All Chapters of 異世界リロード:神々の遣り残し: Chapter 61 - Chapter 70

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第61話「星を失った夜空」

光を抜けた先は、静かな丘の上だった。眼下には広い街が広がり、灯りが点々と輝いている。だが、夜空を見上げた俺は思わず息を呑んだ。「……星が、ひとつもない」黒い空が果てしなく広がっている。月の光すらなく、まるで世界が天井に覆われたようだった。『ナギ……この世界、夜空から星が全部消えちゃってる』「星がない夜なんて……不気味だな」街に降りると、人々は夜でも普通に暮らしていた。酒場では笑い声が響き、子どもたちは遊び、商人は取引を続けている。だが、空を見上げる者は誰ひとりいなかった。「なあ、星が消えたって気づいてるんだろ?」俺が声をかけると、男は笑って肩をすくめた。「気づいてるさ。だが別に困らんだろ?星なんて眺めても腹はふくれねぇ」「……本気で言ってんのか?」『ナギ……! この人たち、“未来を見る力”を失ってる!』「未来……?」『うん。星はね、ただ光るだけじゃなく、人に“希望”を思い出させるものなんだよ。でもこの世界では星が消えたせいで、みんな明日を信じられなくなってる』確かに、街の人々は楽しそうに笑っているが、どこか諦めを滲ませていた。その笑顔は、今だけを消費する虚しいものに見えた。「……やっぱり、これも“歪み”だな」広場の中央に、大きな塔が立っていた。その先端には漆黒の宝石が輝き、夜空に覆いをかけているようだった。塔の上から、声が降り注いだ。「空を見上げる必要などない」姿を現したのは、黒いマントを纏った人物だった。その手には、光を吸い込むような黒い杖。「私は《夜覆いの導師》。人々に
last updateLast Updated : 2025-10-04
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第62話「夜覆いの導師」

黒い杖が振り下ろされ、空から闇の光が雨のように降り注いだ。街の明かりが次々と吸い込まれ、人々は不安げに声を上げる。「なんだ……暗い……見えない……!」「灯りが消えていく……!」『ナギ! このままじゃ街全体が闇に沈んじゃう!』「任せろ!」俺は銃を構え、闇の雨を撃ち抜いた。——バンッ!白光の弾丸が空に弾け、闇を一瞬だけ裂いた。導師が冷たい声で囁く。「無駄だ。星は戻らぬ。未来など存在しない。人は今だけを楽しめばよいのだ」「未来がねぇなら、今を生きる意味もねぇだろ!」俺の叫びに、リィナがすぐさま声を重ねる。『そうだよ! 星は“未来を信じる灯り”なんだ!だから消えちゃったら、人は立ち止まっちゃう!』導師の瞳が揺れた。だがすぐに杖を振り、巨大な闇の刃を生み出す。「希望は絶望に変わる。未来は裏切る。私は人々を守るために、星を覆ったのだ!」「……お前も絶望したんだな」俺は銃を握り直し、真っ直ぐに導師を見据えた。「だからって、他人の未来まで奪うな!未来は怖ぇけど……それでも信じるから歩けるんだ!」——轟ッ!白光の弾丸が闇の刃にぶつかり、激しい閃光を撒き散らす。導師が杖を振り下ろすたび、闇の刃が次々に生まれる。俺は撃ち返し、光と闇の衝突で夜空が明滅した。『ナギ! 星を取り戻すには、もっと強い“希望の光”が必要だよ!』「希望の光……」思い浮かぶのは、これまで出会った人々の姿。泣きながらも立ち上がった者。影を受け入れた者。歌を
last updateLast Updated : 2025-10-04
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第63話「未来を見上げる街」

夜空いっぱいに星が輝いていた。街の人々は広場や通りに集まり、息をのむように空を見上げている。「こんなに……きれいだったんだな」「星って……あったかいんだな」「忘れてた……ずっと、下しか見てなかった」涙を流す者も、ただ笑顔で手を伸ばす者もいた。その姿に、胸がじんと熱くなる。『ナギ……見て。みんな、未来を信じてる顔になってるよ』「ああ……やっぱり星ってのは、人に希望を思い出させるんだな」ふと、小さな子どもが俺に駆け寄ってきた。「お兄ちゃん! 星を返してくれてありがとう!」「俺が返したんじゃねぇよ。お前らが“未来を見たい”って思ったからだ」子どもはにこっと笑い、手を振って走り去った。その背中を見送ると、不思議と力が湧いてきた。やがて街の人々が口々に語り始める。「明日から、また畑を耕そう」「俺は航海に出る。星があるなら道に迷わない」「私は……夢を追いかけてみようかな」未来への言葉が、あちこちで広がっていく。その光景を見て、リィナが静かに囁いた。『ナギ……これで、この街も大丈夫だね』「ああ。星が戻ったんだ。もう未来を見失わねぇ」空を見上げると、ひときわ大きな星が輝いていた。それはまるで「また進め」と背中を押してくれるようだった。——そのとき、街の中央に光の扉が現れた。「……次の世界が待ってるな」『うん。でも……ちょっと名残惜しいね』「だな。でも、星を見上げる顔を見られただけで十分だ」リィナが小さく笑い、銃身を震わせた。『じゃあ行こっ、ナギ!』
last updateLast Updated : 2025-10-05
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第64話「時を失った村」

