やはり、奈穂の力が必要だった。以前、水紀を助けてくれと頼んだとき、奈穂はあまり乗り気ではなさそうだった。だが、構わない。奈穂をしっかり甘やかしてあげれば、拒否はしないだろう。「先に出て行って、奈穂を……水戸秘書を呼んでくれ」北斗に涙を拭かれ、いくつかの甘い言葉と最新のブランドバッグを買ってもらう約束をされた水紀は、ようやく渋々オフィスを出ていった。奈穂が見当たらなかったので、誰かに尋ねると、彼女が給湯室にいると分かった。給湯室に入ると、案の定、奈穂がコーヒーを淹れているのが見えた。コーヒーの香りが漂っていたが、水紀の心にある怒りと嫉妬は鎮まらなかった。彼女は奈穂の後ろ姿を冷たい眼差しでじっと見つめ、まるでその視線で相手を引き裂かんばかりの勢いだった。奈穂は振り返らなかったが、まるで誰が来たか分かっているかのように、口を開き淡々と言った。「何か用?」「兄が、あなたのことをオフィスに呼んでるわ」水紀は冷たく言った。その言葉を聞いても、奈穂は焦ることなく、ゆっくりとコーヒーを淹れカップに注ぎ、角砂糖を一つ入れて、ゆっくりとかき混ぜた。そんな彼女の態度に、水紀はますます腹が立ってきた。「私の言ったことが聞こえなかったの?」「水紀」奈穂は顔を上げた。その瞳には鋭さが宿っていた。「人にお願いするときは、お願いする側の態度というものがあるはずよ」「あなた……」水紀は突然、目を見開いて怒鳴った。「あなたでしょう、そうに決まってるわ!裏で手を回したのね?わざと私を困らせるように、クライアントに言ったんでしょう?」「考えすぎよ」奈穂は彼女を軽蔑するように口元を歪めた。彼女は何もしていなかった。だが、この結果はそもそも予想していたことだ。まず、プロジェクトは最終段階に入っているとはいえ、簡単に片付くものではなかった。そして、水紀に才能がないことは、彼女は知っていた。大学時代に接点があったし、以前、北斗が何気なく水紀について話したことから、奈穂は推測することができた。最も重要な点は、もし水紀に本当に能力があるのなら、北斗がわざわざ既存のプロジェクトを水紀に任せる必要があっただろうか?このような重要なプロジェクトの担当者を急に変えるのは、全くもって不適切だ。そのことを北斗が知ら
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