消えるキオクと残るキミの温もり のすべてのチャプター: チャプター 51 - チャプター 60

74 チャプター

50話 別れの予感と絶望

 ユウカは、絶頂の波に溺れ、全身から力が抜けていくのがわかった。その時、ふと、脳裏に「妊娠」という二文字が、稲妻のように閃いた。俺は、その言葉に、はっと我に返った。俺たちは、まだ高校生だ。この場所で、このまま出してしまえば、ユウカは、どうなってしまうのだろうか。 俺の体は、理性に突き動かされるように、反射的に、ユウカの内側から、息子を引き抜いた。「えっ……どうしたの……?」 絶頂の余韻に浸っていたユウカは、突然の出来事に、戸惑ったような声で尋ねてきた。俺は、何も言わずに、彼女を後ろから強く抱きしめ、俺の息子を扱きながら、彼女の耳元に、熱い息を吹きかけた。「ごめん、ユウカ……」 そして、俺は、熱い精液を、地面へと、すべて吐き出した。その熱い精液は、冷たいアスファルトの上で、白いシミを作った。俺は、絶頂の余韻と、ユウカへの申し訳ない気持ちで、ただただ、彼女を強く抱きしめることしかできなかった。 ユウカは、絶頂の余韻に浸っていた。だが、俺が息子を抜いてしまったことに気づくと、彼女は、俺の腕の中で、ゆっくりと、不満そうに、だが可愛らしく、身動ぎした。 そして、俺の胸に顔をうずめたまま、拗ねたような、小さな声で言ってきた。「……むぅ……中に欲しかったのにぃ……いじわるぅ」 その言葉は、俺の耳には、子供が駄々をこねているかのように聞こえた。だが、俺は、その言葉に込められた、彼女の切ないほどの、俺への愛情を感じていた。 気付くと、太陽は西の空へと沈み、辺りはすっかり暗くなっていた。俺は、一人で帰るのが怖いと言っていたユウカを思い出し、彼女を家の近くまで送り届けることにした。 静かな夜道、俺はユウカの手をしっかりと握っていた。いつもなら、楽しそうに、そして嬉しそうに、俺の隣を歩くユウカが、その日は珍しく、不機嫌そうだった。 その日の夜から、ユウカからのメッセージが途絶えた。翌日になっても、彼女からの連絡はなかった。
last update最終更新日 : 2025-11-10
続きを読む

51話 アオイの優しさと罪悪感

 相手に、24時間、俺のことを思ってもらわなければ、記憶が消えてしまうという現実。 付き合い始めたばかりの、盛り上がっている時期なら、一日中、俺のことを考えてもらうことは可能かもしれない。だが、これが半年後、一年後になったらどうだろうか。お互いが信頼し合い、自分の生活を送っていたら、それは不可能だろう。 このまま、彼女に話しかけても、また同じことの繰り返しだ。俺との思い出は、彼女の記憶の中から、またすぐに消えてしまう。そんなことを、俺は、もう繰り返したくはなかった。俺は、これ以上、ユウカを悲しませるわけにはいかない。そう思い、俺は、静かに、その場を立ち去ることにした。 家から少し離れた公園に立ち寄ると、夕暮れの空が、どこか切ない色をしていた。俺は、人影の少ないベンチに腰を下ろした。目の端に、楽しそうに笑い合う女子グループの姿が映る。今は、誰とも話をしたくない。誰とも、顔を合わせたくない。「はぁ……」 深い溜息が、乾いた空気に溶けていった。その時、聞き慣れた、明るい声が、俺の耳に届いた。「わっ!? ユイト兄ー!? ひさしぶりっ! お兄とケンカでもしたのー?」 ハルナだった。満面の笑みを浮かべた彼女の顔が、俺の視界に入ってくる。その無邪気な笑顔に、俺は、無理に笑みを浮かべて答えた。「え? いや。最近忙しくてなー」 ユウカの記憶が消えてしまったように、ハルナも、俺との甘いひと時を、完全に忘れている。そんなハルナに、甘えて慰めてもらいたい気持ちもあった。だが、それは、今の俺が求めているものではなかった。ハルナは、いつも元気いっぱいで、明るく、楽しい。だが、今の俺は、ただ静かに、そっと寄り添ってくれるような温かさを求めていた。今は、そういう気分じゃなかった。 ハルナは、能力を手に入れる前から、俺に好意を寄せていた。それは、俺も知っていたことだった。そして、その思いは、本人からも直接、伝えられたこともあった。だが、彼女は、そのことを、もう覚えていない。 それでも、ハルナは、俺を心配そうに、チラチラと見ては、気にかけてくれている。その優しさが、今の俺には、たまら
last update最終更新日 : 2025-11-11
続きを読む

