知佳はもうこの恋に期待することはなかったし、別れは必然だと思っていた。それでも、心の中ではやはりつらかった。翔太に対して、自分もかつては本気で気持ちを注いできたのだ。その言葉を聞いた瞬間、目の前のグラスや皿が、みな霞んだ影のようになった。「じゃあ、おじさん、おばさん、そして翔太くんも、どうか道中お気をつけて」引き止める言葉は一言も口にしなかった……翔太は彼女を見つめ、ついに涙が目ににじんできた。朱莉と聖也は社交辞令を交わすのがとても得意だ。いちばん肝心な話が片づくと、あとは両家の大人たちがどうでもいいような、とりとめのない話題を延々と投げ合っているのが聞こえてくるだけだった。表向きは互いにずいぶん友好的だった。けれどその友好ムードは、商談よりもよほど作り物めいていた。少なくとも商談には「一緒にやろう」という建前なりの誠意がある。知佳には、翔太の両親が自分のことをどう思っているのか分からなかった。もしかしたら、自分が翔太を傷つけた張本人だと思っているのかもしれない。もしそう思われているのだとしても、彼女にはどうしようもなかった。自分の子どもの味方をしない親なんて、いるはずがないのだから。双方が必死に穏やかな空気を保とうとする中で、その席はようやくお開きになった。麗子は笑顔で立ち上がった。「今夜はご家族でお越しいただいて、本当にありがとう。この件も、こうしてきれいに締めくくることができたわ。どんな形であれ、これからもお付き合いは続けていきましょうね」どれも社交辞令にすぎなかった。こんな状況で仇同士にならずに済んだのは、ひとえに両家が体裁を重んじる人たちだったおかげだった。翔太の一家が先に店を出て、知佳たちが外に出たときには、道端に立っているのは翔太ひとりで、彼の両親は車の中で待っていた。どうやら、彼女と二人きりで話したいことがあるらしかった。「ちょっとだけ話してくる。ほんの少しだから」知佳は小声で聖也にそう告げた。聖也はうなずいた。すぐ目の届くところだし、何か起きるとは思っていなかった。知佳はそのまま翔太の前まで歩いていき、「翔太」と名前を呼んだ。翔太はそれまでずっとうつむいていた顔を、ようやくゆっくりと上げた。痛みを帯びた視線が知佳へと落ちた。「ごめん」声はひどくかさついていて、まるで紙やすりでこすれ
Read more