All Chapters of 婚約者は私にプロポーズをしたその口で、初恋の幼馴染に愛してると宣う: Chapter 101 - Chapter 110

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101話

男性社員の方の挨拶が終わったあと。 私たちの周りにはエントランスにいた社員の方たちが集まってきて、口々に挨拶をされる。 男性社員も、女性社員も皆、新参者の私に対してとても好意的に挨拶をしてくれて、私はほっと安堵した。 滝川さんの専属秘書、なんて肩書きをこの会社に入社すらしていなかった私に与えられて、会社に勤めている人達に反感を持たれてしまったら、と考えていたのだけどそれは杞憂に終わった。 皆、礼儀正しく、私をとても歓迎してくれている様子で、私も自然と笑顔になる。 暫くエントランスで話を続けていたけど、始業の時間が近付き、滝川さんの一声で周囲に集まっていた社員の人達は「また」と言いながら素早く自分の部署に向かって行った。 「き、緊張しました……!」 あっという間に人がいなくなり、私はそれまで張り詰めていた緊張がふっと解けて息を吐き出す。 私の隣にいた滝川さんは、楽しげに口端を持ち上げて得意気に告げた。 「だから言っただろう?問題ない、って」 自信たっぷり、といった様子の滝川さん。 社長室に向かうためにエレベーターへ向かいつつ、私はじとりとした目で滝川さんに向かって話しかけた。 「さっきの男性社員の方、私の事を新しい秘書だって知ってましたね。……もしかして、既に社内には共有済なんですか?」 「まあ……それは、事前に」 「も、もう……!どうやってご挨拶しよう、とか、どうやって先輩達と親しくなろう、とか沢山悩んでいたんですよ!先に知らせていたなら教えてください!」 「ふはっ、すまない。加納さんが陸と凛に夢中になってたから、仕事の話はあとでいいかな、と思ってて。つい話し忘れてしまったんだ」 ごめんね?と首を傾げて、悪びれもなくそう言う滝川さんに、私は隣にいる滝川さんの肩を軽く叩く。
last updateLast Updated : 2025-11-22
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102話

◇ 社長室にやってきた私と滝川さんは、始業時間になると秘書課へと向かった。 滝川さんが秘書課に顔を出すと、フロアにいた人達が一斉に視線を向けてきて、私は滝川さんの後ろでびくり、と体を跳ねさせた。 けど、見慣れた持田さんと間宮さんの姿もフロアにはあって、私はほっと胸を撫で下ろす。 やっぱり、見知った人がいるととても安心する。 滝川さんが皆の注目を浴びつつ、私の事を秘書課に配属されている人達へ紹介した。 「先日、既に人事から通達があったと思うが、彼女が今日から新しく私の専属秘書として秘書課に配属された、加納さん」 「至らぬ点で多々ご迷惑をおかけすると思います、どうぞよろしくお願いいたします」 滝川さんが私を紹介してくれたあと、すぐに頭を下げて秘書課の方々に挨拶をした。 すると、フロアにいた人達はみんな私を暖かく迎え入れてくれて、自然と笑顔が浮かぶ。 そんな私を、隣にいた滝川さんは優しく見つめたあと、言葉を続けた。 「彼女は通常業務からは外れる。それと、持田さんと間宮は暫く副社長の補佐に回るため、私への連絡事項は2人ではなく、加納さんへ送ってくれ」 そこまで滝川さんは伝えると、私の紹介も終わったため、社長室に戻る。 私はもう一度秘書課の方々に頭を下げたあと、滝川さんを追った。 「加納さん。君の端末を渡しておく。俺宛の連絡事項は加納さん宛にくる。CCで俺も入ってはいるけど、正直メールが多すぎて全てに目を通せない。重要そうな連絡だけ俺に共有してもらってもいい?」 「分かりました」 「緊急案件は俺にも連絡は来るから、そこまで気負わなくて大丈夫。少しずつ慣れてくれればいいから」 私が緊張しながらタブレットを受け取ったのが分かったのだろう。 滝川さんは安心させるように柔らかな笑みを浮かべながら私にそう言ってくれた。 滝川さんの優しい気遣いがとても有難くて、私がお礼を伝えると、滝川さんも嬉しそうに笑った。 「じゃあ、これから都内のブランド店を回ろうか。その後、昼食を摂って社に戻る流れでいい?」 「勿論です、滝川さん。よろしくお願いします」 「ああ。じゃあ、行こうか」 滝川さんの運転する車に乗り、私たちは都内のブランド店へ向かった。 滝川さんが姿を見せるなり、そのブランド店の責任者が現れ
last updateLast Updated : 2025-11-22
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103話

