Tous les chapitres de : Chapitre 121 - Chapitre 130

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「この草は、地中深くにまっすぐ根を伸ばし、わずかな水源へ食らいつく性質がある。この草が乾いた土地でまだ生きている。それはこの真下に、地下を流れる水がある証拠です」「なんと、草の習性! 盲点でした」 技師たちが驚きの声を上げる。「この地形。緩やかですが、あちらの方角に向かって窪地になっている。地上の水も地下の水も、必ず低い場所へと集まるのが理(ことわり)です」 エリアーリアの言葉は魔法ではない。百年かけて森と対話し植物たちの生き様から学んだ、体系化された知識だった。 彼女は、技師たちに観察するための知識を一つ一つ丁寧に説明していった。◇ 技師たちは半信半疑ながらも、彼女が示した「深根草」が最も多く自生し、かつ地形が最も低くなっている地点で、兵士たちに掘削を命じた。アレクはその様子を、絶対の信頼を込めた瞳で見守っている。 だが何時間掘っても、乾いた土と石しか出てこない。「やはり、ダメか……」 誰もが諦めかけた、その時。 地面を掘り進めていた兵士の一人が、歓喜の声を上げた。「水だ! 水が出ました!」 地面から泥水が染み出ている。濁った水はやがて清らかな透明の水となって、勢いよく噴き出した。「やった、やったぞ!」「水だ。これでやっと、渇きから解放される……」「もう一度麦を育てられる!」 エリアーリアは騒ぎの中心から少し離れた場所で、その光景を見つめていた。 興奮冷めやらぬ人々の前で地図を広げ、深根草の群生地と傾斜に印をつけて線で結んだ。「これが、この大地を流れる水の道筋です。この線に沿って水路を引けば、全ての畑を潤すことができるでしょう」 彼女は技師長に一枚の羊皮紙を渡す。そこには「深根草」をはじめとする、水脈の近くに自生する植物リストと、地形から水脈を予測するための簡単な図解が描かれていた。「これを、国の技師たちで共有なさい。そうすれば、私が去った後も、あなた方自身の力
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 さらに数年の歳月が流れた。 アストレア王国は夏空の王と賢妃の治世のもと、ますます豊かになっている。 王都では民の活気ある声が響き、地方では農民たちが充実した労働に汗を流している。 国王の執務室には、国中から寄せられた感謝の手紙が山積みになっていた。「何年か前に、干ばつに苦しんでいた侯爵がいただろう。彼から手紙が来てね。今では大きな水路が流れて、農地の取れ高は倍になったそうだよ」 家族の穏やかな夕食の席で、アレクが言った。 少壮期を過ぎた王は、威厳を増して皆から慕われている。けれど家族の間では、相変わらず優しい父だった。「母上が技師たちにアドバイスをしたんだよね。草と地形で水脈を読むやつ。教科書になってるよ」 十五歳になったアルトが答える。この頃の彼は背がぐんと伸びて、少年から大人へと変わりつつあった。「お母さまの知識は、すごいわ。魔力を使わずに、あれだけのことができるなんて」 シルフィも続ける。非常に美しい少女に成長した彼女は、最近、縁談の話がひっきりなしに来ている。 ただしまだまだ嫁に出す気のないアレクが、全て阻止していたが。「人より長生きしているもの。私の知識は、教えてもらったものよ。深緑の森の自然と――師であるテラ様に」 エリアーリアは微笑んだ。彼女は唯一人、最初の時から何も変わらない。美しい金の髪も白い肌も、深緑の瞳の美貌も、時を止めたかのように美しさを留めていた。 食卓に和やかな笑い声が響く。 しかしアレクの声が、ふと小さな咳に変わった。「父上、大丈夫?」 アルトが心配するが、アレクは笑顔のまま軽く手を振った。「すまない、少しむせただけだ」 子どもたちは何も気づかず、食事を続ける。 けれどエリアーリアは、その瞬間に全てを理解してしまった。 彼女は生命を司る魔女だった。その鋭敏な感覚は、今でも生きている。 アレクのたった一度の咳に、人間の生命力の陰り――紛れもない「老い」と「衰え」の兆候を感じ取ってしまったのだ。 今はま