光の扉を抜けた先は、のどかな村だった。小川が流れ、畑には緑が広がり、鳥の声が響いている。……一見すれば、穏やかで平和な場所。だが、すぐに異変に気づいた。「……なあリィナ。あの人……さっきから同じ動きを繰り返してねぇか?」畑にいる男は鍬を振り下ろし、土を掘り返す。だが次の瞬間には、土が元通りになり、また同じ場所を掘り返す。井戸端の女性も、水を汲んでは同じ桶をひっくり返し、また水を汲む。子どもたちも、同じ笑い声をあげて同じ場所を駆け回る。『……ナギ、この村、時間が止まってるんだよ』「時間が……止まってる?」『ううん、“進まなくなってる”って言った方が正しいかな。みんな同じ瞬間を繰り返してるだけで、前に進めなくなってる』俺は背筋に冷たいものが走った。「……これも“歪み”か」村の広場に大きな日時計が立っていた。しかし針はまったく動かず、影すら落ちていなかった。その瞬間、耳に低い声が響いた。「時を進める必要などない」広場の中央に現れたのは、砂色の衣を纏った老爺だった。その背後には巨大な砂時計が浮かんでおり、中の砂は動かずに固まっている。「私は《停時の翁》。人々を時の流れから解放し、永遠の安らぎを与える者」老爺はゆっくりと微笑んだ。「時間は人を老いさせ、別れを呼ぶ。ならば、止めてしまえばいい。同じ幸福を、永遠に繰り返させてやろう」『ナギ……この人が“時間を止めた守人”だ!』俺は銃を握りしめ、睨み返した。「時間があるからこそ、人は生きてるんだ!前に進めないなら、それはただの繰り返しだろう
last updateLast Updated : 2025-10-05
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第65話「停時の翁」

銃弾が放たれた瞬間、世界がふっと色を失った。次の瞬間には、俺の身体ごと“巻き戻されて”いた。銃を撃つ前の姿勢に戻り、指はまだ引き金にかかっていない。「……っ、俺の攻撃が……なかったことになった!?」『ナギ! 停時の翁は“時間を止める”だけじゃなく、“巻き戻す”こともできるんだ!』翁が静かに言葉を放つ。「人は必ず失敗をする。だが時を戻せば、その失敗はなかったことになる。——それが安らぎではないか」「……違ぇよ」俺は奥歯を噛みしめ、睨み返す。「失敗があるから、人は学べるんだ!なかったことにしたら、前に進めねぇ!」翁が首を振る。「進んでも、やがて終わりが来るだけだ。ならば時を止め、永遠の安らぎに留まればよい」巨大な砂時計が轟音を響かせ、砂が逆流を始めた。すると村の人々は笑顔のまま動きを繰り返す。——畑を掘る男も、井戸で水を汲む女も、子どもたちも。同じ瞬間を、何度も何度も。『ナギ……みんな“永遠の繰り返し”に囚われてる……!』「ふざけんな!」俺は再び銃を構え、撃ち放つ。だが弾丸は空中で止まり、逆流して銃口に戻ってきた。「……!?」翁が淡く笑む。「時間を止められた者に、抗う術はない」「……なら、止められねぇものを撃てばいいんだな」翁の眉がわずかに動く。「止められぬもの?」俺は銃を高く掲げ、叫んだ。「“想い”だ! 未来に進もうとする意志は、誰にも止められねぇ!」リィナ
last updateLast Updated : 2025-10-06
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第66話「動き出す村」