それから、私たちはいくつかのブランド店を回り、全て回りきった頃には、お昼過ぎになっていた。 「しまった。ごめん加納さん、もうこんな時間だ。お腹が減っただろう?どこか近くの店に入ろう」 ふ、と滝川さんが時計に目を落とし、驚いたような表情を浮かべる。 滝川さんに言われて初めて、大分時間が過ぎている事に気付いた私は、慌てて周辺のお店を探す。 「す、すみません滝川さん!私がスケジュール管理をしなくてはいけないのに…!待ってくださいね、すぐにお店を調べます」 「いや、俺も迂闊だった。この近くに和食料理が美味しい店があるんだ、そこに行かないか?」 「わかりました、そのお店で大丈夫です」 私の返答を聞き、滝川さんは頷いたあと和食料理店に案内してくれた。 滝川さんが案内してくれたのは、こじんまりとした、一見するとお店だとは分からない造りになっている和食料理店だった。 お店に入る扉を開けた滝川さんが、振り向いて私に向かって手を差し出してくれる。 「ここは店に入ってすぐ地下に降りる階段があるんだ。怪我も治ったばかりだし、無理はしないでくれ」 滝川さんの気遣いが有難くて、私は笑顔でお礼を伝え、滝川さんが差し出してくれた手のひらに自分の手を乗せた。 「ありがとうございます、滝川さん」 「どういたしまして。足元気をつけてくれ」 滝川さんに手を握られながら階段を降りて行くと、開けた内装が視界に入る。 入口は和食料理店だと分かりにくいけど、中に入ってみると店内は広く、とても綺麗な作り。 明るすぎず、暗すぎずちょうどいい塩梅の照明がゆったりとした優しげな空間を作り出している。 私たちに気付いた店員が席に案内してくれた。 席は一席ずつ、個室のような作りになっていて、
last updateLast Updated : 2025-11-23
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104話

私と滝川さんは、お互い驚いて顔を見合わせる。 「加納」と言う苗字に「社長」と言う単語。 まるで、私と滝川さんの事を話しているような、妙な確信。 滝川さんは、私に向かって自分の唇に人差し指を縦に当てた。 「静かに」と言う合図だ。 私はこくり、と頷いて耳をそばだてる。 隣の個室からは、良く通る声が尚も届いてきた。 「──そうそう!得意そうな顔してたわ!何であんな女が社長の専属秘書になんかなるのよ。きっと汚い手を使ったんだと思うわ、あんたの言う通り」 女性の声が続く。 専属秘書、と言う単語まで出てきて、やっぱり女性の話す「加納」は私を指しているのだと分かった。 ──分かっては、いた。 いきなり、滝川さんの専属秘書として雇われれば、そう言う事を考えてしまう人だっているだろう、とは思っていた。 滝川グループで働く社員は多い。 それに、滝川さんは素敵な人だ。彼に憧れを持っている女性社員だって多いだろう。 憧れじゃなく、本当に滝川さんに好意を寄せている人だっているはず。 その人からしたら、突然ぽっと出の女が、彼の専属秘書に就いた。 そう思われても仕方ない──。 ならば、認めてもらうには、しっかり真面目に仕事をして、認めてもらえばいい。 私がそう考えたのと同時、女性の声は思ってもいなかった人物の名前を口にした。 「ねえ、麗奈。でも本当にどうしてあの加納って女は社長の専属秘書になれたのかしら?周りの社員たちも馬鹿みたいにお似合いだ、とか、社長にも春が、とか噂話してるのよ?ほんとにムカつくったらありゃしないわ!」 「──っ!?」 私は、女性の口から「麗奈」と言う言葉が出てきて、驚きで声が出てしまいそうになっ
last updateLast Updated : 2025-11-24
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105話

