異世界リロード:神々の遣り残し のすべてのチャプター: チャプター 51 - チャプター 60

106 チャプター

第51話「夢の住人たち」

影たちは、まるで舞台の俳優のように笑顔を浮かべていた。 夫に抱かれる妻。 子どもと遊ぶ父。 友と酒を酌み交わす青年。——夢が形をとった“理想の住人”たちだ。「……こいつら、みんな幸せそうに見えるな」 『でもナギ……よく見て!』リィナの声に促され、目を凝らす。 影の笑顔は確かに明るいが、瞳は空っぽだった。 感情がなく、ただ幸福を“演じている”だけのように見える。「……そうか。幸せに見えても、それは“作られた夢”だ」影のひとりが俺に手を伸ばす。 「ここへ来い……夢の中なら、何も失わない……」その囁きは甘く、危うく心を引き込まれそうになる。「っ……危ねぇ!」 『ナギ! 影は“心を夢に引きずり込む”つもりだよ!』銃を構え、引き金を引く。 ——バンッ! 白光が影を貫き、笑顔のまま霧散させた。「……やっぱりただの幻だな」だが次の瞬間、さらに数十の影が現れる。 広場いっぱいに溢れ、取り囲むようにじりじりと迫ってきた。「……数が多いな」 『ナギ! 無理に撃ち抜くより、心を揺さぶる方が効くはず!』「心を……?」俺は影たちに向けて叫んだ。「お前らは夢の中じゃ笑ってるかもしれない! でも本当は……現実で泣いてる自分がいるんだろ!」その言葉に、影たちの笑顔が一瞬だけ揺らぐ。「……泣いて……?」 「……痛い……」 「……失ったはずなのに……」次々に影の身体がひび割れ、砕けて消えていった。「……効いてるな」だが、夢守りの声が空から響いた。「無駄です。彼らは現実に傷つき、夢に救いを求めた。
last update最終更新日 : 2025-09-29
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第52話「夢守りとの対峙」

塔を包む光が渦を巻き、俺とリィナの足元まで広がってきた。 気づけば広場は消え、見渡す限り真っ白な空間に変わっていた。「……ここは……夢の中か?」 『うん……夢守りが作った結界だよ!』その中央に、夢守りが静かに立っていた。 相変わらず美しい笑顔を浮かべているが、その目は冷たく光っている。「ここなら思うままに世界を変えられる。 あなたたちは現実の枷に縛られ、私は夢の力を使える。 ——勝負は見えています」言葉と同時に、空間が一瞬で変わる。 俺の目の前に、前世の日本の街並みが広がった。 人々が笑顔で歩き、誰もが幸せそうに暮らしている。「……ここは……!」夢守りが柔らかく囁く。 「戻りたいでしょう? あなたの故郷に」心臓が一瞬止まりかける。 見覚えのある風景、聞き慣れた声、懐かしい匂い。 俺がもう二度と触れられないと思っていたものが、今ここにある。『ナギ……! ダメ! それは全部偽物だよ!』「……わかってる!」俺は強く目を閉じ、息を吐いた。 再び目を開けたとき、銃を夢守りに向けていた。「確かに帰りたいさ。 けど、ここは夢だ。偽物だ。 現実じゃなきゃ意味がねぇ!」——バンッ!白光が夢の街並みを撃ち抜き、景色が粉々に砕け散る。夢守りは驚いたように目を見開いた。 「……夢を拒むのですか?」「当たり前だ! 夢は見るもんで、生きる場所じゃねぇ!」彼女の微笑みが消え、表情が険しくなる。 「……ならば力で示してもらいましょう」次の瞬間、空間から無数の幻影が生まれた。 それは俺の過去の記憶。 失敗した自分、泣き叫ぶ自分
last update最終更新日 : 2025-09-29
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第53話「夢を超えて」

