異世界リロード:神々の遣り残し のすべてのチャプター: チャプター 31 - チャプター 40

106 チャプター

第31話「死を抱いて生きる国」

王が消え、“死”が解放された朝。国中は混乱に包まれていた。 何百年も「死なない」ことを当然としてきた人々にとって、死の再来は衝撃だった。泣き叫ぶ者。 呆然と空を見上げる者。 そして、静かに祈りを捧げる者。だが——その混乱の中にも、確かな変化が芽生えていた。「……今日を、大切にしよう」 「明日が来るとは限らないのだから」市場の片隅で、老婆がそう口にした。 昨日まで「終わりが来ない」と嘆いていた彼女だ。 その目は、今は凛として輝いていた。「ナギ、見て!」リィナの声に振り向くと、子どもたちが笑顔で走り回っていた。 転んで膝を擦りむいた子もいたが、それを見た母親は泣きながら抱きしめた。「怪我をしたら、いなくなってしまうかもしれない。 だからこそ……今ここにいることが、奇跡なんだ」その言葉を聞いたとき、胸が熱くなった。「……やっと、この国は“生きてる”な」『うん。死を思い出したからこそ、生が輝いてる』俺とリィナは広場に立ち、人々が互いに支え合う様子を見守っていた。 混乱も不安も残っている。 それでも、昨日までの「終わらない退屈」よりはずっと前向きな光景だった。「ナギ」リィナが、少しだけ声を落とした。『あなたは、死ぬの怖い?』「……そりゃあ、怖いさ」 俺は正直に答えた。「でもな、怖いからこそ、今をちゃんと生きようって思える」『……うん。私も同じ気持ち』銃身がやさしく震えた。 その鼓動は、リィナ自身の声と同じくらいに温かい。「なあリィナ」『なに?』「もし俺が死ぬときが来たら、隣で笑っ
last update最終更新日 : 2025-09-19
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第32話「忘れられた神殿」

光を抜けた先にあったのは、ひんやりとした空気。 苔むした石段が、どこまでも続いている。 その先にそびえるのは——巨大な神殿の廃墟だった。柱は崩れ、天井は落ち、壁の装飾も風化している。 けれど、不思議なほど荘厳さを残していた。「……ここ、すごいな」 『うん。もともとすごく立派な神殿だったんだと思う。……でも、今は誰も祈ってない』「神殿なのに、誰もいないってのは……」『この世界の“神々”が、人々から忘れられてるんだよ』リィナの言葉に、俺は目を細めた。石段を登り切ると、大広間にたどり着く。 そこには、いくつもの石像が並んでいた。 戦の神、豊穣の神、愛の神……様々な姿が刻まれている。だが、そのどれもが色を失い、ひび割れ、今にも崩れそうだった。「……全部、忘れられちまったのか」そのとき。「……旅人」低く、かすれた声が響いた。 振り返ると、朽ち果てた祭壇の上に、ひとりの影が立っていた。それは人間のようでありながら、どこか神々しさを漂わせている。 けれど、その姿は薄く透け、消えかけていた。「我は……かつて“祈り”によって生きていた。 だが、人々は我を忘れた。名も、姿も、力も……」『ナギ、この人……神だよ!』「……忘れられた神、ってわけか」神はふらりと膝をついた。「人の祈りがなければ、我らは存在できぬ。 だが、今の人々は……“神などいない”と信じて疑わぬ」「……信じてもらえない神、か」「このままでは、我らは完全に消えるだろう。 それが自然なのか……それとも“歪み”なのか……」リィナが小さく震えた。『ナギ……この世界では、“神が人から忘れられる”のが
last update最終更新日 : 2025-09-19
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第33話「名を失った神々」

神殿の奥へ進むと、空気がどんどん重くなっていった。 光は薄暗く、音もなく、ただ俺たちの足音だけが響く。「……なんか、やばい雰囲気だな」 『うん。ここには、まだ“忘れられた神々”が眠ってる』そのとき、大広間に出た。 そこには数十体もの像が並んでいた。 どれも人の形をしているが、顔は削れ、名前を示す碑文も消えている。「……全部、名を失ってる」『神の名前って、“存在そのもの”だからね……忘れられると、こうなっちゃうんだ』俺が像のひとつに近づいた瞬間。「……誰だ……」低い声が、頭の中に響いた。 像の瞳がぼんやりと光り、やせ細った神の姿が浮かび上がる。「我は……誰だった……?」「……」「戦を導いたのか……豊穣を授けたのか…… それすらも思い出せぬ……」その声は、ひどく虚ろだった。 そして次の瞬間、別の像からも声が重なる。「我も……忘れられた……」 「祈りは絶え……名は消え……」 「残されたのは、空虚な形だけ……」大広間が、無数の神の嘆きで満たされる。『ナギ……これって……!』「ああ、やべぇな。全員、消える寸前だ」「旅人よ……」 最初に声をかけてきた神が、俺を見た。「人は……我らを必要とせぬのか? ならば……我らは、消えるべきなのか?」その問いに、胸が強く揺さぶられる。 簡単に答えられるわけがない。 人は神を忘れても生きていける。 でも、神々がいたからこそ乗り越えられたこともあったはずだ。『ナギ……どうする?』俺は拳を握りしめた。「……まだ答えは出せねぇ。け
last update最終更新日 : 2025-09-20
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第34話「祈りを忘れた人々」

