知佳は、胸の中いっぱいの不愉快をどこにぶつければいいのか分からず、行き場のない息苦しさに押しつぶされそうだった。二度と顔も合わせない赤の他人だと言い放ったのも自分で、こんなことになって助け出された相手がまたしても彼だというのも、やっぱり自分だった。「俺に助けられたなんて、思わないでくれ」と彼がふいに言った。またしても、彼女の心の内を言い当てたようだった。知佳は振り返って彼を見た。言葉にしづらい怒りがこみ上げる。――なんで今さら、そんなに目ざといのよ。昔は目も頭も節穴だったくせに。「斎藤さんから電話が俺のところにかかってきて、たまたま位置情報を出せたから来ただけだ。君だからってわけじゃない。本当にまったくの他人でも、俺はここまで来た」淡々とした口調でそう言ってから、「結局、この船にいた容疑者を捕まえたのは警察だし、斎藤さんもここ二日は海城にいない。俺が乗らなきゃ、誰がこの船に乗るんだ?」と続けた。知佳の中でぐるぐる渦巻いていた、うまく言葉にできない怒りも怨みも、ふいに喉をつかまれたように行き場を失った。「それに、結局は俺が――」「見つかりましたか?」拓海がまだ何か言おうとしたとき、船の向こう側から声が飛んできた。「見つかりました」拓海は立ち上がってそう答えた。警察だった。警察は知佳にいくつも質問をして、事情を記録していった。そのとき知佳は初めて、船員や積み荷の安全のために、あの二人の男はすでに船から降ろされ、モーターボートで岸へ送られていたことを知った。警察と拓海は彼女を捜すためだけに船に残り、今は次の港で降りる予定なのだという。「どれくらいですか?次の港まで、あとどのくらい時間がかかりますか?」知佳は思わず警察にたずねた。ここは貨物船で、もともと乗客はほとんどいなかった。前へ進めば進むほど、周りは真っ黒な深海ばかりになっていく。前方に尽きることのない闇が広がっているのを見ていると、本当に胸が震えた。「だいたい二、三時間ですね」警官はそう言って立ち去った。知佳もさすがに警察のあとをついて行くのは気が引けて、何か言いかけてやめ、胸の中だけでそっとため息をついた。「怖いのか?」拓海はようやく、彼女の様子に何かを読み取った。知佳は彼を無視した。彼は周りをぐるりと見回して、「暗闇が?それとも、さっ
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