All Chapters of 婚約者は私にプロポーズをしたその口で、初恋の幼馴染に愛してると宣う: Chapter 81 - Chapter 90

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81話

「そ、そんな…滝川さんの相談も、私がお家に住まわせて頂いているお礼で…」 お礼のお礼なんて、とんでもない。 私がそう言おうとしたけれど、滝川さんの笑みが深くなる。 「あの時間の消費はお礼の域を超えている。加納さんが受け取ってくれなかったら、そうだな…。加納さんにあの時間に見合う金額を振り込むよ。それで俺に払ってくれればいい」 「滝川さん──」 「今回のパーティーは俺に付き合わせてしまうんだから、良かったら受け取ってくれ。この怪我の手助けもとても助かってるしね」 滝川さんが苦笑いを浮かべつつ、自分の腕を怪我をしていない方の手でぽん、と叩く。 滝川さんの表情から、決して折れてくれない雰囲気を感じ、私はこれ以上滝川さんに断るのも失礼だと思い、頷いた。 「ありがとうございます、滝川さん。その、お礼は絶対にさせてくださいね」 「はは、楽しみにしてる」 笑顔で頷く滝川さんに、私も笑みを浮かべ彼にお礼を伝える。 それから、私たちは休憩を終えてドレスに合う靴を選んだ。 ドレスと靴を選び終えた私たちは、滝川さんの会社にやって来た。 怪我の具合も大分良くなった滝川さんは、今まで通り会社で仕事をする。 私はと言うと、滝川さんの相談に乗るためにまた会社にお邪魔する事になったのだ。 「加納さん。すまない、ちょっと急ぎの仕事を片付けるから、もし良ければ社内を見て回っていて」 「分かりました。お仕事頑張ってくださいね、滝川さん」 「ああ、ありがとう」 滝川さんと別れ、私は持田さんの案内のもと、社内を見て回る事になった。 「加納さん、もし良ければテラスに行かれますか?社内でも眺めのいい場所なんです」 「本当ですか?行きたいです」 「分かりました、ご案内しますね」 持田さんが私の車椅子を押してくれる。 持田さんは、滝川さんの秘書だ。 だからだろうか、社内を移動しているとすれ違う社員が皆頭を下げてくれる。 そして、持田さんが押す車椅子に座っている私を、興味深そうに皆が見てくる。 「すみません、加納さん……不快ですよね」 色々な人から視線を向けられている状況に、持田さんが申し訳なさそうに謝罪を口にする。 滝川さんや、持田さんと一緒にいる私に興味を抱くのは当然だ。 だから私は笑顔で持田さ
last updateLast Updated : 2025-11-11
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82話

どうして、清水瞬が滝川さんの会社に。 私が唖然としていると、清水瞬がこちらに向かって歩いてくる。 「心、心がどうして滝川の会社にいるんだ?」 「──…っ」 「心、心……?」 清水瞬は私の前にやってくると、名前を呼びながら私に触れようと手を伸ばしてきた。 私は触られるのが嫌で彼から顔を逸らす。 「──っ、そんなに俺に触れられるのが嫌か」 「当たり前、です」 私の言葉に、何故か彼は口端を持ち上げて笑って見せた。 彼がどうして笑っているのかが分からず、私は眉を寄せた。 上手く隠しているようだけど、清水瞬のこの笑い方は知っている。 嬉しい事を隠そうとしている時の顔だ。 何が嬉しいというのだろうか、と私が彼を見ていると、私に訝しがられていると分かったのだろう。 清水瞬はすぐに表情を引き締め、話を戻した。 「それより、どうして心がこんな所に?滝川に連れられて来たのか?なのに1人でこんな場所に放置されているのか?」 滝川は何を考えているんだ、と言わんばかりの話し方に、私はむっとしてしまう。 どうして清水瞬に滝川さんをこんな風に言われなくちゃいけないのか。 私は思わず言い返した。 「滝川さんはそんな人じゃないわ。少しだけ社内を見ていて、って言われただけだし、秘書の方も一緒にいるの。秘書の方は私の飲み物を取りに行ってくれているだけで、すぐに戻ってくるわ」 「だが、心が1人でここにいるのは事実じゃないか。何かあったらどうするんだ」 「こんな所で何かがあるわけないじゃない」 「ないとは言いきれないだろう。車椅子に乗った状態で、1人でいさせたら危ないのに何を考えているんだ…」 ぶつぶつと
last updateLast Updated : 2025-11-12
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83話

