美桜が書棚の奥で資料を探していると、背後でカチャリと小さな音がする。(あれ? 誰か資料室に来たのかな。珍しい) 深く気にせず作業を続けた。 ようやく目当ての資料が見つかり、資料室を出ようとドアノブを回すが、開かない。(え?) その直後、パチンという乾いた音と共に、室内の照明が全て消えて完全な暗闇に包まれた。(停電? ……いいえ、違う。ドアが外から施錠されている!) 真っ暗な中で、美桜は血の気が引くのを感じた。「誰か! 誰かいませんか! 閉じ込められてしまって……」 ドンドンと必死でドアを叩きながら叫ぶと、人の気配がした。 くすくすと笑う若い女の声。 聞き覚えがある――玲奈の声だった。「河合さん、そこにいるの? 鍵を開けて!」 答えはない。小さい笑い声は最後に「あははっ! いい気味!」と嘲笑に形を変えて、遠ざかっていった。 分厚いドアは音を遮断してしまう。元より人通りの少ない場所だ。 いくらドアを叩いても、助けを呼んでも、重い扉に阻まれて誰にも届かなかった。(どうしてそこまで……) 玲奈は美桜から翔を奪って、満足したのではなかったのか。 暗闇と静寂の中、美桜はぐったりと床に座り込んだ。何も見えない、何も聞こえない環境というのが、こんなにも恐ろしいものだとは知らなかった。無力感がじわじわと心を蝕んでいく。 ◇ それから何時間も経ってから、偶然通りかかった警備員に発見されて、美桜はようやく外に出られた。 暗闇に慣れきった目に、外の明かりがまぶしい。疲れ切った体で営業企画部のフロアに戻ると、上司が怒りの表情で待ち構えていた。「高梨! どこをほっつき歩いていたんだ。リーダーが長時間無断で席を空けるとは、どういうつもりだ!」「違います! 資料室にいたら、誰かに鍵をかけられて……」 美桜は必死に抗議するが、上司は疑いの目を向ける。「本当にそんなことが? どうせまた新し
Last Updated : 2025-10-06 Read more