白光の弾丸が灰色の霧を貫いた。だが、霧は傷一つ負わず、逆にこちらへと押し寄せてくる。色のない波が俺とリィナを包み、世界がゆっくりと“無”に沈んでいく。「……ぐっ……体が……動かねぇ……!」足元から色が抜けていく。肌も服も灰色になり、感覚が鈍くなっていく。『ナギ! ダメ! “感情”を奪われちゃってる!』巫の声が静かに響いた。「心の色は争いの源。愛は執着を、怒りは破壊を、悲しみは絶望を生む。ならば、すべてを無色にすればよい」「……それが救いだって言うのかよ……」声に力が入らない。心まで灰色に染まっていく感覚——まるで、自分が誰だったのかすら薄れていくようだ。そのとき。『ナギ……思い出して!』リィナの声が光のように響いた。『ナギはね、どんなに苦しい世界でも、誰かの笑顔を見て立ち上がってきた!火を灯した人、夢を守った人、影を受け入れた人……全部、ナギが“色を返した”人たちだよ!』「……俺が……色を返した……?」胸の奥が熱くなった。白でも黒でもない、確かな“赤”が、心の奥から滲み出る。怒りではなく——命の熱。「そうだ……色は消せねぇ。俺たちが、生きてる限り!」リィナの銃身が眩しく光り、俺の手に確かな力が戻る。巫が驚きの表情を見せる。「……色を……取り戻すだと……?」「無彩の世界なんて、生きる意味がねぇんだよ!」俺は銃を掲げ、叫んだ。「赤は情熱、青は希望、緑は命——全部、痛みの上にある“生きる証”だ!」引き金を引く。——バンッ!白光が弾け、灰色の霧を焼き尽くす。空へ向かって放たれた光が裂け、世界に色が流れ込んだ。最初に戻ったのは海の青。次に空が澄み渡り、木々が緑を取り戻す。そして最後に、人々の頬に紅が戻った。『ナギ……! 色が……戻ってる!』巫が崩れ落ちるように膝をついた。灰色の瞳がゆっくりと青に染まっていく。「……私は……何を……」「お前も“恐れてた”だけだ。色を、心を、そして人を信じることを」巫の目から一筋の涙がこぼれた。それは淡い蒼——世界で一番美しい“青”だった。「……そうか……色は……生きる証……」彼の身体は光となり、静かに溶けていった。海が再び青く輝き、波が音を立てて寄せてくる。村の人々は笑いながら手を伸ばし、空を見上げた。「空が青い……!」「海も、光ってる
Last Updated : 2025-10-09 Read more