滝川さんがテラスにやってきた事に、清水瞬が驚いたように目を見開き、固まった。 「滝川……、社長」 清水瞬が軽く頭を下げ、滝川さんに言葉を続けようとしたけど、滝川さんは清水瞬をちらりと一瞥しただけで、私と持田さんに向かって歩いて来る。 「加納さん、大丈夫?彼に何かされていないか?」 「滝川さん。私は大丈夫です。特に彼ともそんなに話してませんし」 「そうか…それなら良かった」 自分の存在を無視され、私と話している滝川さんに苛立ちを覚えたのだろう。 清水瞬は滝川さんに向かって声を荒らげた。 「これ以上無視をするな……!どうして汚い真似をする!」 「……汚い真似?言い掛かりはやめてもらおう」 「それならどうして突然、協力会社と工場がうちとの取引を打ち切るんだ!お前の差し金だろう!?」 「勝手な事を……」 滝川さんは疲れたように額に手をやり、清水瞬に顔を向けた。 「うちが新規参入すると聞いて、様子を伺っているだけだろう。それを勝手な妄想で俺の差し金などと…」 「だが、こんな急に……っ!見計らったかなようなタイミングだろう!?私情を挟むなよ、滝川涼真!」 「私情……?俺がいつ私情を挟んだって言うんだ」 「丸わかりだろう」 清水瞬は滝川さんを小馬鹿にしたように鼻で笑うと、私に視線を向けてきた。 彼の視線に晒されたくなくて、見られたくなくて、私はさっと顔を逸らし、持田さんに声をかける。 「──持田さん」 「分かりました。…社長、私と加納さんは席を外しますね」 「ああ、すまないが頼むよ持田さん。加納さんを部屋に連れて行って」 「かしこまりました」 言葉少なにそれだけを交わし、持田さんは私の車椅子を引き、テラスを出ていく。 私には、遠ざかる2人の会話は聞こえなくなってしまった。 ◇ テラスから加納さんが出ていき、この場には俺と清水の2人だけが残った。 目の前に立つ清水に、視線を向ける。 先程から何が楽しいのか、清水は勝ち誇ったかのような表情を浮かべ、まるで俺を見下しているかのようだ。 「……はっ、滝川涼真。お前がいくら心を口説こうと、心の中には俺がまだ残っている」 「──は?」 突然、何を言っているんだ、と俺は眉を顰めてしまう。 だが、そんな俺の態度を強が
last updateLast Updated : 2025-11-12
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84話

◇ 一足先にテラスを後にした私は、持田さんと一緒に滝川さんの社長室にやって来た。 「まさか清水さんが来ているとは知らず、加納さんを1人にしてしまい申し訳ございません」 「そんな!持田さんが謝る事じゃないです!せっかく私に飲み物を買って来て下さったのに、こんな事になってしまい申し訳ございません」 私が持田さんに対して頭を下げると、持田さんが慌てて両手を手に振る。 「や、やめてください加納さん!頭を上げてください!」 「でも…」 私たちが話していると、部屋の扉が開く音がして、次いで滝川さんの声が聞こえた。 「加納さんが謝る事じゃないよ。むしろ、こちらの配慮が足りずに申し訳なかった。彼に嫌な事はされてない?」 「滝川さん…!」 労るような表情で話しかけてくれる滝川さんに、私は笑顔で頷く。 「ええ、大丈夫です。……ただ」 「──何か、彼と?」 私が言葉を濁した事にぴくりと反応した滝さんが近づいてくる。 どこか探るようなその視線に、私は先程彼と話していて、触れられそうになった不快感を吐露した。 「…何だか、清水瞬は勘違いをしているような様子でした。私は単純に彼に触れられるのが嫌だったのですが……何だか、彼はそう思っていないようで」 私の言葉を聞いた滝川さんは、先程ちらりと覗いた不安そうな感情が消えた。
last updateLast Updated : 2025-11-13
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85話

