影たちは、まるで舞台の俳優のように笑顔を浮かべていた。 夫に抱かれる妻。 子どもと遊ぶ父。 友と酒を酌み交わす青年。——夢が形をとった“理想の住人”たちだ。「……こいつら、みんな幸せそうに見えるな」 『でもナギ……よく見て!』リィナの声に促され、目を凝らす。 影の笑顔は確かに明るいが、瞳は空っぽだった。 感情がなく、ただ幸福を“演じている”だけのように見える。「……そうか。幸せに見えても、それは“作られた夢”だ」影のひとりが俺に手を伸ばす。 「ここへ来い……夢の中なら、何も失わない……」その囁きは甘く、危うく心を引き込まれそうになる。「っ……危ねぇ!」 『ナギ! 影は“心を夢に引きずり込む”つもりだよ!』銃を構え、引き金を引く。 ——バンッ! 白光が影を貫き、笑顔のまま霧散させた。「……やっぱりただの幻だな」だが次の瞬間、さらに数十の影が現れる。 広場いっぱいに溢れ、取り囲むようにじりじりと迫ってきた。「……数が多いな」 『ナギ! 無理に撃ち抜くより、心を揺さぶる方が効くはず!』「心を……?」俺は影たちに向けて叫んだ。「お前らは夢の中じゃ笑ってるかもしれない! でも本当は……現実で泣いてる自分がいるんだろ!」その言葉に、影たちの笑顔が一瞬だけ揺らぐ。「……泣いて……?」 「……痛い……」 「……失ったはずなのに……」次々に影の身体がひび割れ、砕けて消えていった。「……効いてるな」だが、夢守りの声が空から響いた。「無駄です。彼らは現実に傷つき、夢に救いを求めた。
最終更新日 : 2025-09-29 続きを読む