神殿を後にし、街へと降りた。 そこは活気ある市場で、農作物や布が所狭しと並べられている。 人々は明るい声で取引し、子どもたちは元気に駆け回っていた。……一見すれば、ごく普通の繁栄した国だ。「なあ、リィナ」 『うん。神殿があんなに廃墟になってるのに、街はすごく元気』「ってことは……やっぱり神は“不要”ってことか?」そう呟いたとき、野菜を売っていた女商人が俺に声をかけた。「旅人さん、何をお探しです?」「……いや、ちょっと聞きたいんだ。 この国には神殿があるだろ? あそこに祈りを捧げたりはしないのか?」女商人は、一瞬ぽかんとした顔をした。「……神殿? ああ、あの崩れた建物のことですね。 子どもたちが肝試しに行くくらいで、誰も“祈り”なんてしませんよ」「どうしてだ?」「どうしてって……」 商人は首を傾げ、笑った。「祈っても何も変わらないからでしょう? 雨が欲しいときは井戸を掘ればいい。 豊作が欲しければ肥料をまけばいい。 病気になれば薬師が治してくれる。 神さまに頼る必要なんて、もうないんですよ」『……ナギ、聞いた?』「ああ……人間が、自分の手で全部できるようになったから、神を忘れたんだな」次に、鍛冶屋の男に話を聞いてみた。「神? ああ、そんなもの昔の話だ。 俺は俺の腕を信じる。剣も槍も、祈りじゃなくて鉄と火でできるんだ」老婆にも聞いてみた。「祈っても、息子は戦で帰らなかったよ。 それからは、誰も祈らなくなったさ」……街の誰に聞いても答えは同じだった。 神を忘れたのではなく、“神に頼る必要がなくなった”のだ。『ナギ……これって、歪みじゃなく
last update最終更新日 : 2025-09-20
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第36話「神殿に射す光」

翌朝。 崩れた神殿の天井から、陽の光が差し込んでいた。 昨日まで暗く沈んでいた空気が、どこか澄んで感じられる。「……空気が軽いな」 『うん。神さまたち、もう消えちゃったけど……悲しい感じじゃないよ』「役目を終えて、“還った”んだな」俺とリィナは石段を降り、街へ戻った。市場はいつも通り賑やかで、人々は笑い声を交わしていた。 けれど昨日と違うのは、噴水の前で子どもたちが「ありがとう」と声を合わせていたことだ。「なあ、あれ……?」近くにいた商人に尋ねると、彼は首をかしげながら答えた。「子どもたちの遊びですよ。 でも不思議なんです、今朝からみんな口を揃えて“ありがとう”って言うんです」『……ナギ、それって』「ああ……神々が残した“祈りの意味”が、ちゃんと伝わってるんだ」商人は笑った。「まあ、悪い気はしませんね。 神がどうとかはわかりませんが、“ありがとう”って言葉は気持ちがいい」そう言って彼は肩をすくめ、再び仕事に戻っていった。俺とリィナは顔を見合わせる。「……結局、神がいなくても人は生きられる。 けど、感謝とか祈りの気持ちは残り続けるんだな」『うん。それがきっと、“繋がり”なんだよ』街の鐘が鳴る。 人々は今日も忙しそうに動いていた。 それでも、誰かが誰かに「ありがとう」と声をかけるたび、ほんの少し温かい光が広がっていくように見えた。俺はリィナを背に収め、空を見上げた。「なあリィナ」 『なに?』「お前が神になっても、祈られなくてもいいよな」『……はぁ!? なに急に!』「だってさ。お前が隣にいてくれるだけで十分だ」沈黙。
last update最終更新日 : 2025-09-21
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第35話「祈りの意味」

