All Chapters of 異世界リロード:神々の遣り残し: Chapter 71 - Chapter 80

106 Chapters

第71話「無彩の巫」

白光の弾丸が灰色の霧を貫いた。だが、霧は傷一つ負わず、逆にこちらへと押し寄せてくる。色のない波が俺とリィナを包み、世界がゆっくりと“無”に沈んでいく。「……ぐっ……体が……動かねぇ……!」足元から色が抜けていく。肌も服も灰色になり、感覚が鈍くなっていく。『ナギ! ダメ! “感情”を奪われちゃってる!』巫の声が静かに響いた。「心の色は争いの源。愛は執着を、怒りは破壊を、悲しみは絶望を生む。ならば、すべてを無色にすればよい」「……それが救いだって言うのかよ……」声に力が入らない。心まで灰色に染まっていく感覚——まるで、自分が誰だったのかすら薄れていくようだ。そのとき。『ナギ……思い出して!』リィナの声が光のように響いた。『ナギはね、どんなに苦しい世界でも、誰かの笑顔を見て立ち上がってきた!火を灯した人、夢を守った人、影を受け入れた人……全部、ナギが“色を返した”人たちだよ!』「……俺が……色を返した……?」胸の奥が熱くなった。白でも黒でもない、確かな“赤”が、心の奥から滲み出る。怒りではなく——命の熱。「そうだ……色は消せねぇ。俺たちが、生きてる限り!」リィナの銃身が眩しく光り、俺の手に確かな力が戻る。巫が驚きの表情を見せる。「……色を……取り戻すだと……?」「無彩の世界なんて、生きる意味がねぇんだよ!」俺は銃を掲げ、叫んだ。「赤は情熱、青は希望、緑は命——全部、痛みの上にある“生きる証”だ!」引き金を引く。——バンッ!白光が弾け、灰色の霧を焼き尽くす。空へ向かって放たれた光が裂け、世界に色が流れ込んだ。最初に戻ったのは海の青。次に空が澄み渡り、木々が緑を取り戻す。そして最後に、人々の頬に紅が戻った。『ナギ……! 色が……戻ってる!』巫が崩れ落ちるように膝をついた。灰色の瞳がゆっくりと青に染まっていく。「……私は……何を……」「お前も“恐れてた”だけだ。色を、心を、そして人を信じることを」巫の目から一筋の涙がこぼれた。それは淡い蒼——世界で一番美しい“青”だった。「……そうか……色は……生きる証……」彼の身体は光となり、静かに溶けていった。海が再び青く輝き、波が音を立てて寄せてくる。村の人々は笑いながら手を伸ばし、空を見上げた。「空が青い……!」「海も、光ってる
last updateLast Updated : 2025-10-09
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第72話「夢を見失った少女」

光の扉を抜けた先は、やわらかな夕暮れの街だった。石畳の道に並ぶ小さな家々。窓からは灯りが漏れ、人々の笑い声が遠くに聞こえる。……ただ、その笑い声にどこか違和感があった。「なんだろうな……笑ってるのに、心が動かねぇ感じだ」『ナギ、ここも“歪み”があるよ。街の“夢”が止まってる。』「夢が……止まってる?」『うん。人が“明日を描く力”を失ってるの。』街の広場では、若者たちが集まっていた。音楽を奏でているようで、どの音も単調だ。絵描きの少女は絵筆を持っているが、真っ白なキャンバスに何も描こうとしない。「……何してるんだ?」「絵? ああ……描くのはやめたよ。」少女は淡々と答えた。「どうせ描いても、現実にはならないもの。」その言葉に、胸の奥がざらつく。——叶わない夢なんて、見ても無駄。その空虚な響きが、この街全体を包んでいた。広場の中央に、大きな時計塔がそびえていた。だが、その針は動かない。代わりに、塔の上に立つ少女が空を見上げていた。白いワンピース。髪は薄く金色で、瞳は眠たげな灰。彼女の周囲だけ、まるで世界が“止まっている”ように見えた。「私は《夢眠(むみん)の少女》。人々の夢を眠らせ、静かな現実を守る者。」リィナがすぐに言葉を発する。『ナギ、この子が“夢を止めた守人”だ!』少女は穏やかに微笑む。「夢なんて、痛いだけ。叶わない夢は絶望を生む。だったら最初から、見なければいい。」「……またそれかよ。」俺は銃を握り、彼女を真っ直ぐ見据えた。「夢を見ねぇ現実なんて、ただの“繰り返し”だ。俺はもう、止まってる世界なんか見たくねぇ!」少女が小さく首を振る。「あなたも夢を見たのね。叶わなかったから、怒ってる。」胸がひどく刺さった。図星だった。前の世界でも、何度も失ってきた。救えなかった命。届かなかった想い。そして、最後まで見られなかった“終わりの夢”。リィナの声が静かに重なる。『ナギ……』「違ぇよ。」俺は短く息を吸い、少女に言い放つ。「叶わなかった夢も、“生きた証”なんだ。痛くても、恥ずかしくても、夢を見たから今がある!」少女の瞳がわずかに揺れた。「……夢を……見たから、今がある……?」そのとき、広場の周囲に眠っていた夢たちが、ふわりと浮かび上がった。色を失った絵、途切れた音楽、書
last updateLast Updated : 2025-10-09
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第73話「眠る夢、覚める朝」

