異世界リロード:神々の遣り残し のすべてのチャプター: チャプター 41 - チャプター 50

106 チャプター

第41話「今を選ぶ人々」

砂時計が砕け散ったあと、砂漠の空は青く澄みわたった。 太陽がはっきりと姿を現し、熱を持った光が大地を照らす。 同時に、西の地平からは月が昇り始めていた。——昼と夜が戻ってきたのだ。「……やっと“時間”が流れ出したな」 『うん……風の匂いまで違う。これが、本当の“今”なんだね』集落に戻ると、人々は皆、戸惑った顔をしていた。「おはよう……で、いいのか?」 「いや、もう夜かもしれん……」 「でも、こんな空を見るのは久しぶりだ……」混乱しながらも、誰もが空を見上げていた。 太陽と月。その移ろいが、彼らにとってどれほど大切だったのかが伝わってくる。「おい! 子どもが!」叫び声に振り向くと、ひとりの子どもが急に背を伸ばし始めた。 昨日まで小さな子だったのに、あっという間に数歳分成長したように見える。「な、なんだこれは……!」『ナギ! 止まっていた時間が、一気に流れ出してる!』「……そうか。今まで“今”を失ってた分が、一気に戻ってきたんだな」驚きと混乱の中で、子どもの母親が泣き笑いしながら抱きしめた。「大きくなった……! でも、ちゃんと生きてる……!」周囲からも涙と笑いが溢れる。 人々は戸惑いながらも、確かに“今”を取り戻していた。——その光景を見て、俺はふと思う。「なあ、リィナ」 『なに?』「俺たちだって、未来のために戦ってるけど……結局は“今”を選び続けてるんだよな」リィナが少しだけ笑った。『そうだよ。私がナギと一緒にいるのも、“今”を選んだからだもん』「……そっか」銃身が小さく震える。 それは、心臓の鼓動みたいに温かかった。「よし。なら俺たちも、次の“今”を選
last update最終更新日 : 2025-09-24
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第42話「鏡に囚われた街」

光の扉を抜けると、そこは石造りの街並みだった。 だが普通の街とはひとつ、大きな違いがある。建物の壁も、通りの舗道も、広場の噴水ですら—— すべてが鏡のように磨き上げられていたのだ。「……おいおい、どんだけピカピカにしてんだよ」 『ナギ、これ……普通の鏡じゃないよ。魔力で作られてる』通りを歩く人々は、みんな自分の映る鏡を見つめていた。 微笑んだり、ポーズを取ったり、涙を流して頷いたり。 まるで鏡の中の自分に語りかけているようだった。「……なんか、嫌な予感がするな」そのとき、すぐ横の鏡が揺らぎ、人影が浮かび上がった。 それは通りを歩いていた青年……ではなく、青年の“理想の姿”だった。 背は高く、顔立ちは整い、華やかな服に身を包んでいる。「これが……俺……」青年は恍惚とした表情で鏡に手を伸ばした。 次の瞬間、彼の身体は鏡の中へと吸い込まれていった。「おい……!」俺が思わず声を上げたが、遅かった。 鏡の中の理想の姿が青年の代わりに外へ現れ、笑みを浮かべて歩き出す。『ナギ! 今の……!』「ああ……鏡に囚われて、入れ替わったんだ」通りを見渡すと、同じように多くの人が“理想の自分”と入れ替わっていた。 笑顔のはずなのに、どこか無機質で空っぽな表情。 彼らはまるで人形のように街を歩いている。「……やっぱりこれも“歪み”だな」『うん。“理想の自分”に囚われて、“本当の自分”が消えていく世界……』そのとき、鏡の奥から声が響いた。「……君は、今の自分に満足しているか?」低く甘い声。 姿は見えないが、街全体に響いている。「鏡は真実を映す。 だが、誰もが望むのは“真実”ではなく
last update最終更新日 : 2025-09-24
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第43話「理想の影たち」

