王が消え、“死”が解放された朝。国中は混乱に包まれていた。 何百年も「死なない」ことを当然としてきた人々にとって、死の再来は衝撃だった。泣き叫ぶ者。 呆然と空を見上げる者。 そして、静かに祈りを捧げる者。だが——その混乱の中にも、確かな変化が芽生えていた。「……今日を、大切にしよう」 「明日が来るとは限らないのだから」市場の片隅で、老婆がそう口にした。 昨日まで「終わりが来ない」と嘆いていた彼女だ。 その目は、今は凛として輝いていた。「ナギ、見て!」リィナの声に振り向くと、子どもたちが笑顔で走り回っていた。 転んで膝を擦りむいた子もいたが、それを見た母親は泣きながら抱きしめた。「怪我をしたら、いなくなってしまうかもしれない。 だからこそ……今ここにいることが、奇跡なんだ」その言葉を聞いたとき、胸が熱くなった。「……やっと、この国は“生きてる”な」『うん。死を思い出したからこそ、生が輝いてる』俺とリィナは広場に立ち、人々が互いに支え合う様子を見守っていた。 混乱も不安も残っている。 それでも、昨日までの「終わらない退屈」よりはずっと前向きな光景だった。「ナギ」リィナが、少しだけ声を落とした。『あなたは、死ぬの怖い?』「……そりゃあ、怖いさ」 俺は正直に答えた。「でもな、怖いからこそ、今をちゃんと生きようって思える」『……うん。私も同じ気持ち』銃身がやさしく震えた。 その鼓動は、リィナ自身の声と同じくらいに温かい。「なあリィナ」『なに?』「もし俺が死ぬときが来たら、隣で笑っ
最終更新日 : 2025-09-19 続きを読む