白光が消えたあと、広場は柔らかな朝焼けの色に染まっていた。止まっていた時計塔の針が動き、鐘が静かに鳴り響く。「……朝が、来た……?」夢眠の少女は、驚いたように空を見上げていた。灰色だった空に、オレンジ色の光が滲み、遠くの雲を金色に染めている。『ナギ……! 時計が動いてる!』「ああ。ここの“時間”も止まってたんだな」少女は膝をつき、両手で顔を覆った。「……怖かったの。夢を見ると、壊れちゃう気がして。叶わないことばかりで、心が擦り切れて……もう、何も見たくなかったの。」俺は銃を下ろし、少女の前にしゃがみ込んだ。「夢は壊れるもんだ。けど、壊れるたびに人は立ち上がる。それが生きるってことだろ。」少女が顔を上げると、涙に濡れた瞳の奥で、まだ小さな光が瞬いていた。「……私にも、また……夢を見ていいの?」「いいも悪いもねぇ。見たいなら、見ればいい。その夢が叶うかどうかより、“見ようとする気持ち”が大事なんだ。」リィナがやわらかく笑って声を添える。『そうだよ。夢ってね、“終わり”じゃなくて、“始まり”なんだよ。ナギだって、そうでしょ?』「ま、俺の夢はいつも途中で転がってくけどな」「でも——それでも、続けて見る。」少女はゆっくりと立ち上がった。そして、止まっていた絵筆を手に取り、真っ白なキャンバスに色を落とした。——青。その一筆で、街中に色が広がっていった。音楽家が再び弦を弾き、詩人が言葉を紡ぎ、子どもたちが未来の話を始める。
last updateLast Updated : 2025-10-10
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第74話「涙を忘れた王」

光を抜けた先は、白い大理石で造られた壮麗な城下町だった。だが、その美しさにはどこか冷たさがあった。人々は丁寧に挨拶を交わし、礼儀正しく振る舞っている。……それなのに、笑顔がない。「……誰も、笑ってねぇな。」『ううん、笑ってないだけじゃない。ナギ……この人たち、泣けないんだ。』「泣けない?」『そう。悲しみの感情が、“消されてる”感じがする。……この国の空気、変だよ。』城門の前には銀色の紋章が掲げられ、その下には刻まれた言葉があった。「涙は弱さ。涙なき民こそ、真に強し。」俺は眉をひそめた。「……最悪の教えだな。」城下町を歩くと、母親が転んだ子どもを抱き起こしていた。だが、母親の目にも、子どもの頬にも涙はなかった。痛みも悲しみも、どこか“無理に押し殺されている”。その光景が、やけに苦しかった。「……なあリィナ。」『うん。たぶん、この“歪み”は——』そのとき、城の上から響く声があった。「旅人よ。涙など、無意味だ。」姿を現したのは、蒼銀の鎧を纏った若い王だった。背筋は真っすぐで、瞳は凛としている。だが、その表情には温もりがなかった。「私は《涙無(るいむ)の王》。民を悲しみから救うため、涙という毒を取り除いた。」『ナギ、この人が“涙を封じた守人”だ!』王は静かに手をかざした。空に広がる雲が割れ、白い光が街を包む。「この国には、絶望も苦悩もない。誰も泣かず、誰も傷つかない。——完璧な世界だ。」「完璧だぁ?
last updateLast Updated : 2025-10-10
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第76話「記憶を忘れた街」