パーティー会場に着いた私と滝川さん。 滝川さんは、係の人に招待状を渡し、会場内へ進んだ。 会場は、有名ホテルのホール全面を使用しているようで、新作披露のためにちょっとしたランウェイも用意されていて、国内ブランドのこのパーティーに対する力の入れようを窺えた。 滝川さんも私と同意見なのだろう。 関心したようにランウェイを見て、そしてパーティー会場をぐるりと見回してそっと私に耳打ちした。 「そこそこ有名なインフルエンサーや著名人も招待されているようだ。規模も中々あるな」 滝川さんに話しかけられ、私も滝川さんに身を寄せつつ声のトーンを落として答える。 「ええ、私もそう思います。今人気が出てきている美容関係のインフルエンサーもいますね」 「本当か?なるほど…インフルエンサーの宣伝力に目を付けているのか」 興味深そうにこのパーティー会場を見回している滝川さんのもとに、近付いてくる足音が聞こえた。 「そちらにいらっしゃるのは…、滝川さん?滝川社長じゃありませんか?」 「──飯戸山(いいとやま)さん。お久しぶりです」 「久しぶりです。滝川社長も招待を受けていたんですね」 「ええ」 「滝川グループも参入すると言う噂は聞いていましたが…噂は本当だったようですね」 飯戸山、と言う男性の言葉に、滝川さんはにこりと笑ったまま答えない。 だが、沈黙は肯定のようなもので、彼はそれ以上を滝川さんに聞く事はしない。 滝川さんは、話を変えるように隣に立つ私を見て、飯戸山さんに私を紹介してくれた。 「ああ、紹介します。こちらの女性は加納心さん。今、俺の仕事を手伝ってもらってる」 「加納です」 「飯戸山です。私も妻と一緒に来ていたのですが…すみません、離れた所にいて…」 「いえ、大丈夫ですよ。お気になさらず」 申し訳なさそうな顔をする飯戸山さんに、私は笑みを浮かべて答える。 飯戸山さんは、私と滝川さんに順に視線を向けると、言葉を続けた。 「加納さんは滝川社長のお仕事の手伝いを…?優れたデザイナーなのですね」 飯戸山さんの私を褒めるような言葉に、すぐに私は首を横に振って否定する。 そんな対した事はできていないのに、デザイナーなんて烏滸がましい。 「いえ、とんでもございません。デザイナーと呼んで頂く
last updateLast Updated : 2025-11-13
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86話

照明が落ちて、薄暗くなった瞬間。パーティー会場には軽快な音楽が鳴り始めた。 まるでファッションショーさながら、ランウェイのような場所にスポットライトがあたり、女性がこのブランドの服を身にまとい、ランウェイを歩いて登場してきた。 「凄い、演出だわ…」 私や、他のパーティーの参加者も皆、ランウェイに注目していた。 だから私は、滝川さんにすっと近付いた飯戸山さんが彼に何かを耳打ちしているのは気付かなかった。 「滝川社長、警戒した方がいいです。ブランドの経営者黒瀬は、滝川グループが参入する事に目を付けていました。…それに、パートナーの加納さんは彼の興味を引くほど美しい。…用心することに越したことはない」 「……ご忠告、感謝します」 まさか、滝川さんと飯戸山さんがそんな事を話しているなんて私は全く分からないまま、ランウェイを颯爽と歩いているモデルさん、そして新作衣装に釘付けになっていた。 滝川さんと話が終わったのだろう。 飯戸山さんが去って行く姿が視界の隅に入り、私は滝川さんを見上げる。 滝川さんは、ランウェイを見つめたまま、何かに気付き、目を見開いた。 「加納さん、こっちに」 「──え、あ…っ」 こそり、と耳打ちされたと思ったら、滝川さんの手が私の腰に回る。 ぐっと引き寄せられ、私はぴったりと滝川さんにくっついてしまった。 ファッションショーの音楽が流れていて、会話は聞こえないだろうけど、周囲に聞かれてしまわないよう、滝川さんは私の耳元に顔を寄せて話す。 「加納さん。あまり1人で行動しないように気をつけてくれ。…俺から離れないよう、注意して」 「わ、分かりました」 滝川さんと距離が近くて、彼の香水の香りも、彼の
last updateLast Updated : 2025-11-14
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87話