私自身も、どうしてこんなに麗奈に恨まれているのか分からない。 滝川さんの言う通り、これじゃあただの行き過ぎた逆恨みだと思う。 もう私は麗奈とも、清水瞬とも関わりたくないのに。 離れてもこうして麗奈が私に何かをしようとしているのが本当に意味が分からなかった。 「もう、関わりたくないのに……」 私がついぽろりと零してしまうと、隣に座っていた滝川さんが私を元気付けるように肩をぽん、と叩いた。 「もしかしたら、柳麗奈は加納さんの動向を探っているだけで、清水さんに接触しないかどうかを見張っているだけかもしれない」 (行動は不気味で、底知れぬ不安は拭えないが……それを加納さんにわざわざ伝える必要はない、よな…) 私は滝川さんの温かい気遣いが有難くて、彼にお礼を伝えようと顔を上げた。 私が口を開く前に、再び隣から声が聞こえた。 「分かったわよ。しっかり見張っておくし、あんたが言ってた通りにやるわよ。……ちゃんと振り込んでおいてよ?」 「──っ?」 私も、滝川さんもお互い顔を見合わせる。 振り込むって…。 それに、麗奈に何かをやれ、と言われた? 一体麗奈は、隣の個室にいる彼女に何をやれ、と言うのだろうか──。 不安がむくむくと膨れ上がってきて、つい無意識に両手をきゅっと握った。 そんな私の手に、滝川さんの大きくて温かい手のひらが重なり、安心させるように強く握ってくれる。 「加納さんは、常に俺と一緒に行動するんだから、大丈夫。何かあっても俺が守るから不安にならないで」 「滝川さん……。ありがとうございます」 「うん」 しっかり私の目を見て、滝川さんが真剣な表情でそう言ってくれる。 その気持ちが有難くて。 でも少し擽ったくて。 私は滝川さんの目を見返してお礼を伝える。 すると、滝川さんは強く頷いてくれた。 ちょうどその時、私たちの個室の部屋の扉がノックされて、店員が注文した食事を持ってきてくれた。 滝川さんは注文品を受け取り、私の隣から真向かいの席に戻る。 「加納さん。少し連絡したい事があるから、先に食べてて」 「わかりました、お先に失礼しますね」 滝川さんに断り、私は頼んだお昼ご飯に先に箸をつけさせてもらう。 運ばれてきたご飯は、とても美味しそうで。 私
last updateLast Updated : 2025-11-24
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106話

私と滝川さんは、昼食を摂り終わりそのまま会社に戻った。 会社に着くなり、社内はざわざわと騒がしく、沢山の人が私と滝川さん──いえ、私を見てこそこそと隣の人と話している。 「──何だ?」 滝川さんも社内の違和感に眉を顰め、沢山の人の視線を不愉快そうにしていた。 人から見られる、と言う事に慣れている滝川さんでさえ、何かがおかしいと感じる雰囲気。 人の視線が、刺さるように痛く感じてしまい、私は無意識の内に後ずさった。 これは。 人の、悪意や失望。嘲笑に満ちた視線だ。 「な、に……」 どうしてこんな目を向けられるのか分からなかった。 朝は、皆普通に挨拶をして、笑顔で迎えてくれたのに。 それなのに、今はどうだろうか。 朝の雰囲気がガラリと変わり、私に向けられる視線は悪意や憎悪に満ち溢れている。 「加納さ──」 「社長……!」 滝川さんが私に声をかけようとした瞬間、1人の女性社員が滝川さんに向かって声を上げ、駆け寄ってきた。 確か、彼女は広報室の室長、だと紹介された覚えがある。 そんな彼女が、顔色を真っ青にして滝川さんに顔を向けるが、隣に私の姿を認めると気まずそうに私から視線を逸らした。 「どうした?一体何の騒ぎだ?休憩は終わっているだろう?どうして社員が業務に就いていない?」 滝川さんの言葉に、室長の女性は社用スマホを取り出し、ある画面を滝川さんに見せた。 「社長……社内チャットに、……その、加納秘書の変な噂が書き込まれていて……」 「加納さんの?見せてくれ」 滝川さんは顔色を変え、室長のスマホをさっと受け取る。
last updateLast Updated : 2025-11-25
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107話