白光の弾丸が放たれ、最初の“理想の人形”を撃ち抜いた。 人形は鏡の破片のように砕け散り、空気に溶けて消える。「……よし、一体は消えた!」 『でもナギ! まだいっぱい来るよ!』通りの両側から、理想の人形たちがゆっくりと歩み寄ってくる。 顔は完璧な笑顔、仕草は優雅で隙がない。 けれど、その瞳だけは完全に虚ろだった。「こいつら……完璧すぎるのが逆に気持ち悪ぃな」人形たちは一斉に囁いた。「理想を受け入れろ」 「今より美しく、今より強く、今より幸せに」 「本当の自分など、醜いだけだ」その声は甘美で、耳にまとわりつくように響く。 まるで心の奥に直接囁きかけるように。「……なるほどな。これが“誘惑”ってやつか」俺は歯を食いしばり、もう一度銃を構えた。「俺は俺だ! 欠点があって、失敗して、泣いたり笑ったりする! それが人間だろうが!」——バンッ!銃声が響き、人形のひとつが崩れ落ちる。 リィナの声が背中から重なる。『そうだよ! ナギはナギだからいいんだ! “理想”に変わっちゃったら……私は嫌だよ!』その言葉が胸に突き刺さる。 同時に、人形たちの動きがわずかに鈍った。「……ナギ、今の! あの人形たち、“本当の自分を肯定する言葉”に弱い!」「なるほど、ならやりようはあるな!」俺は再び銃を構え、人形たちに叫ぶ。「お前らは“本当の自分”を否定してる! けどな、人間は欠けてるからこそ、他人と繋がれるんだ!」——轟!白い光弾が連続して放たれ、次々と人形を砕いていく。しかしそのとき、鏡の中からひときわ大きな影が現れた。それは——俺自身だった。
last update最終更新日 : 2025-09-25
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第44話「鏡の中のナギ」

鏡の街の中心で、俺と“理想のナギ”が向かい合った。 互いに銃を構え、その動きは一分の狂いもなく重なる。「俺は完璧なお前だ」 理想のナギが口を開く。 「迷わず、失敗せず、誰からも認められる。 ——お前の望んだ姿そのものだ」「……ああ、確かに。羨ましいくらいだ」 俺は苦笑しながらも、銃口を下げなかった。「でもな、それは俺じゃねぇ」理想のナギの目が細められる。「不完全な自分を抱えて、生きて何になる? お前はただの凡人だ。 理想の俺なら、世界を救う使命だって容易く果たせる」「だったらなんで、リィナは俺と旅してんだよ」俺の言葉に、背中のリィナがすぐさま答えた。『そうだよ! 私が一緒にいるのは、完璧なナギだからじゃない! ドジしたり悩んだり、それでも前に進もうとするナギだから!』「……聞いたか? これが答えだ」 俺は静かに笑い、引き金に指をかけた。「完璧なんて、いらねぇ。 俺は俺のまま、不完全なまま進む」——轟ッ!同時に放たれた二条の光。 俺と理想のナギの銃弾が空中でぶつかり合い、爆ぜる。衝撃で身体が吹き飛ぶが、必死に踏みとどまる。 理想のナギもまた、同じ動きで耐えていた。「……やっぱり同じ動きだな」 『ナギ! なら、“違い”を見せるしかない!』「……違い、か」俺は深呼吸し、銃を構える。 理想のナギは冷たい瞳で俺を見据える。「俺は完璧。お前には勝てない」「いや、勝つ」俺は銃口を少しだけ下げ、地面に撃ち込んだ。——バンッ!跳ね上がった破片が目くらましになり、理想のナギの視界を遮る。
last update最終更新日 : 2025-09-25
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第45話「自分を取り戻す街」

鏡が砕け散った瞬間、街全体を覆っていた異様な静けさが破れた。 鏡の中に囚われていた人々が次々と吐き出され、石畳の上に倒れ込む。「……ここは……」 「俺、ずっと鏡の中に……」 「理想の私が、歩いていたの……?」目を覚ました人々の声には混乱が滲んでいた。 しかし、彼らの瞳は確かに“自分自身”のものに戻っていた。『ナギ、見て!』リィナの声に振り向くと、街の子どもが泣きながら母親に抱きついていた。 母親は少し疲れた顔をしていたが、優しく微笑んで子を抱きしめる。「完璧じゃないけど……あなたのままでいい」その言葉を聞いた瞬間、俺の胸に熱いものがこみ上げた。「……そうだよな」広場の中心で、ひとりの青年が立ち上がった。 鏡の中の理想の姿と入れ替わっていた男だ。「俺は……背が低くて、不格好で……だから理想に逃げたんだ」 彼は小さく笑って続ける。 「でも……それでも俺は俺だ。隣で笑ってくれる友がいるなら、それでいい」その言葉に周囲の人々も頷き合った。 「私も……完璧になりたかったけど、そうじゃなくていい」 「弱い自分も、ちゃんと抱きしめてやる」——街全体に、ようやく人間らしい声が響き渡った。『ナギ……よかったね』 「ああ……これで、この街も自分を取り戻せた」ふと、砕けた鏡の破片のひとつが淡く光り、空へ舞い上がっていった。 それは無数の欠片と重なり、やがて街の空に一筋の虹を描いた。「……きれいだな」 『うん。“不完全な光”だから、こんなにきれいに混ざり合えるんだね』俺は小さく笑ってリィナに答えた。「やっぱり、不完全でいいんだよな」 『そう! だってナギが完璧だったら、私の出番なくなっちゃうもん
last update最終更新日 : 2025-09-26
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第46話「歌を失った森」