私の腰に手を回していた滝川さんは、私が震えた事に気付いたのだろう。 気遣わしげに私に話しかけてくれた。 「加納さん?どうかした?」 「──え」 滝川さんにぱっと顔を向け、再びランウェイ上の黒瀬さんに視線を向ける。 けれど、黒瀬さんは既にこちらから視線を外しており、周囲を見回しながら言葉を続けていた。 気のせい、だったのだろう。 こんな薄暗い中で、目が合うなんて有り得ない。 だから私は滝川さんに笑みを浮かべたまま、首を振って否定した。 「いえ、なんでもないんです。すみません」 「そう…?それならいいんだが…」 滝川さんは不思議そうな顔をしたままだったけど、私は彼から顔を逸らし、再びランウェイに顔を向けた。 それ以降は、黒瀬さんから視線を向けられる事なく、新作の説明が続いていた。 新作の発表が終わり、会場内は再びパーティーの雰囲気に戻る。 黒瀬さんの周りには、彼とお近付きになりたい、と願う沢山の人が集まっている。 「滝川さんは、彼と話さなくていいんですか?」 「ん?俺……?」 お酒が入ったグラスを揺らしながら滝川さんが答える。 私は彼にこくりと頷いて見せた。 「ええ、新規事業で参入するなら、彼のような人と繋がっておくのは大事なのでは、と思いまして」 「そうだな……。パイプを持つのは大事だけど、こちらから行く必要はないよ。滝川グループと繋がりたい、と思っていれば向こうから来るさ」 「なるほど…確かにそうですね」 「それより、加納さんは気になったデザインはあった?」 滝川さんの質問に、私はさっきランウェイを歩いていたモデルさん達の服の中で、一際目を引いたデザインがあった事を滝川さんに伝える。 「ありました!6番目に出て来たデザインがとても気になりました。滝川さんは何か気になったデザインはありましたか?」 「そうだな……俺は4番目に出てきたデザインが気になったかな」 思い出すように、顎に手を当てて答える滝川さんに私も頷く。 「私もあのデザインは気になりました…!けど、細部を確認すると、4番目より6番目のデザインがとても凝っていて、それに!刺繍を見ましたか?スパンコールで刺繍をされていて、とても繊細で、尚且つ──」 「そこまで弊社のデザインを気に入って下さっていて
last updateLast Updated : 2025-11-14
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88話

「初めまして、今日はお会いできて嬉しいです」 黒瀬さんは、にっこりと笑みを浮かべたまま流れるような自然な動作で、私の手をすくい上げて手の甲に唇を落とした。 「──っ!?」 「黒瀬さん、私のパートナーに不躾ではないですか」 私が黒瀬さんの行動に驚き、目を見開いた瞬間、滝川さんの声がすぐ側から聞こえてきて、ぐっと滝川さんに引き寄せられた。 私の腰に滝川さんの手がしっかりと回され、抱き寄せられる。 とん、と滝川さんの胸に私の肩が当たり、滝川さんを見上げる。 すると、滝川さんは見た事もない程険しい表情を浮かべていて──。 黒瀬さんは「降参」と言うように両手を胸の前に掲げて苦笑いを浮かべた。 「いや、失礼。滝川社長のパートナーだと気付かず、美しさに目を奪われて声をかけてしまいました。大変失礼しました」 黒瀬さんは微塵も申し訳ない、と思っていなさそうな余裕の態度のまま、私に言葉を続ける。 「美しい女性のお名前をお伺いしても?」 「……加納、と申します」 名乗らないのは、流石に失礼に当たる。 しかも、彼はこの国内ブランドの敏腕経営者で今回のパーティーの主催者。 そんな人に失礼な態度を取れるはずがない。 私が失態を犯せば、私をパートナーとして連れている滝川さんにまで迷惑がかかってしまう。 だから私が自分の名前を名乗ると、黒瀬さんは私の名前を覚えるように「加納さん」と繰り返した。 滝川さんは、険しい表情のまま黒瀬さんに話す。 「……この度は、このような素晴らしいパーティーにご招待くださり、ありがとうございます」 「とんでもない。滝川社長に来て頂けて嬉しい限りです。この後も楽しんで行ってください」
last updateLast Updated : 2025-11-15
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89話

