時には、人と人の出会いというのは本当に不思議だった。拓海のケーキ屋がここでいつから営業しているのか分からなかったが、それまで知佳は一度も彼に会ったことがなかったのに、あの日以来、ときどき顔を合わせるようになっていた。ある時は、彼がアナとスーパーで買い物をしているのを見かけた。ある時は、彼が誰かにケーキを届けに行くところを見かけた。そのたびに、拓海はただ淡々と彼女に挨拶をするだけだったり、あるいは、彼女に気づきもしなかったりした。彼は本当にやり遂げたのだ。彼女が求めたとおり、再会しても、互いにすれ違うだけの他人として振る舞った。服装もずいぶん変わっていた。以前の彼はいつもスーツで、隙がなく、髪の一本一本まで硬く立っていて、微塵も乱れていなかった。そのスーツときっちり固めた髪型はまるで鎧みたいで、人混みの中でも自然と近寄りがたい冷たさをまとい、視線までことさらに鋭く淡かった。今の彼は、その「鎧」を脱いでいた。シンプルな白いTシャツを着るようになり、雨で冷え込めば薄手のカシミヤのカーディガンを羽織った。ボタンを一つ残らず留めていても、彼という人そのものが柔らかく見えた。とりわけ、額の短い前髪をわざとそのまま落として、額にかかるようにしていて、そのせいか眼差しまで穏やかで優しくなっていた。目の前にいる、すずらんの香りを溶かした日だまりみたいにやわらかなこの人を――かつて海城のCBDの高層ビル街を颯爽と歩いていた「森川社長」と、いったい誰が結びつけられるだろう。その日、彼女の舞踊団は学内の公演ホールで、神話を題材にした舞踊劇の一作――『神の鹿踊』を、初めて正式に上演した。彼女が自ら振付をし、翔太がヒロー役を踊り、彼女は端役の小さな役で出演した。公演は大成功で、花束も数えきれないほど届いた。カーテンコールの時、知佳は客席に顔なじみが大勢いるのを見つけた。診療所の医者や看護師たちが何人も来ていて、診療所で知り合った患者仲間たちも、近所の人たちもいて、そして、拓海とアナもいた。終演後、医者や看護師たちと患者仲間たちは前へ出てきて、彼女と翔太に拍手と歓声を送ってくれた。けれど拓海とアナはほかの観客と一緒に席を立ち、そのままホールを出ていった。立ち去るとき、拓海は振り返ってアナの手を取った。多くの人がスタン
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