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123:王子の発明1

 また少し時が流れて、アルトとシルフィの双子は十八歳になった。 成人を間近に控えた二人は、今はもう立派な青年と美しい女性に成長している。 アルトは王太子の地位に正式に立ち、シルフィは新設された公爵家の女当主となっていた。いずれは婿を取って、王家の傍流として国王を支える役目を担う予定だ。 もっとも娘を溺愛している父王アレクが、「結婚はまだ早い! シルフィの夫となる男は、俺よりもこの子を愛していないと許さん!」などと無茶振りをするので、まだ婚約者が決まっていない有り様だったが。 そんなある日のこと。 アルトは日課の騎士団との訓練を終えて、王宮に戻ろうとしていた。最近は父の執務の補佐をしているので、なかなか忙しい。 仕事が残っているのは分かっていたが、アルトは少しだけ寄り道をすることにした。(少しだけ、少しだけ。昨日も遅くまで仕事をしていて、寝不足だから。ちょっと散歩をしてリフレッシュするんだ) 王宮の庭は春の緑に包まれて、とても気持ちがいい。 ゆっくりと歩けば、花々の香りが鼻をついた。 アルトは父の執務補佐も嫌いではない。むしろ誇りを持って取り組んでいる。 しかしどちらかというと、彼はデスクワークよりも体を動かしている方が好きだった。子供の頃から騎士団との訓練を続けているのも、剣術と運動が好きなためだ。 春の色に彩られた庭をさらに進めば、古い建物が見えてくる。今はもう使われていない、王家の備品倉庫だった。「ここももう古いよなあ。一度整理して、取り壊した方がいいのかも」 アルトはそんなことを呟きながら、倉庫の扉に手をかけた。鍵はかかっていない。 ギィ――と錆びた蝶番が音を立てて、扉が開く。 中に入ると、床に分厚くホコリが降り積もっている。歩けばホコリが舞って、アルトは「はくしょん!」とくしゃみをした。「うー。ひどい有様だぞ。後で掃除しなきゃ……」 もう出ようと思ったが、ふと古びたトランクが目に入る。 刻まれているのは、王家の銀獅子の紋章――ではなく、翼を広げた鷲の紋章だった。
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 倉庫の中、周囲を見渡せば、使い古された革鎧や傷だらけで折れそうな剣が置かれている。 ということは、とアルトは思った。(これ、父上の反乱軍時代のものか。中に何が入っているんだろう?) トランクに鍵はついていない。 アルトが思い切って開けると、中には何足かの靴が入っていた。「これは……? 靴だ」 鉄製の軍靴ではなく、革製の靴だった。靴底には不思議な素材が貼り付けられている。 触ってみると、何かの樹皮と思われた。もう古びて一部がボロボロになっているが、弾力がある。(何だろう。もうボロボロになっているけれど、面白そうな靴だ) アルトはその靴を履いてみた。 革は擦り切れて靴底も傷んでいたけれど、驚くほどに足に馴染んで歩きやすい。足音もほとんどしなかった。(すごい。この弾力のある素材が、歩く時の衝撃を吸収しているんだ。これならきっと、長い距離を歩いても疲れないぞ!) アルトは靴を手に取って、目線の高さで見つめた。「軍靴である必要はない。これで普通の靴を作れば、楽に歩ける人がきっと増える! 民たちや、旅人の助けになる!」 軍事用の秘密技術を、民衆のための生活の知恵へ。その着想は、まさしく父譲りのものだった。◇「父上、母上! これを見てください!」 アルトはさっそく、父王の執務室に駆け込んだ。 エリアーリアとシルフィが何事かと目を丸くしている。 息子の手に握られたトランクを見て、アレクは懐かしさに目を細める。「ずいぶんと懐かしいものを見つけたな、アルト」「はい、父上。庭園の外れにある倉庫に眠っていたのを発見したんだ」 アルトはトランクから靴を取り出して、執務机に乗せた。「この靴は、素晴らしいよ。父上はどうしてこの靴を作ったの?」 アレクはふと昔を懐かしむ目になって、答えた。「革命軍時代に、隠密行動が必要でね。敵に気づかれずに動くためには、足音を立ててはい
