私は彼をにらみつけ、真剣に言った。「時生、もう帰って」「どこへ?」彼はちらっと私を見ただけで、勝手にベッドに上がり込み、私の隣に横になった。私は必死で反対側へ身をよじる。この男が優子と何度も寝たと思うだけで、汚らわしくて仕方なかった。蹴り落としてやりたいくらい。けれど、麻酔が切れたばかりで足もおぼつかず、逃げられる場所なんてない。「娘と愛人が家で待ってるでしょ。ここは、あなたの居場所じゃないわ」時生は少し眉を寄せ、すぐに小さく笑った。「先月のこと、覚えてないのか?君、レースのネグリジェ着て書斎に来ただろ。あのときは、そんなに取り澄ましてなかったのに」思い出した瞬間、胸の奥が焼けるように恥ずかしく、私は唇を噛んだ。後悔でいっぱいだった。私は本来、そんなに大胆な女じゃない。けれど、月に一度の夫婦の営みだけではなかなか妊娠できなかった。もう一人子どもがほしくて、何度も自分を奮い立たせた。そして、彼が昔よく褒めてくれた黒いレースの下着を身にまとい、書斎に向かった。羞恥心を押し殺して彼の膝にまたがり、必死に唇を重ね、身を寄せた。けれど、どんなに求めても、彼は反応すら見せなかった。最後には私を突き放し、上着を投げつけて言った。「どこで覚えた、そんなけばけばしい真似」それきり机の上の数珠を指先で転がしながら、私のことなど目に入れもしないで部屋を出ていった。そのときの私は、彼に外に女と娘がいるなんて知らなかった。ただ「戒律」を理由に拒んでいるのだと思っていた。けれど、優子の前ではすべて破っていたのだ。あの夜の惨めな記憶を振り払うように、私は無理に笑みをつくり、彼を見返した。「もう二度と、あんなことはしない。だから安心して行って。ここには、あなたが泊まれる場所なんてないの」時生の目が険しくなり、冷たい声が返ってきた。「君が俺の妻じゃなかったら、誰が好き好んで君なんかに構うか」私は耳を疑った。彼は、まだ私を「妻」として認めていたのだろうか。言い争う気はなかった。どうせ何を言っても、この人には届かない。けれど、その一言があまりに気持ちが悪く、思わず口をついた。「私がケガしたとき、あなたは知らんふりをしていた。手術のときも来なかった。私がいちばんあなたを必要としていたとき、あなたはいなかったのよ
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