真っ白な夢の空間が揺らぎ始めた。夢守りの姿も淡く歪み、まるで彼女自身が迷っているかのようだった。「……夢は、救いのはずだった。現実は人を傷つけ、奪い、絶望させる。だから私は……人々を夢に導いたのです」その声には、初めて弱さが滲んでいた。「……お前も苦しんだんだな」俺は銃を下ろし、静かに言った。「だから夢に逃げた。それ自体は否定しねぇ。誰だって逃げたいときはある」『うん……私だって、ナギがいなかったら逃げてたと思う』俺とリィナの声が重なる。「でもな、夢に“住み続ける”ことはできねぇんだ。夢は現実を生きるために見るもんだろ」夢守りは瞳を伏せ、両手を握りしめた。「……あなたの言葉は……刃のように私を切り裂く……でも同時に……温かい……」次の瞬間、空間全体が大きく揺れた。眠り続ける人々の身体が光を帯び、ゆっくりと目を開き始める。「……ここは……」「夢を見ていた……のか……?」現実に戻った人々の瞳には、確かな“生の光”が宿っていた。夢守りは崩れ落ちるように膝をつき、俺を見上げる。「あなたは……夢を壊したのではなく……夢の意味を……教えてくれた……」その身体が淡い光となってほどけていく。消えゆく直前、彼女は小さく笑った。「……どうか、人々が夢を抱きしめながら
last update最終更新日 : 2025-09-30
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第54話「火を失った山」

光を抜けた先は、冷たい灰に覆われた大地だった。山の斜面は黒く焦げ、岩肌はひび割れ、ところどころに煙の名残が漂っている。「……ここ、火山か?」『うん。でも火が……完全に消えてる』たしかに、火山の噴火口には赤い光も熱もなく、ただ冷たい石が積み重なっているだけだった。かつて噴き上がっていた炎の気配すら消え失せている。「火山が冷えてるなんて……そんなのありえるか?」歩いていくと、山の麓に小さな村が見えた。人々は厚着をして薪を焚いているが、焚火の炎は弱々しく、すぐに消えてしまう。「よう、旅人さん」ひとりの老人が俺に声をかけてきた。「……火がつかねぇんだよ。どんな薪を使っても、すぐ消える。まるで火そのものが、この世界から消えちまったみたいに」『ナギ……やっぱり“歪み”だね』村の人々は肩を寄せ合いながらも、寒さで震えていた。料理もできず、夜を越えるのもやっとらしい。「火がなけりゃ、人は生きられねぇ」俺は歯を食いしばった。「早く原因を突き止めねぇと」山道を登ると、崩れた祠の跡にたどり着いた。そこにはかつて“火の神”を祀っていた形跡が残っている。『ナギ……この世界の火は、神さまの力で保たれてたんだ』「じゃあ、その神が消えたのか?」祠の奥に進むと、黒い焔が揺らめいていた。炎のはずなのに冷たく、触れると凍えそうなほどの闇の火。「……これが、火を奪った原因か」そのとき、焔の中から声が響いた。「火など不要……争いを生み、破壊をもたらすもの。人は炎を持たぬ方が幸せだ」姿を現したのは、黒い甲冑を纏った騎士だった。
last update最終更新日 : 2025-09-30
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第55話「冷炎の騎士との戦い」

祠を揺らすほどの衝撃音が響いた。冷炎の剣と俺の銃弾がぶつかり合い、青白い光と白い閃光が入り乱れる。「くっそ……速ぇ!」『ナギ! 騎士の剣、普通の炎と違って“熱”がない!』確かに、剣が石を斬り裂いても、焦げ跡ひとつ残らない。ただ冷たい青白い光が残るだけだ。「……熱がねぇ炎なんて、ただの闇じゃねぇか!」騎士が冷たい声を響かせる。「熱は怒りを生み、炎は争いを煽る。冷炎こそ、静寂と平和をもたらすのだ」「笑わせんな! 炎は怒りだけじゃねぇ!暖めて、照らして、繋ぐんだ!」俺は銃を撃ち放つ。——バンッ!光弾が騎士をかすめ、壁に衝撃を刻む。だが騎士は怯まない。剣を振り下ろすたび、祠の中の空気が凍りつき、息すら白くなった。「ぐっ……寒っ……!」『ナギ! このままじゃ凍えちゃう!』騎士の剣が再び振り下ろされる。咄嗟に銃で受け止めるが、冷気が腕を伝って痺れさせる。「っ……やべぇ……!」そのとき、祠の奥から微かな光が漏れた。小さな焔が、まるで震えるように揺れている。『ナギ! あれ……火の神の残り火だよ!』「残り火……?」『うん! それを繋げば、この世界に本当の火を取り戻せる!』「なるほど……なら——」俺は残り火を背に守りながら、騎士に銃口を向けた。「お前は冷炎を掲げてるが……火を完全には消せなかったんだな!」騎士の瞳が一瞬揺らぐ。「……それは……」
last update最終更新日 : 2025-10-01
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第56話「炎を取り戻す儀式」