「まさか、心も参加してたなんて……奇遇ね」 甘ったるい、嫌に耳に貼り付くような声。 その声に聞き覚えのあった私は、背後をちらりと振り向いた。 私と同じく、滝川さんも聞き覚えがあったのだろう。 迷惑そうな表情を隠しもせず、顔だけを背後に向けていた。 「──麗奈、と……清水さん……どうしてここに……」 「心……」 私の質問に、麗奈は答えず、清水瞬は私の名前をぽつりと呟いた。 「彼らにも、招待状が届いていたか」 「滝川さん……?」 「いや、何でもないよ加納さん。俺たちは行こうか」 滝川さんの呟きに私が彼に話しかけるけれど、滝川さんは何でもないと言うように首を横に振って、移動を促してくれた。 私も滝川さんの言葉に頷き、この場を離れようとする。 清水瞬と麗奈がここに来ていようとも、私には関係ない。 清水瞬の会社も、自社ブランドを展開している。 彼らにだってパーティーの招待状が届いていたって不思議じゃない。 だけど、移動しようとしていた私と滝川さんを、麗奈が呼び止めた。 「待ちなさいよ、心。なんであんたみたいな女がこのパーティーに参加してるの?」 くすくす、とまるで小馬鹿にするような麗奈の言葉。 だけど、私は麗奈の言葉には反応せずに滝川さんに顔を向けた。 「滝川さん、行きましょう」 「ああ、そうだな」 自分を無視された事に、羞恥で顔を赤くした麗奈が食ってかかってくる。 「ちょっと、待ちなさいよ……っ」 「……何の用なの?私には話はないけど」 「っ、調子に乗るんじゃないわよ。こんな大きなパーティーにあんたみたいな女が紛れ込んでいたら、パーティーの質が落ちるじゃない。さっさと帰ったらどうなの?」 「……私は滝川さんのパートナーとしてパーティーに参加しているの。麗奈、あなたの自分基準の判断なんていらないわ。滝川さんを侮辱するのはやめてくれる?」 私の冷たい声と表情に、一瞬だけ怯んだ麗奈がすぐ自分の隣にいる清水瞬に顔を向けた。 「瞬……心が酷い事を言うわ。私を馬鹿にしたのよ……」 さっきの麗奈の言葉は、私にだけ聞こえるくらい小さな声で囁いていた。 だから、私の隣にいた滝川さんはともかく、清水瞬には麗奈が口にした言葉は聞こえていない。 また、麗奈を庇って文句を言
last updateLast Updated : 2025-11-15
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90話

清水瞬と麗奈を置いて、私と滝川さんは小休憩が出来るようなスペースに来た。 テーブルとソファが幾つか置かれていて、そこで軽く軽食を摂ったり飲み物を飲んで談笑している人達もいる。 「彼ら、あのままにしていて良かったでしょうか……?」 私の言葉に、滝川さんは当然と言うように頷いた。 「あんな風に声を掛けてくるなんて…巻き込まれて迷惑を被るのはごめんだからな……。放っておいた方がいい」 「確かに…あの麗奈の形相は……」 いつもお淑やかで健気で、と言う態度を貫いていた麗奈が、憎悪に顔を歪めて私を見ていた。 それに、今までだったら清水瞬の前では決してあのような事は口にしなかったのに。 以前、警察騒ぎを起こしてしまったからだろうか。 それに、あれ程麗奈、麗奈と言って彼女を大事にしていた清水瞬が静かだった事がとても気味が悪い。 「彼らが何か、しなければいいんですけど……」 「そうだな…。だが、こちらから下手に近づかなければきっと大丈夫だ。彼らの存在は無視して、仕事に集中しよう」 「分かりました、滝川さん」 「──さて、飲み物を持ってくるよ。加納さんはさっきと同じでいい?」 ソファ席まで移動してきた私たち。 滝川さんは、私をソファに座らせるとぐっと腰に手を当てて伸びをしてから私にそう問いかけてくれた。 彼に飲み物を持ってきてもらうなんて、申し訳ない。 私は座ったソファから腰を浮かしつつ、滝川さんに答える。 「滝川さんに持ってきて頂くのは申し訳ないですし、私も──」 「久しぶりに沢山歩いてるし、ヒールがある靴も久々だろう?足が疲れて来ているだろうし、俺が取ってくるよ」 「……っ、ありがとうございます」 申し
last updateLast Updated : 2025-11-16
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