All Chapters of 悠久の魔女は王子に恋して一夜を捧げ禁忌の子を宿す: Chapter 101 - Chapter 110

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101:陽炎の王妃

 アレクは彼らの様子を微笑みながら見守って、決意を新たにしていた。(俺が、必ず彼女の新しい世界になるんだ)「エリアーリア、ありがとう。俺と生きると決めてくれて」「ええ。あなたと、この子たちと、家族として生きていく。それが私の選んだ道よ」 彼女が自分のために、この穏やかな生活を捨ててくれる。その事実がアレクに深い感謝と、王としての責任を改めて感じさせていた。「さあ、行きましょう」 エリアーリアは最後に一度だけ、緑に覆われた小屋を振り返る。 七年間暮らしたこの場所は、アルトとシルフィが生まれてからの全ての時間だった。 思い出はたくさんある。名残惜しく思う気持ちもある。 でもそれ以上に、アレクとの未来を大切にしたかった。 エリアーリアは迷いなく、アレクの差し出す手を取った。◇ 全国の巡幸に出ていた国王が、辺境の薬草師と双子の子を連れて王都に帰還するというニュースは、瞬く間に国中を駆け巡った。 旅の道中、一行が通過する町や村では、人々が未来の王妃と王子、王女を一目見ようと、道にあふれている。 アルトとシルフィは、初めて見る世界の広さに目を輝かせていた。「かあさま、今日通った町の近くは、大きな川が流れていたね! あんなに大きな川、おれ、初めて見たよ」 アルトが言えば、シルフィも続ける。「緑色のぶどうを食べたの。ぶどうは紫色だと思っていたのに、ふしぎ。でも、おいしかった」 十日ほどの旅を経て、一行は王都へと帰り着いた。 民たちは熱狂的に歓迎してくれた。 王都では街路にたくさんの人が集まり、お祭り騒ぎだ。花が撒かれて華やかな空気に彩られていた。 しかし、貴族たちは必ずしも歓迎ばかりではない。自分の娘や妹を王妃にあてがおうとしていた者たちは、当てがはずれてしまって嫉妬の目を向けていた。 不幸中の幸いは、アルトとシルフィが父の面影と色彩を濃く宿していたために、血の繋がりを疑う者がいなかったくらいだろう。 アレクは王位に登る前
last updateLast Updated : 2025-11-11
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「これは陛下。どちらの森から、このような美しい妖精を連れてこられたのですかな?」 その貴族の言葉に、場の空気が凍りついた。つまり彼は、エリアーリアをどこの馬の骨とも知れない女と言っているのだ。 アレクは声の温度を一段下げて答えた。「俺の妃であり、アストレアの国の未来の国母となる人だ。卿も礼を尽くすがよい」 アレクの静かな怒りに、貴族は顔を青ざめさせる。(想定していたが、やはりこのような声が出るか。だがエリアーリア、君を傷つけさせはしない) 彼はどんな視線からもエリアーリアを守り抜くと、固く誓っていた。◇ 王都に戻ってほどなく、アレクとエリアーリアの結婚式が執り行われた。 美しいドレスをまとったエリアーリアが、アレクと並んで祭壇の前に立つ。 リングボーイとリングガールは、アルトとシルフィだ。二人は緊張した面持ちで、両親の指輪を運んでいた。「私は王妃エリアーリアに、生涯の愛を捧げると誓う」「……私も国王アレクに、永遠の愛を捧げます」 交わされた口づけにアルトは真っ赤になって、シルフィはじっと食い入るように見つめていた。 と、その時。 保守派貴族の長が「お待ちください!」と異を唱えようとした。だがアレクは彼を黙殺して、式場に集まった臣下と民衆たちに向かって宣言した。「聞け! 彼女は私の命を救い、我が子を守り抜いた、気高く慈愛に満ちた女性だ! 彼女こそ、私の唯一の妃であり、この国の賢妃となるべき人間だ!」 アレクとエリアーリアは手を取り合って、最後の儀式に臨む。 古い水晶玉に二人の手を置けば、まばゆい金色の光があふれ出した。エリアーリアの人ならざる強大な魔力に反応したのだ。 大きなどよめきが起こる。 声の多くは美しい光に対する称賛だったが、中にはそうでない者もいた。 その光を見た保守派貴族の長が、隣の者に囁いた。「……見ろ。やはりただの人間ではない。あの力、いずれ国を滅ぼ