私が床にぺたり、と座り込んでしまった瞬間、周囲からヒソヒソと話す声が嫌に耳に届いた。 「茫然自失としてるぞ……この投稿は本当だったのか?」 「ショックを受けてるし、まさか本当に……?」 「この内容が本当だったら、とんでもない人じゃないか」 「子供を堕ろすなんて信じられない」 何も知らない人達の悪意に満ちた言葉が私の胸にグサグサと刺さる。 何も、知らないくせに。 私がどんな思いで清水瞬と過ごし、彼の裏切りに傷付き、子供を事故で失って、どれだけ傷付いたか、何も知らないくせに! 人の不幸は蜜の味、とはよく言ったもので。 皆、チャットに投稿された文章を見て私を奇異の目で見つめてくる。 「加納さん、大丈夫か?」 だけど。 この場で、滝川さんが唯一私の味方をしてくれた。 優しく私を抱き起こし、怪我がないかを確認してくれる。 滝川さんが私に対して優しく、そして心配している姿を目の当たりにした社員達は、気まずそうに、私の噂話をしていた人達はバツが悪そうに、顔を逸らした。 私を抱き起こしてくれた滝川さんは、周囲にいる社員達に視線を巡らせて低く、重い声で告げる。 「こんな投稿に踊らされ、同じ職場で働く同僚を貶めるなんてな……うちの社員にはガッカリした」 滝川さんの冷たい声が、静まり返ったフロアに響く。 私の噂話をしていた社員は皆、顔を真っ青にして俯いた。 誰も何も言えない中、1人の女性が軽やかな足取りで進み出た。 「でも、滝川社長。火のないところに煙は立たないって言いますし……そちらの秘書の方、本当に婚約者も妊娠も、そんな事実はなかったんですか?」 甘ったるい、まるで媚びるような声。 先程より大分声が高くなっているけど──。 「……そうか、君か」 滝川さんはぽつり、と言葉を零してスマホの通知を確認する。 さっと文章に目を通した滝川さんは、歩み出てきた彼女に視線を向けた。 「君は、うちの受付の三橋まどかさんだね」 「──えっ!?私の事を知ってて下さったんですね、嬉しい!!」 滝川さんに名前を覚えて貰っているとは思わなかったのだろう。 彼女──三橋さん、は嬉しそうに目を輝かせ、滝川さんに近づいた。 そして、そっと私を支える滝川さんのスーツの裾をちょこん、と指で掴み甘え
last updateLast Updated : 2025-11-25
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108話

滝川さんに腕を払われた三橋さんは、信じられないと言うように目を見開いた。 大きな瞳には、じわりと涙が滲む。 「ひ、酷いです社長ぉ…。私は、この人のせいで社長にまで悪評がついちゃうんじゃないかって…、そう心配しただけなんです…」 「悪評……?加納さんについて、出鱈目な情報を書き込まれたこのチャットの事を言っているのか?こんな誹謗中傷を、私が信じると思っているのか?それに、これは社内チャットだ。社内の人間しか見ないだろう。何が真実かどうか、調べればすぐに分かる事だ」 きっぱりと、普段の冷静さを少しも損なわずに言い放つ滝川さん。 滝川さんは、私に再び向き直ると、優しい表情に変わって手を差し伸べてくれた。 「加納さん、大丈夫か?掴まって」 「ありがとう、ございます滝川さん」 「ああ。膝は?打ってない?」 三橋さんの存在などまるで見えていないような滝川さんの態度。 そこにぽつん、と残された三橋さんは、羞恥に顔を赤く染めて怒りでぷるぷると肩を揺らしていた。 滝川さんに支えられつつ、私がその場に立ち上がると、先程滝川さんに社内チャットで私の事が書かれていると話した広報室の室長が再びおずおずとやって来た。 「社長……。社内の社員に動揺が広がっています。せめて、縁故採用ではない事を社長が社員に向けて伝えないと、騒ぎが収まらないかもしれません……」 それに、と言葉を濁した室長がちらり、と私を気まずげに見やる。 「もし……加納秘書がそのような事実を隠して、社に入社したのであれば……それは、問題です」 「……それは絶対にない、と言い切れるが。証拠が必要だ、と言う事か」 「おっしゃる通りです、社長」 滝川さんは自分のこめかみに手を当て、疲れたように息を吐き出す。 そして、私に顔を向けると、周囲に聞こえないようそっと小さな声で囁いた。 「加納さん……君の子供が、亡くなってしまった経緯を話しても大丈夫か?そこを明らかにすれば、こんな馬鹿げた噂話はすぐに消える」 「もちろん、大丈夫です。私も、あの子が亡くなってしまった理由を……真実を捻じ曲げられたままなのは、許せません」 私はそっと自分のお腹に視線を向ける。 今はもう、そこにはない命。 大切にしたかった命だ。 それを、自らの手で失わせたと勘違いされ
last updateLast Updated : 2025-11-26
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109話