再び、忘れられた神殿。 崩れた柱の間に戻ると、薄暗い空気の中で神々の影が待っていた。「……戻ったか、旅人よ」声はかすれ、存在はますます淡くなっている。 彼らの瞳には、消えることへの諦めが色濃く滲んでいた。「聞いてきたぜ」 俺はまっすぐに告げる。「人間はもう神に祈らねぇ。 雨が欲しけりゃ井戸を掘るし、病気は薬で治す。 祈りじゃなく、自分の手で未来を作ってる」広間に沈黙が落ちた。 そして、神々の間に波紋のように呟きが広がる。「……不要、ということか」 「我らは……もう役目を終えたのか」 「ならば……消えるのみか……」その空気に、リィナが銃身を震わせた。『違うよ!』白い光が一瞬、広間を照らす。『人が神さまに祈らなくなったのは、弱さを克服したから。 でも、それって“神さまが支えてきた結果”なんじゃないの?』俺も頷く。「そうだ。お前らがいたから人間はここまで来れたんだ。 戦を勝ち抜き、病を越え、自然と向き合って…… その積み重ねで、神に頼らなくても生きられるようになったんだ」「……それは……」「だから、お前らが不要になったんじゃない。 役目を終えたんだ」神々の影が、わずかに震える。「役目を……終えた……?」「そうだ。 親が子を育てて、子が独り立ちしたら……親は安心して見守るだろ? お前らも同じだよ。 “祈られなくてもいい”。人が生きてることが、お前らの証なんだ」広間に、重く沈んでいた空気が少しずつ変わっていく。 虚ろだった神々の顔に、ほんのわずか色が戻る。「……忘れられることが、終わ
last update最終更新日 : 2025-09-21
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第37話「砂漠に沈む時間」

目を開けた瞬間、全身を熱風が包んだ。「……うおっ、あっつ!」 『ナギ、ここ……砂漠だよ!』見渡す限り、果てしない砂の海。 空は昼とも夜ともつかず、薄橙色に染まっている。 太陽も月もなく、時の流れを示すものが何一つなかった。「……昼か夜かもわからんのか」 『うん。なんか、時間そのものが止まったり流れたりしてる……そんな感じ』歩き出すと、砂に沈んだ遺跡の影が見えた。 崩れた塔、埋もれた門、風化した石壁。 それらは今もなお、砂に飲み込まれ続けている。「……街だったのか、ここ」遺跡に近づくと、かすかな声が響いた。「……助けて……」「!?」砂の中から、人影が浮かび上がった。 半透明のその姿は、過去と未来を彷徨う“時間の迷子”のようだった。「私たちは……いつまでも抜け出せない…… 昨日に戻ったと思えば、明日へ飛ばされ…… やがて、今がわからなくなる……」影はそう言い残し、砂に沈んで消えた。「……リィナ、ここもやっぱり“歪み”だ」 『うん。時間が壊れて、人が過去と未来に閉じ込められてる……』さらに歩みを進めると、遺跡の奥に小さな集落があった。 そこには確かに“生きている人々”が暮らしていたが、その様子は奇妙だった。「おはよう」 「おやすみ」 「また昨日会ったな」誰もが時間の感覚を失い、昼夜の挨拶が交錯していた。 子どもたちは成長せず、大人たちは老いないまま。 集落全体が“永遠の迷子”になっていた。「……やべぇな」『ナギ、このままじゃ“今”そのものが消えちゃうよ』「よし、まずは原因を突き止める」俺は銃を握り直
last update最終更新日 : 2025-09-22
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第38話「砂時計の守人」

巨大な砂時計の前に立つと、空気が一層ひりついた。 ガラスの中の砂は上から下へ落ちたり、逆流したり、あるいは宙に漂ったりと、めちゃくちゃに揺れている。「……すげぇな。見てるだけで時間感覚が狂う」 『ナギ、目を逸らさないで。あれが“歪みの核”だよ』そのとき、砂時計の影からひとりの男が姿を現した。灰色の長衣をまとい、顔は布で覆われている。 ただ、その目だけが異様に光を放っていた。「……旅人か」低い声が砂漠に響く。「お前が……この砂時計を管理してるのか?」「管理ではない。“守っている”のだ」男はゆっくりと歩み寄り、砂時計に手をかざした。「時間とは、もともと残酷なもの。 人を老いさせ、死に追いやる。 だから私は、時間を縛った。 誰も老いず、誰も死なない世界を作るために」「……それ、どっかで聞いた話だな」 『ナギ、永命の国と同じ……!』男は淡々と続ける。「人々は“今”を失ったが、それでいい。 過去に戻れば失敗をやり直せる。 未来に飛べば希望を掴める。 苦しい“今”に縛られる必要はない」「……お前、それで幸せだと思ってんのか?」「幸せかどうかは問題ではない。“苦しみがない”ことが重要なのだ」俺は銃を握り、真っ直ぐに言った。「違ぇよ。苦しみがあるから“今を選ぶ意味”があるんだ!」リィナが銃身を震わせる。『そう! 失敗しても、後悔しても……“今”があるからやり直せるんだよ!』砂時計の守人の目が鋭く光った。「……ならば証明してみろ。 “今を選ぶこと”が本当に価値あるものだと!」次の瞬間、周囲の砂が渦を巻き、巨大な竜の形をとった。 砂
last update最終更新日 : 2025-09-22
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第39話「砂竜との決戦」

