目を開けると、そこは——色彩がにじむ街だった。石畳は、半分が白く、半分が黒い。 建物は輪郭がぼやけ、窓や扉の形が曖昧に揺れている。 まるで“現実”と“夢”が混ざり合っているようだった。「……なんだここ。見てるだけで頭がぐらぐらする」『ナギ、気をつけて。この世界……“境界”が溶けてる』「境界?」『うん。人と魔物の違いも、昼と夜の区切りも、男と女の区別も……全部曖昧になってる』「は……そんなの、どうやって暮らしてんだよ」俺が呟いたとき——通りを歩く二人組が目に入った。最初は人間の親子に見えた。 けれど一歩近づいた瞬間、子どもの顔が獣に変わり、母親の輪郭も霧のように揺らぐ。「おい……今、見えたか?」『うん。“魔物にも人にも見える”。きっと両方なんだよ』「両方……?」親子は気づく様子もなく、普通に買い物をしていた。 商人の姿も同じ。人の顔から獣の顔に変わったり、声が男から女に変わったり。 それを誰も気にしていない。「……すげぇな。これが、この世界の日常ってわけか」『でもナギ……違和感あるでしょ?』「ああ。全部が“正しい”ように見えるのに、どこか居心地が悪い」そのとき、背後から声をかけられた。「旅の方ですね?」振り向くと、そこに立っていたのは青年だった。 いや、青年“らしき人”と言うべきか。長い髪と短い髪が同時に揺れ、顔立ちは男にも女にも見える。 服装も、貴族のようでありながら農夫のようでもある。「私は、この街の案内人です。もしよければ……ご案内しましょうか?」「……ああ、頼む」俺は警戒を保ちながら頷いた。街の奥へ歩きながら、案内人は柔らかく微笑んだ。「この街は
最終更新日 : 2025-09-14 続きを読む