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*四ノ二

last update Date de publication: 2025-09-01 18:00:33

「いやぁぁ! やだ、やだぁ!!」

「おい、どうしたんだ、神子様よ! おい、常盤、どうなってんだ!」

「わかりませぬ……。神子様! お気を確かに! 誰か、誰か来てください!」

 悲鳴を上げ、ねやを転がるように逃げ惑う楓に、松葉も常盤も手が付けられないのか、傍に仕えているらしい者などを呼び寄せ、なにやら指示を飛ばしている。しかし誰ひとりとして、楓の悲鳴を止めることができないでいる。

 自分でもなぜ叫び続けているのかすらわからなくなるほど、寝所の隅でうずくまって震えていると、何かがそっと楓の体を包んでくれた。

 悲鳴と共に溢れた涙で濡れた顔を上げると、松葉と常盤が、申し訳なさそうに眉を下げた顔でこちらを見つめている。楓もかなり泣き濡れているが、二人もまた、泣き出しそうな顔をしていた。

 先程まで自分をなぶるようにしていた者達が何でそんな顔を……と、考え始めると、不思議と楓の気持ちは落ち着きを取り戻し、呼吸も次第に穏やかになっていく。

 泣きじゃくっていた様子から段々と引きつれるような泣き方に変わる頃には、随分と呼吸も楽になっていた。

「申し訳ございません、神子様……無体をはたらいてしまいました……」

「む……たい?」

「無理に体を割ろうとして、悪かったってことだ。まさか、ここまで何にも知らねえとは思わなくてよ……」

 キスすらも知らない初心すぎる童貞が連れてこられるだなんて、思ってもいなかったという口ぶりに、楓は恥ずかしさで身を焦がしそうな思いがしたほどだ。きょうび珍しいほどに恋愛関係や色ごとに疎いのは、自覚があるからだ。

「……ごめ、んなさい」

「いえ、謝らないでください、神子様。清らなあなた様に無理を強いたのは我々なのですから」

「怖い思いさせちまったな……すまなかった、神子様」

 常盤に背をやさしくさすられつつ、松葉に頭を撫でられると、不思議と先程までの恐怖が和らいでいく。引き攣れるようだった泣き方も収まり、呼吸はもう普段通りになっている。

 その様子に二人も安堵したのか、ほっと息を吐き、顔を見合わせつつ傍に控える、先程の猫耳の侍女に声を掛けた。

「今宵の神事は中止です。神子様がお疲れのようですから」

「よぅくお休みになれるようにしてくんな」

 頼んだぞ、と、言い置き、松葉と常盤はそろって寝所を出て行く。二人が揃って御簾をくぐって向こうに消えると、楓はゆるゆると息を吐いた。そっと手を見ると、震えていたはずの指先が静かになっていた。

 交わるという神事は、今日の所は取りやめになった。侍女らが相次いで寝所に出入りし、楓を布団の中にやさしく横たえさせる。体は痛くないか、とか、何か欲しいものはないか、とか、色々聞かれるけれども、いまの楓に必要なのはただ静かでひとりになれる場所だった。

「……だいじょうぶです。ごめんなさい」

 それだけをようやく呟いたあとは、目をつぶって布団を頭まで被りじっとうずくまる。ゆっくり息を吐き、吸ってを繰り返していると、段々と緩やかに眠気に吸い込まれていく。

(寝て起きたら……僕の部屋に戻ってるってこと、ないかな……)

 しかし触れる布団のやわらかさも、肌のぬくもりも、全てが夢とは思えないリアルさがある。何より、今しがた感じた恐怖は、ただの夢と片付けるには生々しい。だからきっと、これは夢ではないのだろう。

 信じがたい現実の光景を前に、あまりの疲労に楓は意識を手放していた。

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  • 異世界で神子になり半獣ふたりに溺愛されました   *二十七ノ二

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  • 異世界で神子になり半獣ふたりに溺愛されました   *四 神事の失敗

     二人に任せる、と楓が呟いた次の瞬間、景色が反転し、松葉に口付けられていた。 キスは、いきなり舌を口中に挿し込むような深いもので、いやおうなしにこじ開けられる。床に縫い付けられるように押し倒された楓は、重なる大きな身体になすすべなく蹂躙されていく。「ン、ンぅ! ンぅ、んっぐ!」 キス自体が初めてなので、最中の呼吸の仕方もわからない。吸われるがままに舌を吸われ、なぞられるままに歯列も上あごもなぞられる。舌先が触れるたびに、ゾクゾクとした寒気とも違う何かが背筋を這っていく。それを、体のどこかが気持ちがいいものと認識しつつあること

  • 異世界で神子になり半獣ふたりに溺愛されました   *三 まぐわいの意味を知る寝所

     交わる、睦み合う、という言葉が何を指しているかが全くわからないほど、楓も無知ではないつもりだが、具体的に何をするのかまではわかっていない。(もしかして、ただハグをして、キス……くらいかもしれない、よね……?) そんな淡い期待をしてはみたものの、支度と称して広い風呂場に連れて行かれ、体の隅々を付き従うお着きの女性たちに洗われた辺りから、それが打ち砕かれていった。 早くに親を亡くして以来、自分のことは自分でこなしてきた楓は、記憶にないくらい昔にしか誰かと風呂を共にしたことがない。それなのに、いまは全く知らない、それも妙齢の女性たちにあられもな

  • 異世界で神子になり半獣ふたりに溺愛されました   *二ノ二

     戸惑いを隠せない楓を前に、老爺に目配せをし、傍に控えていた常盤が言葉を引き継ぐ形で口を開く。「古来より、松柏国では、国の危機に瀕した際に神子を異世界より呼び寄せる習わしとなっております。そうして、この国をお助けいただきたく――」「ま、待ってください! 僕はそんな、国を救えるような能力とか特技なんてとてもじゃないですけど、ありません! 何かの間違いでは……」 だから、一刻も早く元の世界に帰してほしい。代返を頼んだ友人にもいいわけが立たない――そう、言い募ろうとする楓に、さらに松葉が口を開く。「神子様はよぉ、あっちの世界で獣に

  • 異世界で神子になり半獣ふたりに溺愛されました   *二 辿り着いたのは、異世界の半獣の国

     まばゆくて目を閉じているのに、光は目蓋を突きさすほど鋭くない。やさしい手触りさえ錯覚するようなそれに包まれていた楓は、やがて光が段々と弱まっていくのを感じた。 何か不思議なものにいざなわれるようについて来て、そうして光に包まれ……どこかに“着いた”のを感じ、恐る恐る眼を開けてみる。まず目に飛び込んできたのは、自分の履き慣れたスニーカーのつま先だった。 あ、いま自分は立っているんだ……体もどこも痛くない……そう、現状を把握し、ひとまずの安堵の息を吐いてゆっくりと眼を開け、顔を上げていく。そうして視界に飛び込んできたのは、自分より少し歳が上ぐらいかと思われる

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