「法的措置」 滝川さんがその単語を口にした瞬間、三橋さんの顔色が目に見えて悪くなる。 そして、私の子供が亡くなった理由を知った社員は、気まずそうに顔を逸らし、誰も何も言葉を紡げなくなってしまった。 「人の辛い過去を暴き、満足か?面白おかしく噂話を広めて満足か?我が社に、そんな軽薄で愚かな社員ばかりなのが残念だ」 ぎろり、と滝川さんに視線を向けられた人達。 それは、さっきまで私の事を面白おかしく語っていた社員の人達だった。 その人達を中心に、気まずそうに私から視線を逸らす人達が多くいて。 その人達から離れた場所にいた人達は、私の噂話を口にしてはいなかったのは分かっていた。 社内チャットに突然投下された内容に、不快そうに顔を顰めている人や、はなから噂話を馬鹿馬鹿しい、と信じていない人達も、確かにいた。 その人達に向かって滝川さんは声をかけるように口を開いた。 「さあ、通常業務に戻ってくれ」 そう声をかけたあと、滝川さんは傍にいた室長に顔を向ける。 「室長は、馬鹿馬鹿しい噂話を鵜呑みにして、加納さんの中傷を行った者のリストを俺に届けてくれ。それと──」 ちらり、と最後に三橋さんに視線を向ける滝川さん。 滝川さんの視線を受けて、三橋さんは怯えるように体を震わせた。 「三橋まどかさん。君は社長室に。加納さんも、一緒においで」 「分かりました」 大丈夫?と私を気遣いながら、滝川さんがゆっくりと歩き出す。 私も滝川さんと一緒に進みながら、ちらりと背後の三橋さんを盗み見た。 彼女は、真っ青な顔で口を引き結び、微かに震えながらよたよた、と後に続いていた。 滝川さんから社長室に、と言われてしまった彼女には、逆らう事はできない。 自分の今後を考えて、顔色を悪くしているのだろう。 私も、滝川さんも、三橋さんがあの時隣の個室にいた女性だと分かっている。 そして、麗奈と電話で話していた事も──。 麗奈は、私が妊娠していた事も。 清水瞬との婚約が駄目になった事も。 そして、流産してしまった事も知っている。 エコー写真と、母子手帳をどうやって手に入れたのかは分からないけど、清水瞬の力を借りて手に入れる事は容易い。 もう、二度と関わりたくなんてないのに。 私がそう願っても、放ってお
last updateLast Updated : 2025-11-26
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110話

社長室。 椅子に座っている滝川さんの後ろに控えた私の目の前には、会社の受付に配属されている三橋まどかさんが立っている。 彼女は、こちらが気の毒になるくらい顔を真っ青にして、カタカタと微かに震えていた。 それもその筈。 彼女の目の前に座っている滝川さんは、恐ろしいほど冷たい目をしていて、彼女を鋭い視線で見据えていた。 そんな滝川さんが、口を開く。 「三橋社員。社内チャットに加納さんの誹謗中傷を投稿したのは君だね」 滝川さんの言葉に、三橋さんが弾かれたように顔を上げ、慌てたように返す。 「ち、違います…っ!どうして私が…っ、それに、私がやったって言う証拠があるんですか!?」 顔を覆い、わっと泣き出す三橋さん。 けど、滝川さんは態度を変える事なく、あっさりと肯定した。 「証拠があるからそう言っている」 「──ぇ」 滝川さんの言葉に、泣いていた筈の三橋さんが驚いたように顔を上げた。 彼女の顔には涙一筋も伝っておらず、その顔は唖然としていて、驚きに口を開いていた。 滝川さんは、自分の懐から社用スマホを取り出すと、いくつか操作をして三橋さんに見やすいようにデスクに置いた。 「秘書に調べさせた。匿名で書き込んだようだが、IPアドレスを調べ、君のスマホから書き込んだ形跡を入手した」 「そ、そんな事有り得ません……!社長が社に戻ってきたのはついさっきじゃないですか!し、調べるなんてとても……」 三橋さんは必死に言い訳を口にしている。 私も、滝川さんがいつの間に調べていたのか知らず、驚いて彼を見つめる。 すると、私の視線に気付いた滝川さんがふ、と表情を緩めて私に答えた。
last updateLast Updated : 2025-11-27
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