last updateLast Updated : 2025-11-11
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103:陽だまりの家族

 アレクとエリアーリアの結婚式から、数日が過ぎた。 王都を挙げてのお祭り騒ぎもようやく収まってきて、王の家族が暮らす王宮も落ち着きを取り戻している。 朝の光が差し込む広大な食堂では、磨き上げられた長いテーブルが据えられている。 本来であれば王を頂点に、家族たちは下座に座って食事を摂る。 アレクが王子だった時代も、父王や王妃、兄とは距離があった。 けれど今は違う。アレクとエリアーリア、双子たちは大きなテーブルの端に腰掛けて、互いに近い距離で楽しい朝食を取っていた。 アルトがぴかぴかに磨かれた銀の食器を見て、目を丸くした。一つ一つ手に取って、途方に暮れている。「とうさま! ナイフとフォークがいっぱいあって、どれを使えばいいか分かんないよ」「はは、好きなものを使えばいい。作法はこれからゆっくり覚えればいいさ」 アレクは笑いながら、手ずから息子の皿にパンを取ってやった。 給仕の侍従が焦った顔をするが、気さくに笑いかける。「どうか気にしないでくれ。この子たちは市井で育った。故郷から引き離されたばかりで、余計な気遣いはさせたくない。何より俺自身が、長らく民の間に分け入って活動していた。礼儀が必要な場ではきちんと使うが、今は家族の食事だ。大目に見てほしい」「はっ。恐れ多いことです」 侍従は一礼して、その後は口出しすることはなかった。「このパン、ふわっふわ……」 シルフィは高級な白パンに感動している。緑の小屋で食べていたのは主にライ麦の黒パンで、小麦の白パンはめったに口にできなかった。 小さな手でちぎって食べていたが、ふと窓辺を見た。窓の向こうの木の枝で、小鳥たちが歌っている。 シルフィはこっそりパンを小さくちぎると、開け放たれた窓のそばに行って、手を差し出した。 ……ピピピ、チュチュ……。 小鳥たちが嬉しそうに鳴いて、シルフィの手からパンをつついている。 エリアーリアは娘に歩み寄って、肩に手を置いた。
last updateLast Updated : 2025-11-12
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 午後は、家族四人で王宮の庭園を散策した。 見事に手入れされた、幾何学模様の美しい庭園。ガーランドの治世で荒れた庭は手入れし直されて、生まれ変わっていた。「わあ! すごいお庭!」 アルトは広い芝生を駆け回って、木の枝を拾っては剣の素振りをしている。「シルフィも来いよ! 一緒に走ろう!」「アルト、待ってよ! ……あ。きれいなお花」 シルフィは双子の兄を追いかけて、途中で咲いている花に目を奪われた。 アレクとエリアーリアは、その後ろをゆっくりと歩いていった。「まったく、アルトったら。いつも元気ね、あの子」「いいことだ。あの子を見ていると、俺も元気をもらえるよ。もちろんシルフィもね」 ふと、エリアーリアは、庭園の隅にある珍しい花の元気がないことに気づいた。「陛下。あちらのサザンドラの花ですが、葉の色が少し悪いようです。根が弱っているのかもしれません」 エリアーリアも、人目のある場所ではアレクを陛下と呼ぶ。もちろん今は拒絶の意味ではなく、国王としてアレクを立てるために礼儀を守っているだけだ。 彼女を敵視する貴族がいる以上、つまらないことで足を引っ張られたくない。エリアーリアは一生懸命、人間の世界のマナーを学んでいた。 呼ばれてやってきた庭師の長は、彼女の言葉に怪訝な顔をした。「滅相もございません、王妃様。あれは私が長年、丹精込めて育てているものです。今年も花がよく咲きました。問題があるとは思えませんが……」「王妃の言う通りに土を調べてみよ」 庭師の言葉を、アレクは静かな口調で制した。「彼女は、この国で最も植物に詳しい人だ」 アレクの言葉からは、絶対の信頼が感じられる。エリアーリアは少し照れながらも、誇らしい気持ちになった。 少し不満そうに土を掘り返した庭師は、途中で顔色を変えた。「秋の終わりに降った長雨で、根が傷んでおりました。早めに気づけて良かった、今ならば手当てが間に合います。王妃様に感謝を」