砂漠を揺らして、砂でできた巨大な竜が咆哮を上げた。 その声は空気を震わせ、耳の奥まで響き渡る。「くっそ……デカいな!」 『ナギ、気をつけて! 砂竜の動き、時間が歪んでる!』言われた瞬間、竜の首が突き出された。 速い。いや、速すぎる。 視界に映ったと思ったら、すでに目の前に迫っていた。「っ……やべぇ!」間一髪で転がり、砂の牙を避ける。 背後の岩が一瞬で砕け散り、砂塵が舞った。『今の一撃……“時間を飛ばして”攻撃してきたんだ!』「時間を飛ばす……だと!?」砂竜が尾を振り上げる。 その軌跡は途中で途切れ、瞬間移動するように俺の頭上へ迫った。「ぐっ……!」 俺は銃を構え、引き金を引く。——バンッ!白光が尾を撃ち抜き、砂が四散する。 だが竜はすぐに形を取り戻した。「やっぱ普通に撃っただけじゃダメか……!」『ナギ! 竜の核は砂時計と繋がってる! そこを狙わないと!』「なるほど……なら、やるしかねぇ!」俺は竜の胸部に揺れる光を見据えた。 そこだけが、時の歪みを凝縮した“核”のように見える。「リィナ、全力で撃ち抜く!」 『うん! 一緒に!』砂竜が大きく口を開け、砂嵐を吐き出した。 まるで砂漠全体を呑み込むような暴風。 視界が消え、身体が削られるような痛みが走る。「ここだ……!」俺は銃口を核に向け、引き金を引いた。——轟ッ!白い閃光が砂嵐を切り裂き、竜の胸を直撃した。 竜が苦悶の咆哮を上げ、砂が一気に崩れ落ちる。「……まだだ!」俺は追撃の弾を放ち続けた。 リィナの声が重な
last update最終更新日 : 2025-09-23
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第40話「時を縛る守人」

砂竜が消えたあと、砂漠の広間には沈黙が落ちた。 巨大な砂時計はまだ不安定に揺れ、砂は上から下へ、下から上へ、めちゃくちゃに流れ続けている。その前に立つ守人は、ゆっくりとこちらに歩み出た。「……やはり、お前は強い」 布で覆われた顔の奥で、瞳がぎらつく。「だが、私は認めぬ。“今を生きる”などという儚い価値を」「……まだやる気か」「当然だ。私は時間を縛る者。 過去に戻れば失敗はなかったことになる。 未来へ飛べば絶望を避けられる。 “今”など、もっとも愚かな選択だ」その言葉と同時に、周囲の空気が歪んだ。 俺の視界が引き裂かれ、いくつもの“過去の自分”が重なって見える。「っ……これは……!」 『ナギ! “時間を裂いて”攻撃してる!』気づけば、守人の剣が目の前にあった。 振り下ろされる寸前——。「くっそ!」俺は咄嗟に銃で受け止めた。 鋼鉄のような衝撃が腕を痺れさせる。「……速ぇ!」『ナギ! 守人は自分の時間を何度も巻き戻してる! だから“同じ動きを無限に繰り返せる”んだ!』「つまり、不死身ってことかよ!」守人の剣が幾重にも重なり、まるで分身のように襲いかかってくる。 俺は必死に銃を乱射し、光弾で捌く。——バンッ! バンッ!白光が剣の軌跡をかすめるが、すぐにまた同じ攻撃が繰り返される。「……わかったぞ!」 俺は叫んだ。「こいつ、未来や過去に飛んでるんじゃねぇ! “同じ今”を何度も繰り返してるんだ!」『ってことは……!』「奴が繰り返せる“時間”そのものを壊せばいい!」俺は銃を守人の剣ではなく、背後の砂時計へ向けた。
last update最終更新日 : 2025-09-23
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