北斗は仕方なく、廃工場の中へ足を踏み入れた。重い鉄扉を押し開けると、かび臭い空気が一気に鼻を突く。彼は眉をしかめる。ふと横を見ると、二人の男が煙草をくゆらせていた。北斗の姿を認めるや、二人は慌てて煙草を揉み消し、にこやかに頭を下げる。「伊集院社長、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」そう言って奥へ案内しようとする。北斗は冷ややかに問いかけた。「彼女は本当にここで待っているのか?」「中へお入りいただければ分かります」二人は穏やかに答え、そのまま歩き出す。北斗は後を追うしかなかった。倉庫の中は想像以上に荒れ果て、あちこちに廃材や壊れた部品が散乱している。彼は露骨に顔をしかめた。最奥まで進むと、目立たない小さな扉が一つある。男の一人が壁際を探り、どこかのスイッチを押したらしい。扉が音もなく開いた。そこには、地下へと続く階段が姿を現した。二人はスマートフォンのライトを点け、顎で合図しながら先に降りていく。「足元にお気をつけください」北斗は不機嫌そうに眉を寄せたまま、後に続いた。なぜこんな場所で会わなければならないのか。相手は名家令嬢のはずなのに、こんな場所を嫌がらないのか。だが、階段を下るにつれ、違和感が芽生える。微かに音楽が聞こえる。どこからともなく香水の匂いも漂ってくる。「ここは……一体何だ?」「着けば分かります」同じ答えに、北斗は思わず呆れそうになった。この二人、まるでロボットみたいだ。階段を降りきると、さらに複雑に曲がりくねった通路を進み、やがて一枚の鉄扉の前で止まる。男が指紋認証装置に指を押し当てると、重い音とともに扉が開いた。中を見た瞬間、北斗は目を見張った。廃倉庫の地下とは思えない、豪奢な空間が広がっている。煌びやかな照明。音楽に身を任せ踊る者たち。カードテーブルで山のようなチップを押し出す者。バーカウンターでバーテンダーと戯れる者。まさに、享楽に溺れる世界だった。二人の男は北斗の反応を当然のように受け止め、さらに奥へと促す。北斗は我に返り、歩みを進める。見渡せば、京市で名の通った名家の子弟たちが少なくない。ふと誰かの視線が自分に向いた気がして、北斗はすぐに顔を背けた。今の自分は、まるで追い詰められた野良犬のようだ。陰で嘲笑われているの
Read more