last updateLast Updated : 2025-11-12
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 夜になって、子どもたちは寝室に入った。エリアーリアとアレクも一緒に行ってやる。 子供部屋は昔、アレクが小さかった頃に使っていたもの。当時は少し寒々しい部屋だったのに、今は温かさに満ちている。 床には玩具や絵本が散らばっていて、エリアーリアが片付けるようにお小言を言っていた。「いい? いくら王子様とお姫様でも、身の回りのことは自分でしなさい。侍女や侍従の人たちは、他にも仕事があるの。困らせては駄目よ」「えー? でも、侍従の人が『私の仕事はアルト様のお世話です』って言ってたよ?」 アルトが口を尖らせると、シルフィが冷静に言った。「アルト、赤ちゃんみたい」「えっ? なんで!?」 アルトはショックを受けた様子である。「お世話してもらってばかりなのは、赤ちゃんだけだよ。わたしたちはもう七歳なのに、情けないよ」「ううっ……。分かったよぉ」 アルトは悔しそうな顔で、シルフィと一緒に片付けを始めた。 アレクとエリアーリアは、笑ってはいけないと思いながらも顔が緩むのを抑えられない。「この子たちは、本当にいい子に育った。君のおかげだ」 アレクが囁やけば、エリアーリアは微笑む。「これからは、あなたも一緒に育てるのよ。あの子たちが大人になるまで」「とうさま、かあさま! 片付け終わったよ!」「偉いぞ。ご褒美に、お話を聞かせてあげよう」 四人はベッドに並んで腰掛けて、アレクが話し始めた。「ある森で迷った、一人の若者の話をしよう。彼はひどい怪我をして、森に迷い込んだ。ここで死ぬのだと覚悟したが、その森には、とても美しくて賢い、森の精霊が住んでいた……」 アレクはエリアーリアとの出会いの物語を、おとぎ話のように語り聞かせる。「ねえねえ、それから若者はどうなったの?」「森の精霊は、若者を許してあげたの?」 子どもたちは、それが自分たちの両親の話だとは気づかずに、うっとりと聞き入っていた。
last updateLast Updated : 2025-11-13
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106:忍び寄る悪意

 結婚から数ヶ月、王宮での家族の生活は、純粋な幸福と未来への希望に満ちていた。 陽光が降り注ぐ、美しい王宮の庭園。そこは王の家族にとって、ようやく手に入れた安らぎの場所だった。「今日もよろしくお願いします、師匠!」 アルトが訓練用の木剣を手に持って、一礼する。 礼を受けるのは宰相ヨハンだ。 ヨハンは今でこそ宰相職に就いているが、元は武人の家の生まれ。今は亡き父ヴァレリウス将軍のもとで、騎士として務めを果たしていた。 アレクが反乱軍を率いて蜂起してからは、敗走の時も地下に潜伏した時も、ずっと付き従った猛者である。「手加減はしませんよ、アルト殿下」 ヨハンがニヤリと笑うと、アルトは木剣を掲げた。「いいよ、望むところだ!」 ヨハンの指導のおかげで、アルトは正規の騎士の剣を覚えつつある。 高い身体能力と天性の才能のおかげで、アルトは年齢の割に相当に腕が立つ。それでも我流では限界があったが、ヨハンという師を得てさらに一段階、強くなっていた。 アルトが振った剣が空を切ると、巻き起こった風に驚いた蝶が舞った。蝶は花園へと飛んでいく。 蝶が飛び立った先、少し離れた花園で、エリアーリアがシルフィに魔力の扱いを教えている。 シルフィは咲き誇る花々の中に膝をついて、まだ固いつぼみの一輪に手をかざした。「花に宿る生命の力よ。我が呼びかけに答えて、目覚めたまえ……」 たどたどしく呟くのは、習ったばかりの魔術の詠唱。 シルフィは宮廷魔術師長に師事して、人間の魔術を教わっていた。 シルフィは魔力が非常に高いが、それはあくまで人間の範囲内でのこと。魔女のようなずば抜けた魔力は持たず、本来は詠唱なしに発動させる魔法を使うこともできない。 今まで発動してきた植物への魔力干渉は、高い適性による無意識のもの。 エリアーリアは人間の魔術を知らないので、教えられなかった。 洗練された人間の魔術を覚えたシルフィは、めきめきと実力を伸ばしている。 今もかざされた手の先で、つ
