店員が口にした名前が、私を完全に混乱させた。「津賀詩恩?このイヤリングの持ち主が、津賀詩恩だって言うんですか?」信じられず、私は念を押した。店員はうなずいて言った。「はい。このダイヤの刻印番号から確認すると、四年前に詩恩さんが、こちらで購入されています」店を出ると、まぶしいほどの陽射しが降り注いでいたのに、なぜか体の芯から冷え切っていくのを感じた。――どうして、あの女が詩恩のイヤリングを持っているの?彼女が亡くなったあと、誰かが盗んだの?それとも、詩恩は……そもそも死んでいない?けれど、以前に探偵が調べた資料では、彼女は事故で下半身不随になったはずだった。昨夜、あの女が走り去ったときの足取りは、あまりにも軽やかだった。とても足が悪い人の動きには見えない。真相を確かめるため、私はその日のうちにイギリス行きの航空券を手配し、探偵から聞いていた住所を頼りに、詩恩が四年間暮らしていた精神病院を訪ねた。手がかりを得るには、相当苦労するだろうと思っていた。けれど、詩恩が亡くなったあと、時生はこの精神病院をほぼ投げ売り同然の価格で手放していたらしい。つまり、すでにこの病院は時生とは無関係だということだ。そこで私は一定の費用を支払い、事情を知る人物を直接紹介してもらった。対応してくれたのは、白髪交じりの看護師長で、名前はグレースという女性だった。「津賀詩恩」という名前を聞いた瞬間、彼女のブルーグレーの瞳がふっと陰る。不思議そうに私を見て、彼女は尋ねた。「あなたは、詩恩さんとは……どんなご関係ですか?」私は時生との結婚写真を取り出して見せた。「彼女は、私の夫の友人です」回りくどい言い方はしなかったし、誰かを気にするつもりもなかった。――時生に知られたところで構わない。むしろ、ちょうどいい。彼にも一緒に確かめてもらえばいいのだから、彼の忘れられない人が、本当に死んだのか、それとも生きているのかを。グレースは目を見開き、驚いたように言った。「そんな……時生さんには、もう奥様がいらっしゃったんですか?私たちはてっきり……」「詩恩が彼の妻だと思っていた、ですよね?」英語でそう返すと、グレースは気まずそうにうなずいた。私は続けて聞いた。「詩恩のことを、詳しく教えてもらえませんか?特に…彼
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