靴代もタクシー代も全部込みで。彼女は自分で彼に送金なんてしたくなかった!「あっ、はい」中村さんは二つ返事で応じ、すぐにスマホを取り出して送金した。「うん」知佳は二階の自室へ戻ろうとした。階段に足をかけたところで、中村さんが言った。「旦那さまが、金額が多いって」「私が出したって言って!余った分は、スマホの通話料を何回かチャージしとけって言って!」いまの彼女は潮風の匂いに酒の匂い、それに鍋の匂いまでまとっていた。吐いてもいた。早くシャワーを浴びて、清潔な服に着替えたかった。中村さんはその言葉の意味が分からなかったが、とにかく言われたとおりに伝えた。「中村さん」二階の階段の曲がり角に知佳の背中が消えるのを見ながら、翔太は言った。「僕が返事するよ。どう言ってくるか見よう」中村さんは少しスマホを渡したくなかったが、でも彼は……いまは知佳の彼氏で……はあ、いいか。渡そう。中村さんはため息をつき、スマホを手渡した。翔太は中村さんと拓海のトーク画面を開いた。そこには、ここ数年のやり取りまで見えてしまった。彼はひたすら上へスクロールした。一番最初の、最初まで遡ると、拓海が毎日のように念を押していた。【中村さん、医者の指示どおりに知佳の体位を変えて寝返りをさせて。じゃないと床ずれができてしまう】【中村さん、彼女、今日は気分はどう?落ち込んでない?泣いた?】【中村さん、今日俺は病院に行くのが遅くなるって伝えて。会議がたぶん九時まで。九時には必ず行く】【中村さん、彼女の考えは俺には言わないかもしれない。話し相手になって、本音を引き出して、それから俺に教えて】【中村さん、ばあちゃんは年だし、知佳の世話はすごく丁寧だけど、無理させられない。悪いけど多めに見てやって】【ずっと寝かせたままじゃだめだ。毎日やることを紙に書いた。そこに書いてあるとおりにやって】手書きのメモの写真も添えられていた。A4用紙でびっしり二枚分だった。知佳が怪我をした最初のころから、回復しても歩くのが不自由だった時期まで。彼と中村さんのやり取りは、ほとんど毎日あった。そして最近になって、ある日だけ、中村さんと呼びかけたきり、何も続けていない日があった。翔太はそれを見て、たぶん離婚した直後の時期だと思った。いま彼の胸はひどく苦し
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