砂時計が砕け散った瞬間、村全体に“風”が吹き抜けた。止まっていた景色がざわめき、木々の葉が揺れ、小川の流れが音を立てる。「……動いてる」俺が呟くと、畑を掘っていた男が目を瞬かせた。「……え? 土が……掘れた……?」彼は鍬を投げ出し、土に両手を突っ込んで笑い出した。「掘れたぞ! 本当に掘れた!」井戸端の女は桶を抱え、こぼれる水を見つめて涙を流している。「水が……冷たい……でも、生きてる……!」子どもたちは走り回り、笑い声が次々に変化していく。同じ言葉ではなく、思いついたままの声を上げていた。『ナギ、見て……! みんな時間を取り戻したんだ!』「ああ……やっと“前に進める”ようになったんだな」村人たちは俺の前に集まり、次々に感謝を告げてきた。「旅の方……あなたのおかげです」「時が動くなんて、信じられませんでした」「これで……また季節を感じられる……!」その瞳には不安もあったが、それ以上に“未来を見たい”という強い光が宿っていた。俺は照れくさくなって頭を掻いた。「いや、俺はちょっと手を貸しただけだ。本当に時間を進めたのは……お前ら自身だろ」リィナが小さく笑って言う。『うん。だって、この村の人たちが“進みたい”って思ったから、時間が動いたんだよ』村の広場に立つ日時計が光り、影を落とした。それは確かに、前へと進む時間の証だった。「……いいも
last updateLast Updated : 2025-10-06
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第67話「声を失った森」

光を抜けた先は、深い森の中だった。木々は生い茂り、枝葉は青々と茂っている。けれど——「……静かすぎるな」風が吹いても葉は揺れず、鳥も獣も鳴かない。川が流れているのに、水音すらしなかった。『ナギ……音が全部消えてる……!』確かに、足を踏みしめても地面が鳴らない。息を吐いても、声すら響かない。「声が……出ねぇ……」俺が試しに叫ぼうとしたが、喉は震えるのに音が外に出なかった。『ナギ! これは“音を奪う歪み”だよ!』森の奥へ進むと、集落があった。人々が暮らしているが、誰も声を出していない。口を動かしても、音が生まれず、伝わらない。「……会話ができねぇのか」人々は仕方なく手振りで意思を伝え合っている。笑顔もあるが、そこには深い孤独が滲んでいた。村の中央には大きな切り株があり、その上に銀色の仮面をつけた女が座っていた。女は静かに立ち上がり、俺を見つめる。声はないはずなのに、不思議と頭の中に言葉が響いた。「私は《沈黙の女王》。人々の争いを止めるため、声を封じた」女王は仮面を外し、美しい口元をわずかに動かす。だがそこからは一切の声が漏れない。「声は刃。言葉は人を傷つける。ならばいっそ、声などなくてもいい」リィナの声が心の中に響いた。『ナギ……この人が“声を奪った守人”だ!』俺は銃を構え、声が出せないまま心で叫んだ。「声は確かに刃になる。けど、同時に繋ぐ力だ!奪わせはしねぇ!」女王が右手を掲げると、森全体がさらに沈黙に包まれた。空気が重くなり、鼓動すら
last updateLast Updated : 2025-10-07
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第68話「沈黙の女王」

銃口から放たれた白光が森を裂いた。だが、音はしない。轟音も衝撃音もなく、ただ光だけが走っていく。沈黙の女王は片手を掲げ、白光を軽々と弾いた。その瞳には怒りもなく、ただ冷たい静けさが漂っていた。「声は争いを呼ぶ。怒号、罵声、嘘、裏切り……すべては言葉から生まれる」女王の声は頭の中に直接響く。言葉は聞こえるが、そこに温度はない。「だから私は、声を奪った。人は静かであれば、傷つかない」俺は唇を噛みしめた。声を出そうとしても、喉が震えるだけで音は生まれない。『ナギ……どうする? 声が出せないままじゃ、戦いにならないよ……!』「……いや、違ぇな」俺は女王を睨み、心で強く叫んだ。「声が出せなくても、心は叫べる!」女王が仮面を外すと、無数の銀色の糸が空へと伸び、森全体を絡め取った。その糸が木々や人々にまとわりつき、声をさらに深く封じていく。『ナギ! あれは“言葉を縛る糸”だ!』糸が俺にも絡みつき、胸を締めつける。喉だけでなく、心まで封じられる感覚に襲われる。「……ぐっ……!」女王が近づき、冷たい瞳で囁く。「静寂こそが救い。あなたも声を捨て、安らぎに沈むのです」——その瞬間。俺の胸の奥から、リィナの声が響いた。『ナギ! 私が“声になる”!』銃身が淡く光り、リィナの声が森に広がった。本来は音が消えた世界。けれど確かに、彼女の声だけが届いた。『声は傷つけることもある。でも——守ることもできる!笑わせることも、励ますことも、繋ぐこともできるんだ!』
last updateLast Updated : 2025-10-07
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第69話「声を取り戻す森」

