「お願い……」 美桜は懇願するように言った。「会社では、今まで通りにしてください。何もなかったことにして。お願い……」 美桜は陽斗が何かを言い返す前に、逃げるように部屋を飛び出した。 一人残された部屋で、陽斗は彼女が閉めたドアを見つめることしかできなかった。 美桜の心には翔への絶望に加えて、陽斗への罪悪感という新たな重荷がのしかかっていた。◇ 愛する人を腕に抱いた一夜が明けて、陽斗はこの上なく幸せだった。(そりゃあ本当は、ちゃんと告白して付き合ってから寝たかったさ。でも先輩は、俺を求めてくれた。拒まなかった。弱っているところにつけ込んで、卑怯だったかなとは思うけど……。あんなに弱っている先輩を、放っておけるわけはない。少しでも慰めになれたなら、それでいい) 腕の中で眠る美桜は、ひどく無防備だ。涙の跡が残る頬は痛々しいけれど、寝顔はとても可愛らしくていつまでも眺めていられる。 と。彼女が少し身震いをしたので、陽斗は部屋着のスウェットを引っ張り出して、着せてやった。(彼シャツならぬ、彼スウェット。うう~、先輩が俺の服を着ているだけで、こんなに幸せだなんて) 笑みがこぼれるのを止められない。 床に転がっていた美桜のワンピースを拾い上げ、畳んでソファの上に置く。冷蔵庫のミネラルウォーターを飲んで、またベッドに戻った。「先輩、これからは俺があなたを守ります。あなたを傷つけるものは、もう何もない。心配いらないですから」 美桜の髪に鼻先を寄せると、いい匂いがした。 陽斗は幸福感に満たされながら、もう一度まどろみ始めた。 ――ところが、目を覚ました美桜は出ていってしまった。 罪悪感に顔を青ざめさせて、逃げるように部屋を去っていった。「先輩の誠実さと真面目さを軽く見てしまった、か。そんなところも好きだけど……」 陽斗は肩を落とす。けれどすぐに目を上げ
Last Updated : 2025-10-01 Read more