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「そっか」 アレクが苦笑すると、アルトは頷いた。「俺、思ったんだ。この弾力のある素材のおかげで、衝撃が吸収される。つまり足が疲れない。この靴が民間に出回れば、皆の助けになる。ぜひ、開発の許可をもらえませんか?」「素晴らしい着眼点だ、アルト。国王として、その事業を許可しよう。国の工房を自由に使っていい」 アレクは息子の発想力と民を思う心に、王としての後継者の姿を見て誇らしく思う。 しかしエリアーリアは諭すように言った。「いいと思うわ。でも、アルト。その木の樹皮は成長が早いけれど、取り尽くしては駄目。木の命を奪わないよう少しずつもらって、足りない分は植林をしなさい。植林もその木だけでは、森のバランスを崩してしまうから駄目よ。なるべく森の元の生態に近い形で木を増やすように」「分かりました、母上!」 アルトは力強く頷いた。 母の言葉は、自然と共に生きるための魔女の深い叡智だった。◇ アルトは早速、新しい靴の開発に取り組んだ。 最も重要な素材となる樹皮は、王国各地の森で比較的簡単に手に入る。 アルトは実際にどんな木か見てみたくて、近場の森に赴いた。「へえ、これが『弾力の木』かぁ。見た目はコルクの木に似てるね」「皮を剥いで使うのも、コルクに似てるわ。親戚の木なのかも」 双子の兄についてきたシルフィが、そんなことを言った。 弾力の木は大きな木で、樹高は十五メートルを超えるものもある。枝々には緑色の地衣類がぶら下がっていた。 アルトとシルフィは自分たちの手で樹皮を剥ぎ取り、持ち帰った。 父王から借りた工房に職人たちを集めて、皆で知恵を絞った。 靴を作るには、靴裏だけでなく靴の形そのものも重要になる。「俺さ、考えたんだよね。今の靴って木靴とか革靴とか、軍靴の鉄のブーツもそうだけど、足が痛くなるじゃないか」 アルトは自分の足を指さした。今は木をくり抜いた木靴を履いている。 アストレア王国では室内履きや日常使いは木靴が一般的で、旅人
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126:王子の発明2

「木靴や鉄の靴みたいに、足をガチガチに固めたら歩きにくい。だったら編み上げの革サンダルみたいに、細かいパーツを合わたらどうかな?」 アレクが言うと、職人の一人が感心したように答えた。「王子殿下、いいアイディアです。パーツを分ければ、着脱も楽になる。さっそくデザインを考えましょう」「うん、頑張ろう」 こうして何度も試行錯誤を繰り返した結果、試作品の形ができあがった。 足の甲を覆うパーツと、中央に切れ目の入ったパーツがある。 アルトは自分で履いてみて、首を傾げた。脱ぎ着はしやすいのだが、どうもしっくりこない。「うーん、この切れ目の入ったやつ。このままだとパカパカして安定しないね」「……編み上げサンダルみたいに、紐で留める?」「シルフィ! それ、いい考えだ!」 こうして試作品の第二号が完成すると、職人たちがさらに細かい調整を施していった。 靴の形そのものの目処は立ったので、本命の靴裏に取り掛かる。 木から剥いできたままの樹皮は、水分を含んでおりそのままでは使えない。「これ、お父さまはどうしていたのかしら?」「火で炙って乾燥させたと言っていたよ」 工房の火で乾かすと、ほどよく水分が飛んで使いやすくなった。「よし。これなら足裏の素材にぴったりだ。次に進もう」 ところが耐久テストをやってみたところ、想定したよりもずっと早く割れてしまったのである。「これじゃあ民のための靴にはならないよ。この靴は、木靴なんかよりは高価になる。その分だけ長持ちしないと、裕福ではない民たちに届けられない。……そういえば、父上の靴もかなり傷んでいた。経年劣化だと思っていたけど、耐久性に問題があったんだ」 アルトは肩を落とした。シルフィが双子の兄の肩をつつく。「諦めるのは早いわ。色々試してみましょう」「うん。そうだね」 それから二人は職人の助けを借りて、あれこれと試行錯誤を始めた。 天日干しにしてみる。
