次の世界は、まるで静止した湖の上に建っていた。風はなく、波もない。空と水面がひとつに溶け合い、どちらが上でどちらが下か、見分けがつかない。その中心に、巨大な鏡で造られた神殿がそびえていた。柱も壁も床も、すべてが鏡。俺とリィナの姿が、どこまでも映し出されている。『ナギ……これ、全部……鏡?』「ああ。いやな場所だな。全部自分の顔ばっかり見える。」『でもキレイだよ。ほら、ナギの後ろ姿も反射して——』「うるせぇ。恥ずかしい。」歩を進めるたびに、足音が反響して消えていく。やがて、神殿の奥にひとつの玉座が見えた。そこに座っていたのは、銀色の衣をまとった存在。性別も年齢も分からない。顔は鏡のように滑らかで、目も口もない。「ようこそ、《真実の間》へ。」声が頭の中に直接響いた。「私は《鏡神》。世界を“正しく映す”ために創られた存在。」リィナが身構える。『ナギ、この人が“真実を映す守人”だ!』神は静かに続けた。「あなたたちは数多の歪みを正してきた。だが、それは本当に正しかったのでしょうか?」「……は?」「あなたの行いが“善”である保証はない。あなたの“正しさ”が、誰かの悲しみを生んでいないと、言い切れますか?」リィナの声が少し震える。『ナギ……この人、私たちを試してる……!』「試してる?」「この世界では、すべての言葉と行動が“映される”。あなたが信じる真実を、鏡は偽れない。」神殿の壁が光り、鏡の表面に波紋が走る。次の瞬間、そこに“俺自身”が映った。ただし、少し違う。瞳が暗く、口元に冷たい笑みを浮かべた“もう一人の俺”がそこにいた。「……またこういう系か。」『ナギ……あれ、何?』「俺の“裏側”だ。」鏡の中の俺が、口を開く。「お前は、自分の正義に酔ってるだけだ。世界を救う? 歪みを正す?結局は、誰かに“必要とされたい”だけじゃないのか?」「……うるせぇ。」「リィナを守ってるつもりだろう?でも本当は、失うのが怖いだけだ。前の世界で、“守れなかった誰か”を、今度こそってな。」拳が震えた。胸の奥を掴まれるような痛みが走る。リィナがすぐに俺の腕に触れた。『ナギ……聞かないで。あれは——』「いや、いい。」俺は鏡の中の“俺”を見据えた。「全部当たってる。俺は、怖ぇよ。また誰かを失うのが。で
Terakhir Diperbarui : 2025-10-14 Baca selengkapnya