寝室の明かりを消すと、部屋はほんのりと蒼く沈む。遮光カーテンの隙間から漏れる街灯の光が、壁にぼんやりと影を描いていた。静かな夜だった。冷房の微かな風がシーツの端を揺らし、遠くで車の音が小さく途切れ、すぐまた静寂が戻る。ベッドの上で瑛司は、天井を見つめていた。隣には美月が静かに身を寄せている。薄手のパジャマ越しに肌がふれ、柔らかな香りが漂う。日常は、こうして何事もなく続いているはずだった。美月の指先が、そっと瑛司の腕に触れる。「ねえ…今日は」その声は思ったよりもかすれていて、瑛司は一瞬だけ返事を迷う。けれど、そのまま黙っていることもできず、美月の肩に手を添える。「うん…」応えると、美月は小さく息を吐き、そっと唇を重ねてきた。熱くも冷たくもない、乾いたキス。そのまま、彼女の細い指が胸元に滑り込む。パジャマのボタンを外しながら、美月の手が躊躇いがちに動くのが伝わる。「久しぶりだね」「そう、だな」言葉が遠い。他人事のように、どこかで自分を見下ろしているような感覚。美月の髪が頬にかかる。シャンプーの甘い香りが鼻腔をくすぐるのに、どこか現実感がない。美月の指が腹の上をなぞる。だが、肌の奥まで熱が届いてこない。むしろ冷たい感覚が残る。「瑛司…?」不安を含んだ声。美月は瑛司の顔を覗き込む。その瞳の奥には、言葉にできない何かが揺れていた。「ごめん…ちょっと、疲れてて」「仕事、大変?」「ああ、最近…」曖昧な答えしか出てこない。自分の心がどこにあるのかも分からず、美月の温度を受け止めることができなかった。美月はしばらく黙って、手を引っ込める。部屋に、時計の秒針の音だけが響く。瑛司は背中を向け、目を閉じた。焦りと虚しさが、じわじわと胸を満たしていく。美月に触れたいと思っているはずなのに、身体がついてこな
Huling Na-update : 2025-09-05 Magbasa pa