52話 ときめきと罪悪感の狭間

 俺の問いに、アオイは、少しだけ慌てたように答えた。「え……あ、はい。球技は苦手なんです。体育の授業でバレーボールをやってるんですけど……諦めちゃいました」 その言葉を聞いて、俺は、心の中で、大人たちへの不満を吐き出した。大人たちは、「苦手なことから逃げないで挑戦しろ!」と言うけれど、自分たちはどうなんだ? 嫌な仕事を後輩や部下に押し付ける、なんて話もよく聞く。苦手なものがあって、そこから逃げたっていいだろう。ましてや、運動が苦手な人が、無理をして体を壊す必要はない。苦手なことよりも、得意なことを伸ばせばいい。 諦めることも、時には必要なことだ。無理に続けて、ストレスが溜まり、その運動自体が嫌いになってしまうことだってあるだろう。「あはは……うん。無理することないと思うぞ。無理してケガをしても痛いだけだしなー楽しく遊んでる程度で良いと思うけど」 俺は、自然と、そう答えていた。アオイは、俺の言葉に、安心したように、優しい笑みを浮かべていた。 俺の言葉に、アオイは、少しだけ照れくさそうに、だが、とても嬉しそうに微笑んだ。「あれ? わたしが相談してるみたいになっちゃってますよーでも、ありがとうございます。えへへ♪」 彼女の純粋な笑顔と、屈託のない笑い声が、俺の心を温かく包み込んでいく。さっきまで、あんなにも重苦しかった気分が、不思議と軽くなっていくのを感じた。 俺は、アオイに声をかけられ、不思議と気分が少しずつ晴れていくのを感じていた。「ふぅ……少し元気になったかな。この辺に自販機ってあったっけ?」 この辺りの土地勘が、あまりない。ハルナの家と公園、そして、その帰り道しか知らなかった。そんな俺の言葉に、アオイは、少しだけ眉をひそめた。「え? もう、元気に? えっと……わたし、なにもお話聞いてないですけど? わたしの悩みを聞いてもらっただけなのですけど?」 アオイの不満げな声に、俺は思わず、笑ってしまった。「あ
last update最終更新日 : 2025-11-12
続きを読む

53話 景色の良い高台で

 アオイの言葉に、俺は、彼女の真意を悟った。ああ、そういうことか。次回も会いたい、とそう言っているんだな。だが、俺は、心の中で、彼女の言葉とは裏腹に、残酷な現実を思い浮かべていた。残念ながら、彼女は、俺と会ったことなんて、すぐに忘れてしまうだろう。改めて、その現実を実感した。「そうだな。次回奢ってあげるよ。よくハルナちゃんの家に、遊びに来てるしなー」 俺がそう言うと、アオイは、パッと顔を輝かせた。「そうなのですね。やったぁ」 どうせ、明日には俺のことなんて忘れてしまうのだから。それならば、今のうちに、彼女を精一杯喜ばせて、その可愛らしい笑顔に、この傷ついた心を癒してもらいたい。 俺とアオイは、公園の奥へと進んでいった。すると、見晴らしの良い高台に、柵が設置された場所があった。そこから見える景色は、昼間の街並みが一望でき、とても綺麗だった。 俺がその景色を眺めていると、アオイは、そっと俺のTシャツの裾を掴み、隣に立った。「ここからの景色、最高じゃん」 俺がそう言うと、アオイは、心底嬉しそうに、はにかむように微笑んだ。「ですよね。わたしも、ここからの景色が好きなんです……一緒に見られるなんて……」 言葉の途中で、彼女は話すのをやめてしまった。その代わりに、その白い頬を、真っ赤に染めている。俺は、その様子に、少しだけ意地悪な気持ちになり、言葉を続けた。「あぁ、彼氏と来たかったとか? 中一だもんなぁ」 俺の言葉に、アオイは、驚いたように目を丸くしたが、彼氏の存在を否定することはなかった。てっきり「彼氏なんていませんよ!」と、元気よく否定すると思っていたのに。 俺が少し意地悪な気持ちになり、言葉を続けると、アオイは、俺の顔を、真っ直ぐ見つめてきた。「ふぅーん、意外ともう、その彼氏と来てたりして?」 俺の言葉に、アオイは、少しだけ俯き、頬をさらに赤く染めた。そして、小さな、だが、はっきりとした声で言った。「彼氏……ではないですけど、好きな
last update最終更新日 : 2025-11-13
続きを読む