冷炎の騎士が消えたあと、祠の奥で小さく揺れていた残り火が、ふっと明るさを増した。その光は温かく、俺の頬をやわらかく撫でていく。「……あったけぇな」『うん……これが、本物の火だよ』祠の中にいた精霊たちが、残り火の周りに集まってきた。小さな手を翳し、震える声で歌を紡ぎ始める。それは祈りの歌にも似ていた。「ナギ、残り火をこの山に繋げよう。そしたらきっと、火は甦る!」「ああ……やってみるか」俺は銃口を残り火に向け、深く息を吸った。その温もりを弾丸に込めるように意識し、引き金を引く。——バンッ!白光が残り火に触れた瞬間、火は一気に燃え広がり、祠全体を朱に染めた。炎は天へと昇り、山の噴火口へと走っていく。「おおおお……!」黒く冷えた噴火口に、再び赤々とした焔が灯った。山全体が轟音を響かせ、炎と熱が溢れ出す。けれどそれは破壊の火ではなく、温もりを持った柔らかな火だった。村へ戻ると、人々が驚きの声を上げていた。「火が……薪に火がついたぞ!」「煮炊きができる!」「暖かい……! 本当に暖かい!」子どもたちが手をかざし、頬を赤らめて笑っている。その笑顔に、胸がじんと熱くなる。『ナギ……見て、みんなの顔。これが火の力だよ。怒りや破壊だけじゃない、“生きるための力”なんだ』「ああ……やっぱり必要なんだな、火ってやつは」村人たちが俺とリィナに駆け寄り、口々に感謝を告げる。「旅の方、本当にありがとう!」「火を取り戻してくれた恩は、一生忘れません!」俺は苦笑しながら肩をすくめた。「
last update最終更新日 : 2025-10-01
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第57話「影を失った都」

光を抜けた先は、整った石造りの大きな都だった。高い建物が並び、広い通りを人々が行き交っている。——一見すれば、活気ある普通の街。だが、俺はすぐに違和感に気づいた。「……リィナ、見えるか?」『うん……。この人たち、みんな——影がない』そう、誰ひとりとして地面に影を落としていない。太陽は燦々と照っているのに、足元は真っ白なままだった。「なんだこれ……気味悪ぃな」人々は笑いながら談笑し、商売をし、子どもたちが走り回っている。けれど、その笑顔は妙に均一で、どこか中身が薄い。『ナギ……影って、ただの黒い形じゃないんだよ』「ん?」『影は“その人の弱さや秘密、心の奥の真実”なんだ。だから影がなくなると、人は表面だけの存在になる』「……なるほどな。だから、この街の人たちは“薄っぺら”に見えるのか」広場の中心に大きな塔があった。塔の壁は真っ白で、一切の影を映さない鏡のような質感をしている。「あそこか……“歪み”の元は」塔に近づこうとした瞬間、通りすがりの男に声をかけられた。「ようこそ、旅人さん。ここは素晴らしい都ですよ。悩みも、苦しみも、すべて消える。影がないから、不安も恐怖もないんです」笑顔で言うその男の目には、一切の揺らぎがなかった。無垢すぎて、逆に不気味なほどだ。「影がない方がいいなんて……本気で言ってんのか」『ナギ……影を失った人は、自分で考えることも感じることも薄れていく。だからみんな“操り人形”みたいになっちゃうんだよ』
last update最終更新日 : 2025-10-02
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第58話「白布の司」