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「ねえ、アルト。この樹皮は熱に弱い性質なのよね。特に長時間熱に当てるのが駄目。短時間で水分を蒸発させる必要がある」「ああ。でも鉄を熱するような、高温過ぎてもだめだ。振り返ってみれば、火で炙るのが一番マシだった」「もう一度、火で炙ってみましょう」「え、でも」「火といっても、魔術の炎で」 シルフィが手のひらを上に向けて短く呪文を詠唱をすると、真っ赤な炎が生み出された。「温度は高すぎず、お鍋の水が湯気になるくらい。時間は短く、せいぜい十分。それから……魔力を炎に多めに含ませて、樹皮に浸透するようにする」 アルトが樹皮を持ってきて、魔術の炎にかざす。砂時計で十分計った。「どう?」「水分の蒸発は十分だ。あとは耐久テストを」 テストの結果は今までで一番良かった。「ううーん、だいぶ改善したけど、目標にはもう一歩足りない」 アルトが唸る傍らで、シルフィは考え込んでいた。「アルト。私、もう一度、森に行ってくる」「なぜ? 樹皮の在庫は足りているよ」「ちょっと気になることがあって」「分かった。じゃあ俺も行くよ」◇ 再度訪れた森で、シルフィは弾力の木を見上げた。高い木の枝には、緑色の地衣類がぶら下がっている。「あの地衣類。薬になる種類だわ」「どんな薬?」「滋養強壮と炎症止め。アルト、あれが欲しい。取ってきて」「はいはい」 アルトは靴を脱ぐと、身軽に木を登り始めた。職人たちが心配そうにハラハラと見守る中、危なげなく地衣類を採取して戻って来る。「これで足りる?」「とりあえずは」 シルフィは他にも周辺の植物を集めて、帰路についた。◇「魔力を与えたら耐久度が増したのを見て、思いついたの。弾力の木の力を補ってやれば、もっと良い結果になるかもって」 シルフィは言って
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「歩きやすい。すごい」 早速履いてみたシルフィが、歩き心地に感動している。「これを履いたら、元の靴に戻れそうもないや」 アルトも笑顔だ。 職人たちも満足そうにしていた。「それじゃあ、靴の売出し計画を作ろう。本来ならば貴族を優先させるのだろうが、これは人々のための靴。身分にかかわらず売るものとする」「王子殿下。それでは平民と同列に並べられた貴族たちが、不満を抱きかねません」 職人の一人が不安そうに言うので、アルトは首を振った。「そうだろうな。だが俺は、貴族がこの靴を独占するのを望まない。父上だって同じ意見だろう。ただし貴族の面子を立てるため、仕様を変える」「というと?」「平民用にはシンプルに、この靴の利点を最大限に生かせるように、安価な路線を。貴族向けには趣向を凝らして、革に刻印を押したり着色をしたり、一人ひとりのサイズに合わせたりなど、高級路線とする。これならば貴族の不満を抑えながら、平民に流通もできるはずだ」「なるほど! それであれば、できそうです!」◇ 数カ月後、王都で売りに出された新しい靴は、爆発的な人気を博した。 長い距離を歩く旅人はもちろんのこと、町を行き交う町民もこぞってこの靴を買い求める。性能の割に安価で、しかも王子殿下のお墨付きなのだ。 貴族たちに向けては、豪華に飾り立てた靴を作った。華やかな見た目の靴は貴族たちの虚栄心を大いに満たし、それでいて靴の機能性は変わらないので、彼らもすっかり靴の虜になった。 作れば作るほど売れる有り様で、靴事業は大きな利益を上げる。 職人や魔法使いの雇用や弾力の木の収穫、植林や森の管理まで含めて、波及した経済効果も大きかった。 王都の景気は大いに賑わって、失業者の吸収もできた。 この国だけではなく外国への輸出も盛んになり、外貨獲得にも一役買ったのである。 その年の暮れになると、アルトとシルフィは事業で得た莫大な利益を金貨として積み上げて、父であるアレクの前に差し出した。「父上。これ
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129:限りある時