54話 純粋な願望と戸惑い

「……あ、それ、新作出てたんだな? 美味しいか?」 俺の言葉に、アオイは、パッと顔を輝かせた。「はい。美味しいですよ。あ、味見……しますか?」 今度は、彼女の頬が桃色に染まり、潤んだ瞳を上目遣いにさせて、小さなペットボトルを差し出してきた。その仕草は、とても可愛らしかった。「あーありがとな。ちょっとだけもらうな」 俺は、差し出されたペットボトルを、そっと受け取った。彼女は、俺がジュースを飲む間、じっと俺の顔を見つめていた。その表情は、期待と、少しの恥ずかしさが混ざり合っていて、その頬は、さらに赤く染まっていた。 俺がジュースを一口飲むと、アオイは、期待に満ちた瞳で、俺の顔をじっと見つめていた。「美味しいですよね……?」 その声は、まるで自分のことのように、嬉しそうだった。俺は、その純粋さに、自然と笑顔になっていた。「だなー! 美味しいな! 俺も次、買おっと……あ、間接キスになっちゃうな……悪い」 俺は、何気なくそう言って、飲み口をTシャツで拭こうとした。すると、アオイは、慌てたように、俺の手からペットボトルを回収した。「え? あ、ダメですっ」 その反応に、俺は少しだけ意地悪な気持ちになり、言葉を続けた。「え? だって……アオイちゃん好きな人がいるんだろ?」「そうですよ。いますよ……目の前にぃ……もぉ。鈍感さんなんですから……さっき、いっぱい、いっぱい……勇気を出して誘いましたよっ」 アオイは、そう言って、真っ赤になった顔を、俺に突きつけてきた。その言葉と、その表情に、俺は、ただただ、驚くしかなかった。「え? 好きな人がいるって……」 俺が戸惑いながら尋ねると、アオイは、少しだけ俯きながら、だ
last update最終更新日 : 2025-11-14
続きを読む

55話 衝動と確認のキス

 そして、彼女の柔らかい頬に、優しく、ちゅっと音を立ててキスをした。その頬は、想像していたよりもずっと柔らかく、スベスベしていた。キスをしたのは俺なのに、ぞわっという、全身が粟立つような快感が、俺の体を駆け抜けていった。「あぅ……ひゃ、キスされちゃいました。わ、わぁ……」 アオイは、そう言って、瞳を潤ませながら、顔を真っ赤に染めて固まっていた。その様子は、まるで、初めて経験する出来事に、頭が真っ白になってしまったかのようだった。 アオイの頬にキスをすると、俺の方がゾクゾクと快感を覚えた。俺は、彼女の可愛らしい反応を、もっと見ていたくなった。「アオイちゃんの頬、柔らかくて……気持ちいいな。もう一回……良いか?」 俺の言葉に、アオイは何も言わなかった。ただ、コクリ、コクリと、何度も頷いた。その可愛らしい仕草に、俺は、再び彼女の頬に顔を近づけた。 再び桃色に染まり、柔らかなアオイの頬に、俺は、吸い付くようにキスをした。そして、そのまま、ゆっくりと、舌を這わせ、舐めてしまった。だが、アオイは、それを嫌がることはなかった。俺の腕を掴み、プルプルと震えている。それは、恐怖からくる震えではない。ゾクッとした快感からくるものだと、俺にはわかった。「……んっ、はぁ、はぁ……っ。や、やぁ……く、くすぐったい……んぅ……」 アオイから漏れ出る甘い吐息と、震える声が、俺の耳に、心地よく響いた。俺は、その声を聞いて、彼女が恐怖で震えているわけではないと、確信した。「イヤなのか?」 俺は、アオイの口から「やあ」という言葉が聞こえたので、確認した。すると、アオイは、真っ赤な顔で俺を見て、言った。「いやぁ……もっと……んっ、ちゅ、ちゅぅ」 そして、アオイは、俺の唇の近くにあった自分の唇を、そっと重ねて
last update最終更新日 : 2025-11-15
続きを読む