光の扉を抜けた瞬間、辺りを覆ったのはしんとした森の気配だった。背の高い木々が並び、枝葉が重なり合って空を隠している。 風が吹き抜けても、鳥が飛び立っても——音がしない。「……なんだ、これ」 声を出した瞬間、あまりの静けさに自分の声だけが異様に響いた。『ナギ、ここ……音が全部消えてる』確かに、足音も葉擦れもまったく聞こえない。 まるで世界そのものが“ミュート”されているようだった。森を進むと、光を帯びた小さな影が現れた。 精霊だ。 だがその唇は閉ざされ、どんな音も発していなかった。「……喋れないのか?」精霊は悲しげに首を振り、胸を押さえた。 その瞳からは、何かを伝えたいのに言葉が出ない苦しみが溢れていた。『ナギ……精霊たち、“歌”を失ってる』「歌?」『うん。本来この森は、精霊たちの歌で満ちてるはずなの。 木々を育て、水を巡らせ、命を調和させる……その力が“歌”なんだよ』「……なるほど。そいつが消えたから、森ごと音を失ったってわけか」さらに奥へ進むと、大樹の根元にたどり着いた。 そこには壊れた竪琴が横たわっていた。 弦は切れ、胴はひび割れている。「これは……楽器か?」精霊がうなずき、震える手で竪琴を指さす。 どうやら、これが“歌の源”だったらしい。『ナギ、この竪琴が壊れたのが歪みの原因だよ!』「直せばいいってことか?」『でも……ただ修理するだけじゃ足りない。 “心を響かせる歌”を取り戻さないと、森は甦らない』そのとき、森の奥から低い声が響いた。「……歌など不要だ」姿を現したのは、巨大な獣だった。 黒い毛並みに金の瞳。
last update最終更新日 : 2025-09-26
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第47話「沈黙を強いる獣」

沈黙の森を揺るがすように、黒い獣が咆哮した。 ……だがその声すら、音にならない。 口を開いているのに、まるで空気が声を拒んでいるようだった。「……気持ち悪ぃな。音が消える咆哮なんて」 『ナギ! あの獣、森じゅうの“音”を食べてる!』「なるほどな。だから精霊も歌えなくなったってわけか」獣が大地を踏み鳴らす。 だが、その衝撃音すら消えている。 ただ木々が揺れ、土が割れる様子だけが目に見えて伝わってきた。「沈黙は平和だ。 争いも、涙も、叫びも、音があるから生まれる」獣の目が金色に光る。 その視線はまるで、全てを見透かすようだった。「歌は弱者の逃げ場。 ならば消してやった方が救いとなる」「……救い、ねぇ」 俺は銃を構え、じっと睨み返した。「叫びがあるから助けを求められるんだろ。 泣き声があるから慰められるんだろ。 音を奪ったら、それこそ孤独しか残らねぇ!」リィナが銃身を震わせて声を重ねる。『そうだよ! 歌はね、誰かに届くから意味があるの! 一緒に笑って、一緒に泣くためのものなんだ!』獣の瞳が一瞬揺らいだ。 だがすぐに牙を剥き、飛びかかってくる。「証明してみろ! 沈黙より歌が強いと!」巨体が宙を裂き、爪が俺に迫る。 その動きは速すぎて、目で追うだけで精一杯だった。「っ、くそっ!」反射的に引き金を引く。 白い光弾が爪とぶつかり、激しい閃光を放った。 衝撃で木々が揺れ、砂埃が舞う。……けれど、音はない。「やっぱり……全部吸い込まれてる!」『ナギ! 撃つだけじゃだめ!
last update最終更新日 : 2025-09-27
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第48話「歌を取り戻す戦い」

