袋いっぱいに血が溜まった頃、額には細かな冷や汗がびっしり浮かび、めまいで吐き気すら覚えた。天井の灯りも、視界の中でぼんやりと滲んでいく。異変に気づいた医師が時生に向かって言った。「時生社長、昭乃さんは危険です。これ以上の採血は……」時生は眉間に皺を寄せ、血の入った袋を見つめながら問った。「これだけで、娘に足りるのか?」「それが……」医師はため息を洩らし、続けた。「ここにあるのは二百ccだけです。お嬢さんには今日、少なくとも六百ccは必要です」私はリクライニングチェアに身を預けたまま、時生の指示が下らない限り、医師は針を抜こうとしなかった。視界はじわじわと暗く、そしてぼやけていく。唯一鮮明なのは蛍光灯の下に浮かぶ時生の鋭い横顔と、その目に宿る冷ややかな光だけだった。医師が恐る恐る問いかけた。「時生社長、まだ……続けますか?」「続けろ」たった一言。淡々とした声音だったが、まるで動脈を断ち切る刃のように容赦がなく、いささかの余地も残さなかった。温かな血が体から吸い出されていくのにつれて、私の体温は一寸ずつ冷えていく。一生愛すると誓ったはずの男は、今この瞬間、私の命を顧みず、私の血を他人の命に繋ごうとしていた。耐え難いめまいに目を閉じると、氷のように冷たい雫が頬を伝った。それを涙だと認めたくなかった。こんな男のために泣くなんて、あまりに愚かしい。暗闇に飲み込まれる直前、慌ただしい声が耳を打った。「血圧が落ちてます!急いで!アドレナリンを打ってください!」「体温三十五度まで下がってます!」「……」その騒然とした中に、時生の声が混じった。「必ず生かせ!」もう目を開けることはできない。ただ、かろうじて意識と聴覚だけが残っていた。胸の奥に狂った笑いがこみ上げる。生かせだなんて、笑わせる。彼の言葉も行動も、すべては私を奈落に突き落とすものだった。命の縁まで追いやっておいて、いざ死にかけると救えと命じる。きっと、生きている私がまだ必要だから。娘のために、血を差し出す存在として。……どれほど眠っていたのかはわからない。目を覚ますと、全身に力が入らず、鉛のように重かった。その手を、誰かの温もりが包んでいた。時生がベッドの傍らに座り、今にも眠りそうな顔で私の手を強く握りしめていた。じっ
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