でも、ほかに手はあるのだろうか?その晩、文男はやはり結衣を連れて行った。結衣が着いてみると、文男が会う相手は見知らぬ人物だった。見知らぬ若い男で、見た目は拓海や文男よりもさらに少し若そうで、童顔をしていた。「こちらは橋谷実乗、橋谷さんだ」と文男が紹介した。「それで、こっちは……」橋谷実乗(はしたに みのる)は結衣を見るなり笑った。「この方なら知ってますよ。森川社長の特別な仲の相手ですよね?」「それは……」文男ほどの機転でも、どう返したらいいのかわからなかった。「橋谷さん、はじめまして。私、森川社長や西村副社長たちとは仲のいい友人で……」結衣も、この実乗という男がどういうつもりでそんなことを言ったのかわからなかった。見下しているのか、それとも馴れ馴れしく距離を詰めたいのか。だが実乗は彼女が言い終えるのを待たず、笑ったまま立ち上がった。「西村副社長、この協力の話は――どうやら成立しそうにないですね」文男と結衣の顔色が同時に変わった。文男は焦って言った。「橋谷さん、さっきまでちゃんと話がまとまってたじゃないですか。どうして急にひっくり返すんです?」実乗は害のない笑みを浮かべた童顔のまま答えた。「西村副社長、少しお話が噛み合っていないようですね。僕どもが組む相手はロッシジュニアです。最終的に、こちらの人間が向き合うのもロッシジュニアご本人になります。西村副社長が表に出てこられるのであれば、寝返りだとか商談は利益が最優先だとか、そういう理屈でまだ説明もつくでしょう。ただ――ロッシジュニアが最も憎んでいる相手が誰かって、西村副社長がご存じでないはず、ありませんよね?」ロッシジュニアという名が出た瞬間、結衣の顔色は激変した。彼女はほとんど一人で勝手に外出できなかった。毎日どこへ行くにも文男の腕をつかんで離さないのは、ロッシジュニアが怖いからだ。その名は、彼女にとって幽霊のようなものだった。本当はずっと不思議だった。なぜロッシジュニアは彼女の過去を暴かないのか。けれど暴かれないほど、頭上に刃が吊るされているみたいで、いつ落ちてくるかわからず、肝が冷えた。この実乗がまたロッシの名を出す。ほんとうに鬱陶しい!文男の顔に、ぎこちない笑みがひび割れるように浮かんだ。実乗はさらに言った。「ロッシジュニアがいちばん
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