沈黙を食らう黒い獣が、再び大地を蹴った。 衝撃で木々が折れ、砂塵が舞う。 しかし今度は、その音がはっきりと耳に届いた。「……よし、戻ってきてる!」 『ナギ、音が少しずつ蘇ってるよ!』獣の瞳が鋭く光る。 「音は……争いを呼ぶ……苦しみを増やす……!」「違ぇよ! 音があるから分かち合えるんだ!」俺は引き金を引く。 白光の弾丸が獣の肩をかすめ、爆ぜた。 その瞬間、枝葉のざわめきと精霊の小さな声が重なる。「……歌……」精霊たちが震える唇を開き、声にならない声を漏らす。 まだ完全ではないが、それは確かに“歌の響き”だった。『ナギ! 精霊たちの歌を後押ししてあげて!』「任せろ!」俺は大樹の根元に転がる壊れた竪琴へと駆け寄り、銃を掲げた。「俺の弾で……歌を繋ぐ!」——バンッ!光弾が竪琴に触れた瞬間、切れていた弦が白く輝いて再生した。 ひび割れた胴も修復され、柔らかな音色を響かせ始める。「……音だ!」竪琴の音に呼応するように、精霊たちの歌声が広がった。 小さな旋律が重なり、やがて森全体を包み込む大合唱となる。「うおおおおっ!」獣が苦悶の咆哮を上げる。 だがその声も、歌声に飲み込まれていった。「歌は弱さではない! 誰かに届くからこそ、強さになるんだ!」俺は最後の一撃を放つ。 リィナの声が重なる。『みんなの歌を力に! ナギ、撃って!』——轟ッ!白光の弾丸と精霊たちの歌声が一つになり、獣を貫いた。 その身体は砕け、黒い靄となって霧散する。「……これが……歌の力……」残された言
last update最終更新日 : 2025-09-27
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第49話「森に響く歌声」

戦いが終わった森は、まるで別世界のようだった。 さっきまで沈黙に覆われていた場所が、今は音であふれている。木々の枝が風に揺れる音。 小鳥のさえずり。 せせらぎが石を撫でる音。 そして、精霊たちの歌声。「……すげぇな」 俺は思わず呟いた。『うん……これが本来の森なんだよ』精霊たちは大樹の周りに集まり、光を放ちながら歌っていた。 その声は言葉にならない旋律だが、不思議と心にすっと染み渡ってくる。 優しくて、温かくて、涙が出そうになるほど。「ナギ」 リィナが静かに語りかけてきた。『私ね……神になったとき、“声”をどう使えばいいかわからなかったの。 祈られるわけでもないし、命令するのも嫌だし……。 でも今、わかったよ。声って、伝えるためにあるんだね』「そうだな」俺は少し笑って、銃を握り直した。「叫ぶのも、泣くのも、笑うのも……ぜんぶ声だ。 それで誰かと繋がれるなら、それで十分だろ」リィナが小さく笑う。『……ナギの声、私すごく好きだよ』「お、おい急に何言うんだよ……!」『だって、本当の気持ちをちゃんと伝えてくれるから』「……ったく、調子狂うな」 そう言いつつも、頬が熱くなるのを隠せなかった。やがて、修復された竪琴がひとりでに鳴り始めた。 精霊の歌と重なり、森全体がひとつの大きな楽器のように響き出す。その音色に誘われるように、動物たちが集まり、木々が揺れ、川の流れさえも歌っているように思えた。「……いいな。こういう世界なら、ずっといたいくらいだ」『うん。でも私たちは旅を続けなきゃね。 だって、まだ“歪み”が残ってるんだから』
last update最終更新日 : 2025-09-28
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第50話「眠り続ける都」

光を抜けた先に広がっていたのは、大きな都だった。 石畳の大通り、整然と並ぶ建物、噴水のある広場。 けれどそこには、人々の賑わいはなかった。「……静かだな」 『うん……でも森の静けさとは違う。ここは……』歩いてみると、建物の中に人々がいた。 ベッドや床に横たわり、まるで死んだように眠っている。 老いも若きも、子どもまで。「全員……眠ってるのか」広場に出ると、噴水の縁にも人が寄りかかって眠っていた。 笑顔の者もいれば、泣きそうな顔で眠る者もいる。『ナギ、これは夢に囚われてるんだよ』「夢に……?」『うん。この人たち、夢の中で幸せに暮らしてる。 だから現実に戻ろうとしない。 夢と現実の境界が壊れてるんだ』俺は歯を食いしばった。「つまり……これも“歪み”ってわけだ」広場の中央に、不思議な塔が立っていた。 先端は水晶のように輝き、淡い光を放っている。「……あれが原因か」近づこうとしたとき、空気が揺れた。 塔の上から、女性の声が降り注ぐ。「ようこそ、旅人たち」姿を現したのは、透き通る衣をまとった美しい女だった。 その微笑みは優しく、見る者を安心させる。「私は《夢守り》。 人々を夢の中に導き、苦しみから解放する者」「お前が……この都を眠らせたのか」「ええ。人は現実で傷つき、争い、涙を流す。 けれど夢の中では、愛も幸福も、永遠に手に入る。 ——それのどこが悪いのです?」『ナギ……この人が“歪みの守り手”だ!』俺は銃を握り、睨みつけた。「夢に逃げてたら、現実を生きられねぇ! 目を閉じたままじゃ
last update最終更新日 : 2025-09-28
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