「参考人として、ではなく、被疑者として」 被疑者。その言葉が持つ意味に、翔の顔から優越の笑みが消えた。玲奈の瞳がわずかに見開かれる。一瞬だけ、二人の間に動揺が走った。 しかしすぐに翔は虚勢を張って胸をそらす。玲奈は馬鹿にするように鼻で笑った。「何を言っているんだ、一条。お前こそ部外者だろう」「そうよ。私たちには、関係ないことだわ。ヒギシャ? は高梨先輩で決定じゃない」 二人の声は必要以上に大きく廊下に響いた。◇ 調査委員会が開かれる特別会議室は、重厚な長テーブルが中央に鎮座していた。壁には歴代社長の肖像画が飾られて、部屋全体が近寄りがたい空気を放っている。 やがてコンプライアンス担当役員を筆頭に、数名の役員たちが無言で入室してくる。それぞれの席に着いた。 続いて翔と玲奈が証人席に、陽斗がその向かい側の席に案内される。誰もが固い表情で、部屋には書類をめくる音だけが響いていた。 定刻になると、委員長を務める役員が咳払いを一つした。「これより、営業企画部・高梨美桜主任に関する調査委員会を開始する」 その声が、開会を告げた。「本来であれば、本件は当事者と関係部署の者のみで進められる。しかし今回は一条君から、本件の潔白を証明する重要な情報提供があったため、特別に参加を許可した。――一条君、発言を許可する」 委員長の言葉を受けて、陽斗は立ち上がった。手元に置いた分厚い茶封筒から書類の束を取り出すと、落ち着いた態度で口を開いた。「お時間をいただき、ありがとうございます。まずはこちらの資料をご覧ください」 彼の声は部屋の隅々まで、はっきりと響いた。 陽斗は手元の書類を一枚めくり、役員たちに見えるようにテーブルの中央に置いた。「先日、高梨主任のPCから外部デバイスへのコピーが記録されたとされる時刻、その直後に、佐伯課長の個人口座から50万円の出金が確認されています」 ざわ、と役員たちの間に動揺が走る。翔は顔を青くして、立ち上がった。「なっ&hellip
Last Updated : 2025-11-23 Read more