last updateLast Updated : 2025-11-13
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「すごいわ、シルフィ。あなたの力は、とても優しくて温かい。きっと、たくさんの人を幸せにできるわ」「はい、かあさま! 師匠!」 シルフィは大好きな母に褒められて、とても嬉しそうにしている。 緑の小屋で暮らしていた頃、彼女の高い魔力は隠さねばならないものだった。闇魔術師が狙っていたし、人は強すぎる力を恐れるものだ。 それが今はのびのびと力を伸ばしている。 エリアーリアは双子の伸びやかな様子が、何よりも嬉しかった。(アレクがいて、子どもたちは楽しそうに笑っている。なんて幸せなのかしら。この幸福が、ずっと続きますように……) 永遠はないと知りながらも、エリアーリアは祈らずにはいられなかった。◇ その光景を、離れた場所から視る者がいた。 王都に居を構える保守派の貴族の屋敷、その一室。闇魔術師ダリウスが、水晶玉を通して覗いていたのだ。 ダリウスは邪悪な術の使い手。その実力は相当に高い。たとえ邪悪の術であっても、その手腕を欲する貴族は跡を絶たなかった。それゆえに彼は今までアレクの追手をかわし、潜伏を続けていたのである。 彼はまずエリアーリアを見た。 陽光の降り注ぐ花園で、金の髪を輝かせながら美しく微笑む魔女を。 水晶越しでも、彼にははっきりと感じられた。人ならぬ緑金の魔力が穏やかに波打って、周囲を満たしている。その美しさ。 さらにシルフィに視線を映す。エリアーリアには届かないものの、人間としては類稀な魔力を持つ少女。 ダリウスの唇が、歪んだ喜びに吊り上がる。(素晴らしい……。なんと瑞々しく、純粋な魔力だ。親子ともども、最高の実験材料になるぞ……) ダリウスは何ヶ月もかけて、王宮の警備や人員配置を把握していた。警備の穴をつき、彼の闇魔術の力を持ってすれば、計画を実行できる段階まで来ている。 彼の欲望が成就する日は、近い。◇ その夜は、新月だった。
last updateLast Updated : 2025-11-14
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「エリアーリア?」 アレクが驚いているが、説明する時間がない。エリアーリアは子供部屋を目指して風のように走った。 廊下を駆ける彼女の頭には、最悪の想像が浮かんでいる。 もどかしさと不安を押し殺し、ようやく子供部屋に着いた。 迷わずに扉を開け放つ。 部屋はもぬけの殻だった。 開け放たれた窓から冷たい夜風が吹き込んで、カーテンをむなしく揺らしている。きちんと整えられたベッドは、二つとも空っぽになっている。床にはぬいぐるみが転がっていた。 いや、違う。空っぽではない。部屋の床に人影が二つ倒れている。双子の世話係の侍女たちだった。「あなたたち、しっかり!」 エリアーリアは侍女を抱え起こそうとして――既に絶命しているのに気がついた。 冷たくなり始めた侍女たちの体を抱いて、彼女は唇を噛んだ。◇ エリアーリアの後を追って、アレクが駆けつけた。「どうした、何があった!?」「アルトとシルフィがいない。この人たちは……死んでしまっている」「……! 近衛兵、すぐに王宮の門を、いや、町の城門まで全て封鎖しろ! 総出で王子と王女の捜索をするのだ。必ず見つけ出せ!」 事態の重さを瞬時に見抜き、アレクは矢継ぎ早に指示を飛ばした。必死の捜索が始まる。 子供部屋に侍従と騎士たちがやってきて、侍女の遺体を引き取っていった。 喧騒を遠くに聞きながら、エリアーリアは床に落ちたぬいぐるみを抱きしめていた。呆然とした心が徐々に戻ってくる。胸に浮かんだのは、冷たいが燃え上がるような怒り。 と、その時。 部屋に吹き込む夜風が腐臭を含み、一筋の黒い煙が渦を巻いて、空中に禍々しい黒紫色の文字を形作った。『子供たちを返してほしくば、魔女が一人で始まりの場所――深緑の森の、あの小屋へ来い。王の軍隊が動けば、子供たちの命はないと思え』 悪意ある文章は、エリアーリア一人に向けられたもの。アレクの王としての力を封じ彼女を孤立
last updateLast Updated : 2025-11-14
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109:三人の魔女の誓い