——白い霧が、視界のすべてを包んでいた。風も、音も、匂いもない。足元を確かめようにも、地面があるのかも分からない。「……また、ここはどんな世界だ?」俺の声が、霧の中に吸い込まれていく。反響も、返事もない。『ナギ、ここ……変だよ。』リィナの声も、少し震えていた。『気配があるのに、誰の“心の音”も感じないの。まるで、みんな“自分”を忘れてるみたい。』やがて霧の中から、ぼんやりと街の輪郭が現れた。建物は並んでいるのに、どれも同じ形。人々は行き交っているのに、顔が曖昧で区別がつかない。そして、誰も名前を名乗らなかった。「おい、あんた。ここはどこだ?」「……ここ?」その男は首をかしげた。「ここは……“ここ”だよ。」「名前は?」「……名前……?」そう言って、男はただ首を傾げ、何も思い出せないようだった。リィナが小さく息をのむ。『ナギ、この世界の人たち、記憶を全部なくしてる……!』「記憶を……?」『うん。名前も、過去も、家族も、何もかも。でも、本人たちは“何かを失った”ってことすら忘れてるの。』俺はあたりを見渡した。人々は淡々と生活している。笑いも怒りも、まるで“誰かの真似”のように機械的だった。「……まるで、魂まで薄まってるみてぇだな。」そのとき、霧の奥から足音が聞こえた。白い外套を纏った人物が、静かに姿を現す。「ようこそ、忘却の街へ。」
last updateLast Updated : 2025-10-10
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第75話「涙の王冠」

白光が消えたあと、城の大広間に静寂が戻った。だが、先ほどまでの“凍てつく静けさ”ではない。空気の中に、微かに温かい息づかいがあった。涙無の王は玉座の前に膝をつき、胸に手を当てていた。彼の鎧にひびが走り、その隙間から柔らかな光が漏れている。「……なぜだ。涙は弱さだ。悲しみは……破滅を呼ぶだけのはずなのに……」リィナが静かに語りかける。『それでもね、人は泣くんだよ。悲しいとき、悔しいとき、誰かの痛みに触れたとき。涙は、心がまだ“生きてる”って知らせてくれるんだ。』王はゆっくりと顔を上げた。彼の瞳には、わずかに濡れた光が宿っていた。「……私は、この国を守るために涙を封じた。戦で多くの者が死に、民は泣き続けていた。私は、彼らの涙を止めたかった。——それが、救いだと思っていた。」俺は銃を下ろし、王の前に歩み寄った。「その気持ちは、分かるよ。誰かの涙を見続けるのは、地獄みたいに苦しいもんな。」王の拳が震える。「……そうだ。私は、もう見たくなかったんだ。息子を亡くした母の涙を。友を失った兵の涙を。そして、誰より——自分の涙を。」彼の頬に一筋の涙が伝った。その瞬間、王の頭上にある王冠が淡く光り始めた。『ナギ、見て……王冠が“泣いてる”!』金色の王冠から、水のような光が零れ落ちていた。それはまるで、王の心そのものが解けていくようだった。俺は微笑んで言った。「なあ、王様。お前が泣けるなら、この国の人たちも泣けるはずだ。」王が息を呑む。「&hell
last updateLast Updated : 2025-10-11
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第77話「忘却の番人」

霧が裂け、街にかすかな色が戻り始めた。それでもまだ世界は半分ほど灰色で、足元の石畳は夢の中のように柔らかい。番人は目を見開いていた。彼の白い外套が風に揺れ、光に照らされるたびに少しずつ「人の肌色」を取り戻していく。「……あなたは、なぜ記憶を取り戻せたのです?この街に来た者は、皆、名を忘れ、過去を手放して静かに眠るというのに。」俺は銃を下ろし、ゆっくりと歩き出した。「簡単な話だ。誰かが“俺の名前を呼んでくれた”からだよ。」リィナが微笑む。『忘れたくなかったからね。ナギのこと、全部ちゃんと覚えていたかった。』番人はその言葉を聞いて、ほんの少し眉を寄せた。「記憶は、呪いだ。思い出すたびに痛む。忘れてしまえば、その苦しみから解放される。それを私は望んだのだ。」リィナが銃身をわずかに揺らし、優しく言う。『でもね、番人さん。痛みがあるから“思い出”になるんだよ。誰かを想って泣いたり、悔やんだりできるのは、ちゃんと“生きた”証なんだ。』「……証……」番人の瞳が揺らぎ、頭を抱えた。「私は……あの日、愛する者を失った。何度も思い出しては、心が壊れそうになった。だから私は、自らの記憶を消したのだ。その痛みを知らぬ者として、この街を見守るために。」俺は静かに頷いた。「忘れることで守るってのも、悪くねぇ。けどな、それは“生きてる”とは言えねぇんだ。」番人が顔を上げる。俺はまっすぐ言葉を続けた。「痛みも悲しみも、俺たちの“生きてきた形”なんだ。誰かの笑顔も、泣き顔も、全部が今の俺を作ってる。それを捨
last updateLast Updated : 2025-10-12
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第78話「影を憎んだ町」

