◇ 「本日はありがとうございました」 「いやいや、こちらこそ!お2人に会えて良かったですよ。どうですかな、この後予定が入っていなければ」 帝都ホテル。 専務取締役の部屋で会議を終えた涼真さん。 涼真さんの後ろに付き従っていた私は秘書として徹底していたけど、専務取締役は私たちが婚約している事を知っていたのだろう。 涼真さんと私に向けて手でお猪口の形を作り、口元にそれを運んで見せた。 お酒の席へのお誘いだ。 この後、予定が無ければもちろんご一緒出来ていたけど──。 涼真さんは申し訳なさそうな表情を作ると、専務へ断りの言葉を告げた。 「有難いお誘いですが申し訳ございません、この後も会議が入っておりまして……」 「なんと……!それは残念……。また次の楽しみに取っておくとしましょう」 「ええ、次は是非」 「加納さんも、次は一緒に食事を楽しみましょう」 「ありがとうございます」 専務は私にも笑顔で話しかけてくれて、私も笑顔で言葉を返す。 エレベーターで下まで送ってくれる、と言う専務の言葉に甘え、3人で談笑しながらエレベーターに乗り込んだ。 「そう言えば、御社で来春発表の──」 「そこまでご存知ですか……!ええ、それはですね──」 ……? あれ、おかしいな。 涼真さんと専務の声が、遠くなるような気がする。 頭がぼうっとして、ぐらぐらとする。 いけない、このままだと体がふらついてしまいそうだ。 私は内頬を強く噛み締め、何とか意識を保っていた。 だけど、エレベーターが下に着いて2人がエレベーターから出るのを待つため、私はエレベーターの操作盤にさっと移動しようとした。 だけど──。 「──っ、」 「心!」 動いた瞬間、ぐわん、と私の頭が揺れた。 そして体からふっと力が抜けた感覚。 私の名前を焦って呼ぶ涼真さんの声。 驚いたような顔の専務──。 ああ、いけない。 取引先に迷惑をかけてしまう──。 そこまで考えた所で、私の意識はぶつり、と切れてしまった。 ◇ 次に目が覚めた時、私の視界に入って来たのは見慣れない天井だった。 「……?」 ぼうっとする頭で僅かに身動ぎをすると、すぐ側から涼真さんの焦ったような声が聞こえた。 「心!目が覚めたか!?」 「涼真さん……?ごめんなさい、私……」 急いで起き上がろう
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