光を抜けた先は、静かな丘の上だった。眼下には広い街が広がり、灯りが点々と輝いている。だが、夜空を見上げた俺は思わず息を呑んだ。「……星が、ひとつもない」黒い空が果てしなく広がっている。月の光すらなく、まるで世界が天井に覆われたようだった。『ナギ……この世界、夜空から星が全部消えちゃってる』「星がない夜なんて……不気味だな」街に降りると、人々は夜でも普通に暮らしていた。酒場では笑い声が響き、子どもたちは遊び、商人は取引を続けている。だが、空を見上げる者は誰ひとりいなかった。「なあ、星が消えたって気づいてるんだろ?」俺が声をかけると、男は笑って肩をすくめた。「気づいてるさ。だが別に困らんだろ?星なんて眺めても腹はふくれねぇ」「……本気で言ってんのか?」『ナギ……! この人たち、“未来を見る力”を失ってる!』「未来……?」『うん。星はね、ただ光るだけじゃなく、人に“希望”を思い出させるものなんだよ。でもこの世界では星が消えたせいで、みんな明日を信じられなくなってる』確かに、街の人々は楽しそうに笑っているが、どこか諦めを滲ませていた。その笑顔は、今だけを消費する虚しいものに見えた。「……やっぱり、これも“歪み”だな」広場の中央に、大きな塔が立っていた。その先端には漆黒の宝石が輝き、夜空に覆いをかけているようだった。塔の上から、声が降り注いだ。「空を見上げる必要などない」姿を現したのは、黒いマントを纏った人物だった。その手には、光を吸い込むような黒い杖。「私は《夜覆いの導師》。人々に
Last Updated : 2025-10-04 Read more