 それから数十年の年月が流れた。 王宮の寝室には、年老いたアレクが横たわっている。彼の銀の髪は色が抜けて、既に白髪へと変わっていた。 アレクは長年の善政により、民に「大王」と称えられる身。 それでも老いには抗えず、最近はベッドから起き上がるのも難しくなり、眠る時間が増えた。 久方ぶりに意識を取り戻したアレクは、自らの死期を悟って家族を呼び寄せたのだった。 国王の寝室には、立派な壮年の男となった王太子アルトと、女公爵の務めを果たしているシルフィがいる。 彼らはもうずいぶん前に伴侶を得て、たくさんの子宝に恵まれていた。孫たちも祖父の寝台の周りを囲んで、悲しそうな視線を注いでいる。 彼らの傍らに立つエリアーリアだけが、昔と何一つ変わらない。金の髪は美しく輝き、肌は白磁のように滑らかだった。 深緑の目だけが深さを増して、愛する人を見つめている。 部屋は静かな悲しみに満ちているが、彼女の表情は穏やかだった。『ならば俺が君の記憶に残る、最高の人生を生きてみせる。君が千年経っても退屈しないくらい、幸せな記憶で君の心をいっぱいにしてみせる。君が愛した人間の王として、一人の男として、歴史に名を刻む。だから俺が生きる、陽炎のような――この短い時間だけでいい。俺の隣にいてほしい』 いつかの時に彼が言った言葉が、胸に蘇る。 だから彼女は、愛する人の命の灯火が静かに消えゆくのを、覚悟を持って見守っている。後悔はない。アレクは約束を守ってくれた。エリアーリアの心は幸せな記憶で満ちあふれていたのだから。 アレクは集まった家族一人一人に、老い衰えながらも確かな声で言葉をかける。孫たちの頭を撫で、シルフィの涙を拭い、アルトには最後の言葉を託した。「アルト……良き王になれ。民の声を、決して忘れるな……」「はい、父上」 次代の王として、アルトは悲しみをこらえて威厳を保とうとしている。 アレクは次にシルフィを見た。「シルフィ……。お前は、母様を頼む…&
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130:悠久の愛

 王都の大聖堂は、静かな悲しみに包まれていた。 アストレア王国を偉大な繁栄へと導いた大王アレクの棺が、中央に安置されている。参列しているのは貴族、各国の使節、そして彼を慕う多くの民衆たち。 折しも初夏の空は晴れ渡って、その清冽な青色は、大王の瞳の色を思い起こさせた。 エリアーリアとシルフィが黒い喪服に身を包んで、静かにその様子を見守っている。 やがて父の跡を継ぎ新王となったアルトが、ゆっくりと前に進み出た。その青い瞳は、父と同じ夏空の色。 彼は父の棺に一度深く頭を下げると、手に持った弔辞を読み上げ始めた。明瞭ながらも威厳のある声が、聖堂の中に響いていく。「父上。偉大なるアストレアの大王、夏空の王アレク。今、あなたの息子として、そして、この国の新しい王として、最後の言葉を捧げます」「あなたが玉座に就く前、この国が深い闇と悲しみに覆われていたことを、私たちは忘れません。あなたは、圧政に苦しむ民の声を聞き、正義の旗を掲げた。土地を失った者に畑を返し、飢える者に食料を与えて、国の隅々にまであなたの慈愛は満ちていました。あなたが流した汗と、時に流した涙が、この国の礎を、もう一度築き上げてくれたのです」「だが私が何よりも敬愛するのは、王としてのアレクではなく、父としてのアレクです」「父は、私に剣の道を教えてくれました。ですがそれ以上に、剣を振るうことの重さと、剣を収めることの勇気を教えてくれました。彼は、最後まで兄の罪を憎みながらも、その命を奪うことはありませんでした。その慈悲の心が、この国の新しい時代の礎となったのです」「そして父は、生涯ただ一人の女性を愛し抜きました。その愛の深さが、彼の力の源泉であったことを、私は知っています」「父は、一度は全てを失い、絶望の闇に沈みました。しかし彼は立ち上がった。光なき水路の底から、彼は再び天を見上げたのです。父が私たちに遺してくれた最大の遺産は、豊かな国や城ではありません。どんな絶望の中にも必ず希望はあるという、その不屈の魂そのものです」「父上、安らかにお眠りください。あなたの愛した母上は、私がシルフィが、必ずお守りします。そしてあなたが築いたこの国を、
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