 王の執務室にて、アレクは机に広げた地図の上に拳を叩きつけた。 壁に掲げられた松明の炎が、彼の苦悩に満ちた顔を照らしている。 部屋の外では捜索と警戒の喧騒が続いているが、双子が見つからないのはもう分かっていた。「くそ……、手が出せん! 俺は王でありながら、我が子を救う力さえないのか!」 アレクが動けば、すなわち騎士たちが動く。そうすれば、ダリウスはすぐに察知するだろう。双子の命を取られてしまう。 今の彼はもう、かつてのように一人だけで行動することはできない。国王という立場が、今は彼を縛る枷となっていた。 夫の悲痛な声を背に聞きながら、エリアーリアは窓辺に立っていた。執務室の窓からは、遠くに深緑の森が見える。百年を暮らし、アレクに出会って、今はもう別れを告げた森が。 深緑の森は夜の闇に沈んでいる。その黒ぐろとしたシルエットを見て、彼女の心は決まっていた。 エリアーリアの心に恐怖はない。あるのは我が子を傷つけ、夫を侮辱し、彼女を魔女と呼んだ敵への燃えるような怒りだけだ。(許さない。あの闇魔術師だけは、絶対に私の手で始末する) 彼女は、アレクの肩にそっと手を置いた。「いいえ、あなたは無力ではないわ。そして、私ももう無力なだけの母親ではない」「エリアーリア……?」 振り返る夫に、エリアーリアは決意を込めて頷いた。「私が行きます、一人で。でもそれは、敵の罠に乗るためじゃない。……母として、あの男を断罪するために。だからあなたは、あなたにしかできないやり方で、私と子どもたちを助けに来てほしい」◇ 王妃の私室に戻ったエリアーリアは、華やかな絹のドレスを脱ぎ捨てた。代わりに身に着けたのは、緑の小屋で暮らしていた頃の服。動きやすいシンプルなワンピースと、革のブーツである。 長く美しい金の髪を、戦いの邪魔にならないよう手早く編み上げていく。 鏡に映った彼女は、もう王妃ではない。子を守るための決意を宿した、一人の魔女
last updateLast Updated : 2025-11-15
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110

「イグニス、リプル。二人とも、どうか私に力を貸して。今こそ力が必要なの!」 小さく呟く。 エリアーリアはまず、金の指輪を手に取った。火口の魔女の金の瞳、そのままの色。祈りを込めて指に嵌める。 次に髪飾りを編み込んだ髪に当てた。湖の魔女の流れる長い髪、それを思い出す色。願いを込めて髪に挿した。 その瞬間、部屋全体が眩い光に包まれる。 イグニスの炎の魔力とリプルの水の魔力が、光の奔流となってエリアーリアの体に流れ込んでくる。(これは……!?) けれどそれだけではなかった。二つの魔力に混じり合うようにして、もっと深く温かい――懐かしい魔力が感じられたのだ。 それは全ての生きとし生けるものを育む、大地の力。 今はもう大地そのものとして還ってしまった師の、テラの強大な魔力が彼女を包む。(テラ師匠!) エリアーリアは悟る。テラは掟に従い彼女を追放しながらも、友人たちの餞別に、密かに自らの加護を込めてくれていたのだ。「私をずっと、見守っていてくれたのですね……!」 師の最後の愛情は、確かに彼女を守ってくれている。友人たちと師の思いが、エリアーリアの心を包み込んだ。 その瞬間、彼女の胸元が輝いた。追放で失われた魔女の紋様が、以前よりもずっと力強い金色の光となって浮かび上がったのだ。 体に魔力があふれてくる。 人の心を持ったまま、愛を失わないまま、彼女は魔女の力を取り戻した。(これなら、戦える。あの子たちを助けられる!) エリアーリアが部屋を出ると、廊下にはアレクが立っていた。「エリアーリア。これを持っていってくれ」 差し出されたのは、小さな短刀。鞘は質素な木製ながらも、精緻な彫り物が施されている。「これは?」「アストレア王家に伝わる守り刀だ。闇を祓い、持ち主を守ってくれると言われている」「ありがとう。持っていきます」 エリアーリアは宝刀を受け取った。手に取れば、それは不思議と指に
last updateLast Updated : 2025-11-15
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