましたね……すみません」「ううん、そんなにたくさんは呑まされてないから……ちょっと、場に慣れてなかったのもあるのかも」 そう言いながら楓が身を起こすと、二人は揃って支えようと手を差し出してくる。両脇から抱きかかえられるようにして身を起こし、常盤が差し出す水差しで水分を補給する。ほんのりと甘いそれが火照る喉と体に心地いい。「ごめんね、折角の宴会なのに、僕のせいで抜けることになって……。もう大丈夫だから、戻っていいよ」「いいんだよ、みんな俺らの帰還にかこつけて飲みたいだけなんだから」「それよりも私は楓さまが心配ですから……お傍に、いさせてください」 それぞれから苦笑気味にそう言われ、楓はお言葉に甘えて二人にそのままいてもらうことにした。二人のあたたかな腕に包まれていると、無意識のうちに体に力が入っていたことに気付かされる