56話 高台の公園のベンチで

 手のひらに伝わってきたのは、想像していたよりも、ずっと大きな、柔らかな膨らみだった。そして、その膨らみの上に、小さなツンとした、違う感触が、俺の指先に伝わってきた。 その瞬間、アオイの全身が、ビクッと大きく震えた。「んんぅう……ひゃっ……!」 アオイは、甘い喘ぎ声をあげた。それは、さっきまでの可愛らしい声とは違う、明らかな性的な刺激からくる、熱を帯びた声だった。俺は、その声を聞きながら、アオイの柔らかい胸を、指で優しく弄んでいった。 俺は、アオイのブラウスの裾に手をかけ、ゆっくりと、その柔らかな布地を捲り上げていった。そして、スポブラも上へとずらし、彼女の柔らかな肌に、直接触れた。 目に飛び込んできたのは、白く透き通るような肌に浮かび上がる、小さく、可愛らしい桃色の乳首だった。その乳首は、俺の指先の感触に、ツンと立っている。 俺は、その愛らしい乳首に、夢中になった。顔を近づけ、まずは、舌先で、その小さな先端を、優しく、なぞるように舐めてみた。アオイの体が、びくりと震え、甘い吐息を漏らす。「んんぅ……ひゃっ……」 俺は、その声に、さらに興奮し、そのまま、片方の乳首を、そっと唇で咥えた。柔らかい感触と、舌に絡みつくような心地よさに、俺の頭は、真っ白になっていった。 アオイは、俺の行為を、嫌がることはなかった。むしろ、俺の髪を、震える指で掴み、その小さな頭を、俺の肩に、ぎゅっと押し付けてきた。俺は、その乳首を、舌で吸い上げ、唇で優しく愛撫した。「んぅぅ……やぁ……っ。はぁ、はぁ……」 アオイから漏れ出る甘い喘ぎ声と、熱い吐息が、俺の首筋をくすぐる。その声に、俺は、さらに熱くなり、アオイの乳首を、何度も、何度も、吸い上げていた。 俺は、アオイの乳首を吸いながら、彼女を抱き上げて、自分の片膝の上に座らせた。アオイは、突然の行動に、驚いたような声を漏らしたが、すぐに、その体は、俺の腕の中に
last update最終更新日 : 2025-11-16
続きを読む

57話 優しさと不安の愛

「んんん……ひゃぁ……! や、やぁっ……」 アオイは、息を吸い込み、途切れ途切れに、甘い喘ぎを漏らした。その瞳は、潤み、焦点が定まらない。彼女は、何かを掴もうと、俺の肩を、必死に探していた。「んんっ……やぁ……なにこれぇ……」 その声は、快感と、初めて経験する感覚への戸惑いが入り混じっていた。俺は、その声を聞きながら、アオイの柔らかな膨らみを、優しく、そして、強く、愛撫した。彼女の体は、俺の指先の動きに合わせるように、さらに熱を帯び、その震えは、止まることがなかった。 そして、アオイは、突然、全身を硬直させた。「ひゃぁあぁぁぁ……んんんっ……!!」 アオイの口から、今までにない、甘く、そして、切ない悲鳴のような声が漏れた。それは、初めての快感に、全身の力が抜けてしまったかのようだった。 初めての絶頂の余韻が冷めると、アオイは、全身の力が抜けたように、俺の腕の中で、ぐったりとしていた。そして、ゆっくりと、体を起こすと、恥ずかしそうに、だが、潤んだ瞳で俺を見つめた。 俺と向かい合うように、俺の膝に座り直すと、その顔は、林檎のように真っ赤に染まっていた。「……ユイトさん……」 アオイは、小さな声で、そう囁いた。その声は、震えていたが、感謝と喜びが、そこに込められているように聞こえた。俺は、何も言わずに、ただ、彼女の頭を、優しく撫でた。 俺たちは、再び、ゆっくりと唇を重ねた。先ほどまでの激しさとは違う、優しく、甘いキスだった。互いの唇を、優しく愛撫するように、何度も重ねていた。 そして、俺は、そっと、唇を離し、アオイの瞳を、真っ直ぐ見つめて、尋ねた。「挿れても良い?」 俺の言葉に、アオイの体は、小さく震えた。彼女は、潤んだ瞳を揺らしながら、俺の顔を、不安そうに、だが、しっか
last update最終更新日 : 2025-11-17
続きを読む

