ホテルの部屋に、静けさが降りていた。絶頂の余韻がまだ皮膚の奥でじくじくと疼く。だが、汗ばんだ体温が冷えていくにつれて、瑛司の胸の中にも不思議な空洞が広がっていく。蓮はシーツの上で仰向けになり、無造作に片腕を投げ出している。窓の外には街灯の淡いオレンジがぼんやりと滲み、カーテン越しに夜の街のざわめきがかすかに伝わってきた。瑛司は蓮の肩を抱き寄せることも、何か言葉をかけることもできずにいた。裸のままベッドに沈み、胸の鼓動だけが自分の存在をかろうじて主張している。先ほどまであれほど近く、すべてを曝け出していたはずの蓮が、今はまるで手の届かない場所にいるように思える。蓮は起き上がり、ベッドサイドのテーブルから煙草とライターを取り出した。裸のままシーツを腰に巻きつけ、窓辺へ歩いていく。その背中は細く、しなやかで、どこまでも孤独に見えた。「……タバコ、いい?」瑛司は微かに首を振るだけだった。蓮が火をつける。ぱちり、とライターの音が夜の静けさを切り裂く。一口目の煙が、カーテンの隙間から漏れる光をくぐって、ゆっくり天井へ昇っていく。「東條さんって、意外と執着するタイプ?」蓮は、淡々とした声で言った。その声音には、あの行為の最中に浮かべていた苦しげな表情も、かすかな涙も、跡形もなかった。「……さあ、どうだろう」瑛司は答えながらも、自分がどこか別の場所に置き去りにされたような気分になっていた。執着――その単語の鋭さが、胸の内側をひっかく。蓮は振り返らず、窓の外を眺めたまま煙を吐く。オレンジ色の光に、淡い煙の筋が交じる。ベッドの上で身動きもできずにいる瑛司を、蓮はまるで“遠い他人”のような声で問い詰めてくる。「既婚者なのに、こんなことして後悔しないの?」「……わからない」正直に、そう答えるしかなかった。本当は、“後悔”とい
Última atualização : 2025-09-10 Ler mais