風が吹き抜けた。その音を、俺は心の底から懐かしいと思った。葉が擦れ合うざわめき、鳥のさえずり、水の流れる音。森に“音”が戻ったのだ。「……ああ……これが、音か」口に出した声が、ちゃんと耳に届いた。それだけのことなのに、涙が出そうになる。『ナギ! ちゃんと聞こえる!』リィナの声が、久しぶりに空気を震わせた。優しくて、澄んでいて、だけど確かに“生きてる”音。俺は笑いながら銃を肩にかけた。「リィナの声が聞こえねぇ世界なんて、つまらなすぎるからな」『なっ……なにそれ!///』『も、もぉ……照れること言わないでよっ!』「ははっ、言葉ってのは照れくさくても、伝えねぇと意味ねぇだろ?」リィナはぷくっと怒ったように沈黙したが、銃身が小刻みに揺れているのが可笑しかった。それが彼女なりの“照れ隠し”だ。村に戻ると、人々が泣きながら互いに言葉を交わしていた。「……ずっと……あなたに言えなかったことがあるの」「俺も……本当は、もう一度“ありがとう”って言いたかった」誰もが抱えていた言葉を、ようやく外に出せたのだ。沈黙の森に、無数の“ありがとう”と“ごめんね”が交差していく。「……やっぱり、言葉ってすげぇな」『うん……音も、声も、人の心を動かすんだよね。争いを呼ぶこともあるけど……それ以上に、誰かを支えるためにあるんだと思う』女王のいた切り株の上に、淡い光が残っていた。そこから、かすかな声が響いた。「ありがとう……声を、思い出させてくれて……」風がその言葉を運び、森全体に広がっていく。木々がざわめき、鳥が歌い、獣が吠える。それはまるで“世界そのものの合唱”のようだった。俺は空を見上げ、ゆっくりと息を吐いた。「……いい音だ」リィナが優しく微笑むように言った。『ねえ、ナギ。もし次の世界で、声が届かない相手がいたら……』「そのときは?」『ちゃんと伝わるまで、叫ぼうね』「——ああ、もちろんだ」ふと、空に光の扉が開いた。木々の隙間から漏れる光が、柔らかく俺たちを包む。「……次の歪みが呼んでるな」『うん。でも、今度はどんな“音”が待ってるんだろうね』「さあな。けど、静かすぎるよりマシだ」リィナがくすっと笑う。『それ、同感!』俺たちは銃を構え、光の中へと踏み出した。音を取り戻した森を背にして。
last updateLast Updated : 2025-10-08
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第70話「色を失った海」

光を抜けると、潮の匂いが鼻をくすぐった。足元には白い砂浜——のはずなのに、どこかおかしい。「……灰色、だな」海を見渡す。波は穏やかに寄せては返すが、その色は一面の灰色。空も曇っていて、青がどこにもなかった。『ナギ……この世界、“色”が消えてる』リィナの声にも、少し寂しさが混じっていた。彼女の銃身に反射する光さえ、どこか鈍く、色味を失っている。「……まるで世界がモノクロ映画みたいだな」海辺の村に入ると、人々が淡々と作業をしていた。漁師は網を引き上げ、魚を選別する。子どもたちは貝を拾い、女たちは料理をしている。……だが、誰の顔にも“表情”がなかった。笑いも、怒りも、涙も。感情の色さえ消えた世界だった。「すみません、この海……いつからこんな色に?」年老いた漁師が淡々と答えた。「昔は青かった。だがある日、空の神が怒って色を奪ったんだとさ」「空の神?」「空の色も海の色も、みんな“心が濁った”からだってさ。だから神は怒って、全部の色を閉じ込めた」リィナが小さく唸る。『……神の怒り、ってより“歪み”の気配がするね』「ああ。色が消えるってことは、きっと感情も奪われてるんだ」村の中央には、巨大な貝殻の神殿があった。中に入ると、壁一面に淡い光が反射している。奥の祭壇に、青く輝いていたはずの“蒼珠”が、今は灰色に濁って鎮座していた。「……この珠が、色を奪った元か」そのとき、神殿の奥から声が響いた。「色など、無意味だ」姿を現したのは、白い衣を纏った青年だった。髪は透き通るように白く、瞳も灰色。まるで“この世界そのもの”のような無彩の存在。「私は《無彩の巫》。神の怒りを鎮めるため、人々から色を奪った」『ナギ、この人が“色を奪った守人”だ!』巫は静かに言葉を続ける。「色は心を乱す。喜びは欲を生み、悲しみは絶望を呼ぶ。色を捨てれば、人は静かに生きられる」「……なるほどな」俺は海の方を振り返った。灰色の波が静かに打ち寄せている。そこに、生も死も、情熱も感じられない。「でも、それって“生きてる”とは言えねぇだろ」巫の瞳がかすかに揺れる。「……生きるとは、苦しむことですか?」「苦しむことも、笑うことも、生きるってことだ。どっちかだけじゃ、心は死んじまう」巫が手をかざすと、神殿中に灰色の波が広がった。
last updateLast Updated : 2025-10-08
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