広場に集まった人々が、一斉に歩み寄ってくる。その目には光があるのに、意志の色はなかった。「……完全に操られてるな」『うん……影を奪われた人は、自分の意思を持てなくなるんだ』俺は銃を構え、撃つべきか迷った。だが相手は普通の人間だ。倒すわけにはいかない。「どうする……」そのとき、塔の上から《白布の司》が声を響かせた。「撃てばいいのです。彼らには影がない。痛みも後悔も感じないのだから」「ふざけんな!」俺は銃口を空に向けて撃った。——バンッ!白光が夜空を照らし、人々の足が一瞬止まる。「俺は……人間を撃つためにこの銃を持ってるんじゃねぇ!影を奪ったお前を撃つためだ!」白布の司の瞳がわずかに細められる。「……なるほど。あなたにはまだ“影”がある。だから迷い、怒り、苦しむ。だがそれは同時に、弱さでもあるのですよ」男の背後の白布が大きく揺れ、巨大な手のような形をとった。その影なき掌が広場を覆い、俺たちを押し潰そうと迫ってくる。「くっ……!」『ナギ! 左に飛んで!』リィナの声に従い、地面を転がるように避ける。直後、白布の掌が石畳を叩き割った。「……やべぇな、あれ。影がねぇのに“影の動き”してやがる」『ナギ! あの布は“人々から奪った影”をまとめて操ってるんだよ!』「ってことは、あれをぶっ壊せば——」俺は銃を握り直し、塔の白布に狙いを定めた。「影は弱さじゃねぇ! 本当の自分だ!だから返してもらうぜ!」—&m
last update最終更新日 : 2025-10-02
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第59話「影との対決」

俺の目の前に立つ“影の俺”は、まるで鏡の中から抜け出したような姿をしていた。だがその顔は歪み、憎悪と諦めの色に染まっている。「お前は弱い。守るなんて言いながら、救えなかった命を思い出せ」影が低く囁き、胸の奥を刺してくる。「お前は無力だ。リィナに助けられてばかりで、一人じゃ何もできない」……図星だった。反論しようとしたが、喉が詰まり、声にならない。『ナギ……! 影は“嘘”を言ってるんじゃない。“本当の弱さ”を突きつけてるんだよ!』「わかってる……」影の俺が銃を構えた。その動きは俺とまったく同じ。撃ち合えば、互いに消えるしかない。「……さて、どうする?」『ナギ、影は倒すんじゃない! 受け入れるんだ!』リィナの声が胸に響く。「……受け入れる?」影が笑う。「俺を認めるのか? 弱くて臆病な自分を?」俺は深呼吸し、銃を下ろした。「そうだよ。俺は弱いし、守り切れなかったこともある。完璧じゃねぇし、情けない自分だってたくさんいる」影の目が揺らぐ。「でも——それが俺だ。弱さも迷いもひっくるめて、俺は“俺”なんだ!」その言葉と同時に、影が一歩こちらに歩み寄る。銃を構えることなく、静かに腕を広げるように。「……俺は……お前の一部……」「そうだ。だから消すんじゃなく、一緒に生きるんだ」影が微笑んだ瞬間、その身体が光に包まれ、俺の胸に吸い込まれていった。次の瞬間、心が驚くほど軽くな
last update最終更新日 : 2025-10-03
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第60話「影を取り戻す都」

塔を貫いた白光は、都全体を覆っていた白布を裂き、散らしていった。裂け目からは黒い靄のようなものが舞い降り、人々の足元に吸い込まれていく。「……あっ!」「俺の、影が……戻ってきた……!」影を取り戻した人々が、次々に歓声を上げた。その顔には、笑顔も涙も怒りも、不安も入り混じっている。だがそれこそが、本当の“人間の顔”だった。『ナギ……! 見て!』リィナが指さす先では、子どもが泣きじゃくりながら母親に抱きついていた。母親は影を取り戻したばかりで、目の下に深い疲れをにじませている。それでもその顔は穏やかで、涙を流しながら子を抱きしめていた。「泣いてもいいんだよ。影があるからこそ、強くなれるんだから」その言葉に、俺の胸が熱くなる。「……そうだよな」広場のあちこちで、人々が影を確かめ合っていた。「俺は臆病だった」「私はずっと嫉妬してた」「でも、これが私だ」影を取り戻した人々は、不安や弱さを抱えながらも確かに“生きている”。塔の上にいた《白布の司》は、崩れ落ちるように膝をついていた。彼の身体もまた、白い布のように淡く揺れている。「……人々は影を嫌い、私にすがったはずなのに……それでも、影を選ぶのですか」「当たり前だ」俺は銃を下ろし、静かに言った。「影があるから、人は迷う。影があるから、人は泣く。でも、それでも歩ける。それが生きるってことだ」司の瞳が揺れ、やがて薄く笑みを浮かべた。「……愚かで、不完全で……それでも愛おしい。それが人間なのです
last update最終更新日 : 2025-10-03
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