光の扉を抜けると、まぶしすぎるほどの陽光が降り注いだ。眩しさに目を細めながら一歩を踏み出すと、白い石造りの街並みが広がっていた。家も道も壁も、どれも光を反射するほど白い。だが——「……影が、ねぇな。」足元を見下ろす。太陽の真下にいるのに、俺の影がどこにもなかった。『ナギ……この世界、“影”が消されてる。』「消されてる?」『うん。建物も、人も、光しか映ってない。何かが、意図的に“影を憎んでる”んだよ。』街を歩く人々は明るい笑顔を浮かべている。陽気な声が飛び交い、花が飾られ、音楽が響いている。けれど——その笑顔はどこか、無理に作ったように硬い。すれ違った少女が俺の背を見て、怯えたように後ずさった。「な、なんだ?」少女は震える声で言った。「お兄さんの背中……“黒い線”が見える……!」振り返ると、俺の足元にうっすらと影が伸びていた。ほんのわずかだが、確かに“闇”があった。街の人々がざわめき始める。「あれは“影の呪い”だ!」「早く神殿に知らせろ!」リィナが小さく息をのむ。『ナギ……どうやらこの町では、影が“罪”にされてるみたい。』「……また極端な理屈だな。」広場の奥に、巨大な神殿がそびえていた。その頂にはまばゆい光の玉が浮かび、まるで太陽そのもののようだった。俺が近づくと、神殿の扉が開き、光をまとった男が現れた。長い金髪に白い装束。その身体からは本物の陽光が溢れている。「私は《
last updateLast Updated : 2025-10-12
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第79話「風を忘れた丘」

光の扉を抜けると、そこは果てしない丘の上だった。空は高く、雲ひとつない。緑の草原が遠くまで広がっている。けれど——「……静かすぎるな。」耳を澄ましても、何も聞こえない。木の葉は揺れず、草も靡かない。まるで世界全体が“呼吸”を止めているようだった。『ナギ……風がない。』リィナの声も、どこか小さく感じた。いつもなら彼女の声が空気を震わせるのに、今は空気そのものが“止まっている”。「風が吹かねぇと……世界が息してねぇみたいだな。」丘を下ると、小さな村が見えてきた。人々は穏やかに暮らしているように見えたが、洗濯物は乾かず、風車は止まったままだった。「こんにちは。」そう声をかけても、返ってくるのは淡い笑みだけ。「風がないの、不便じゃないのか?」村人の女性は首をかしげて言った。「風? ああ、昔はあった気もするけど……今はもう、いらないものになったのですよ。」「……いらない?」「風があると、嵐が来る。嵐があると、家が壊れる。だから、風を封じたのです。“平穏”のために。」リィナが低く呟いた。『……平穏、ね。』村の中心には、高い塔が立っていた。塔の上に、大きな金属の羽根が見える。風車のような形をしているが——まったく動いていない。塔の前には、白い髪をなびかせた少女が立っていた。いや、“なびかせた”と言っても、風はない。彼女の髪は完璧なまま、微動だにしない。「私は《静穏の巫女》。この丘に
last updateLast Updated : 2025-10-13
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第80話「星を落とした少年」

夜空が広がる。静かな丘の上に降り立った瞬間、風が頬を撫でた。空には無数の星々が瞬いている——はずだった。「……ん?」一箇所だけ、空にぽっかりと黒い穴が開いていた。まるで、そこだけ星が“抜け落ちた”ように。『ナギ、あそこ……星が欠けてる。』「ああ。……まるで誰かが一個、落っことしたみたいだな。」リィナがくすっと笑う。『もしかして、ほんとに誰かが落としたのかも?』「まさか……」そう言いかけたとき、丘のふもとから鈍い音が響いた。ドンッ——。振り返ると、夜の草原の中で、小さな光がもぞもぞと動いている。「……おいおい、マジかよ。」近づくと、そこに座り込んでいたのは、金色の髪をした少年だった。彼の膝の上には、掌ほどの“星の欠片”が乗っている。淡い光を放ちながら、じんわりと温かい。「お兄ちゃん……ごめんなさい。」少年はしゅんと肩をすくめて言った。「ぼく、星を落としちゃったんだ。」『えっ、星を!?』「夜空を見てたらね、ひとつだけ“さみしそう”に見えたんだ。だから、つい手を伸ばしたら……落ちてきちゃって。」俺は頭を抱えた。「お前、無自覚に神レベルのことしてんな……!」リィナは呆れたように言う。『でも、可愛い子だね。ナギみたいに“余計な優しさ”で動いちゃうタイプだ。』「俺みたいにって言うな。」少年は申し訳なさそうに言った。「ぼく……ちゃんと戻したいのに、空まで届かないんだ
last updateLast Updated : 2025-10-13
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