しかも、奈穂はあれほど彼を愛しているのだ。たとえ正修と一緒にいたとしても、彼女が正修に心を奪われることなど絶対にありえない。正修は奈穂を抱えて病室に戻った。部下たちは二人を見て、一瞬呆然とした。「社長、どうされたんですか?水戸さんを迎えに行かれたのでは?どうして……」話しかけたのは、昨日、レストランに正修を迎えに行った若い男、横村二郎(よこむら じろう)で、彼は正修の腹心だ。今日、奈穂に病院に来るよう電話したのは、実は二郎の独断だった。彼は、正修が奈穂に特別な感情を抱いているのではないかと直感していた。だから、勝手に電話をかけたのだ。正修はそれを知っても二郎を責めなかったが、ただ冷たい一瞥をくれ、そのまま奈穂を迎えに出て行った。――まさか、奈穂を抱きかかえて戻ってくるとは!しかも、水戸さんの様子が、どうもおかしいようだ。正修は奈穂をベッドの端に座らせ、眉をひそめて二郎に言った。「医者を呼んでくれ」「はい」二郎はすぐに隣にあるナースコールを押したが、心配になり、自ら医者を探しに行った。他の部下たちは空気を読んで中に入らず、病室には正修と奈穂の二人だけが残された。「奈穂、俺を見てくれ」正修は彼女の前に立ち、腰をかがめて、彼女の目を見つめた。「俺は九条正修だ。もう大丈夫だ」奈穂は、焦点の定まらない目で彼を見た。「九条……正修……」「そうだ」正修は手を上げ、彼女の肩をそっと叩いた。「君は今、安全だ。怖がることはない。俺がいる」奈穂は目を閉じ、二粒の涙が、雪のように白い頬を伝ってゆっくりと流れ落ちた。彼女はついに少し意識を取り戻した。再び目を開けたとき、その瞳は澄み切っていた。「申し訳ありません、九条社長。取り乱してしまいました。先ほどは助けていただき、ありがとうございます。また、あなたに一つ借りを作ってしまいましたね」奈穂が立ち上がろうとすると、正修はそっと彼女の肩を押し、座り続けるように促した。「ゆっくり休んでくれ」正修は言った。「君はさっき、ひどく驚いただろうから」奈穂は苦笑した。驚いたのは確かだが、二年前のあの交通事故のトラウマがなければ、ここまで取り乱すことはなかっただろう。奈穂の視線は、自分の右足に落ちた。正修も彼女の右足を見て、目を
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