58話 階段の上の期待と予感

 そして、その時が来た。 俺は、アオイの中の熱い感触に、全身が震えるほどの快感を覚えた。アオイも、俺の動きに、全身を硬直させた。「ひゃぁあぁぁぁ……んんんっ!!」 アオイは、悲鳴のような、だが、快感に満ちた声をあげた。俺は、その声を聞きながら、アオイの中に、俺の熱を、全て、放出した。「んんんっ……! 熱いっ……! あぁぁ……」 アオイは、初めて体の中に広がる、熱く、そして、温かい感触に、甘く、そして、驚いたような声を上げた。俺は、アオイを強く抱きしめ、二人の熱い吐息が、互いの体に、静かに降り注いでいた。 俺とアオイは、しばらくの間、言葉もなく、ただ互いの体を強く抱きしめ合ったまま、じっとしていた。アオイは、満足したように、俺の胸に顔をうずめ、その小さな手で、俺のTシャツを、ギュッと握りしめていた。汗ばんだ互いの肌が、ひっそりと熱を帯びている。やがて、二人の心臓の激しい鼓動が、ゆっくりと、穏やかなリズムに戻っていく。 アオイが、少しだけ体を起こすと、その潤んだ瞳は、まだ俺を見つめている。だが、そこには、先ほどまでの激しい熱ではなく、穏やかで、満たされた光が宿っていた。「……お腹、空いちゃった」 アオイは、少しだけ恥ずかしそうに、そう呟いた。その言葉に、俺は、思わず笑ってしまった。俺も、同じように腹が減っていた。「じゃあ、コンビニでも行くか。奢ってやるよ」 俺がそう言うと、アオイは、嬉しそうに頷いた。 俺たちは、もと来た道を下り始めた。アオイの小さな手が、俺の手を、自然と掴んでくる。俺は、その温かくて柔らかい手を、ぎゅっと握り返した。 コンビニに着くと、アオイは、まるで遠足に来た子供のように、目を輝かせた。お弁当やおにぎり、パンのコーナーを、行ったり来たりしながら、どれにしようかと、真剣に悩んでいる。「ユイトさんは、何にするんですか?」 彼女が、そう尋ねてくるので、俺は、アオイの頭を、優しく
last update最終更新日 : 2025-11-18
続きを読む

59話 底辺男子の逆襲

 だが、階段から顔を覗かせたのは、ミカだった。俺の中では、彼女は根は良い奴だという印象があったが、今はとにかく一人になりたかった。それに、アオイという、ミカよりも可愛らしい女の子と、熱烈な経験をしてしまった後だ。正直なところ、ミカにはほとんど興味がなかった。前回は、女子に免疫がなくて、彼女の誘いに興奮してしまったが、今はもう違う。「あ、ミカか……」 つい、知り合いに会ったかのような、馴れ馴れしい声が出てしまった。俺にとっては、彼女は知っている人物だが、ミカは俺と話したことすら覚えていない。能力を得たばかりの頃に、彼女と出会ってしまったから、能力がかかっているかどうかも、微妙なところだった。「ん? なに……馴れ馴れしくない? 友達じゃないよね? 話したこともないし……」 ミカの声は、俺の想像していたものとは、全く違っていた。クラスにいる時とは違う、冷たく、刺々しい声だった。 あぁ……こいつ、二人っきりだと、普段は、こんな感じなんだな。クラスにいる時は、気に入った男子に、良い子だと思われたくて、猫を被って演技でもしてる感じなのか? 大人しい俺には、そのことをバラさない、とか思っているのか。それとも、俺が何か弱みでも握られた、とでも思っているのか。そんなことを考えていると、俺の胸は、さらに重苦しくなっていった。 ミカの冷たい言葉に、俺は、少しだけ戸惑いながらも、言葉を返した。「いや、ちょっと前に話をしたことあったの忘れちゃったか?」 俺の言葉に、ミカは、明らかに嫌そうな顔をして、鼻で笑った。「は? 覚えてませーん。底辺な男子と話とかしないし……誰かと勘違いしてるんじゃないの?」 その言葉は、俺の胸に、ちくりと刺さった。ミカは、さらに、俺の心を抉るような言葉を続けた。「っていうかさぁーあんた、彼女いたんだ? 可愛い子と公園でベンチに座ってキスしてたの見ちゃった~」 その言葉を聞いても、誰のことを言っているのか、俺には分からなかった。昨日は、確
last update最終更新日 : 2025-11-19
続きを読む
前へ
1
...
345678
コードをスキャンしてアプリで読む
DMCA.com Protection Status