婚約者は私にプロポーズをしたその口で、初恋の幼馴染に愛してると宣う のすべてのチャプター: チャプター 71 - チャプター 80

107 チャプター

71話

「本当に、すまない……。申し訳、ございません……」 恥辱で、清水瞬が震えている。 握った拳も震えていて、私はその姿を見ただけで、何だかもう良くなってしまった。 きっと、麗奈は私に謝罪はしないだろう。 私がしてもいない事をああやって言い訳にして、逃げ出すのだから今後も期待はできない。 視線を感じて、私がそちらの方向を向くと、視線の送り主は滝川さんだった。 まるで「どうする?」と問うような滝川さんの視線に、私は諦めたように苦笑いを浮かべた。 「──もう、いいです」 私の一言に、清水瞬がぱっと下げていた頭を上げる。 私の顔を見て、幾分か表情が和らいだように見えた。 「こ、加納さん……」 「もう、謝罪は結構。だけど、金輪際私はあなたたちと関わりたくありません。清水さんへの気持ちも綺麗に消えているので安心してください。柳さんの勘違いも、正して下されば結構です」 私の強い口調と言葉に、清水瞬は一瞬面食らったように目を見開いた。 その瞳に薄らと悲しさのようなものが見えた気がしたけれど、きっと見間違いだろう。 すぐに清水瞬は「承知した」と告げて、最後にもう一度深々と頭を下げてからリビングから出て行った。 静まり返ったリビングに、滝川さんの足音が響く。 「加納さん、良かったのか?」 本当に、許して良かったの?と滝川さんは聞きたいのだろう。 私は滝川さんの言葉に頷いた。 「ええ、いいんです。麗奈は……なんと言うか……あの性格なので、多分謝罪は絶対しないと思うんです」 「まあ、な……酷いものだった」 「けど、清水瞬が頭を下げて謝罪してくれました。それだけで、いいかなって思って」 滝川さんに迷惑をかけた彼が、誠心誠意謝罪をした。 それだけで、胸がすっとしたし、それ以上を求める事はしたくない。 「ふふ、清水さんの頭を下げる姿を見れただけで十分です。凄くプライドが傷付いたと思うので」 「加納さんがそう言うなら、いいんだ」 「はい。私はもう大丈夫です、きっとこれからは彼らと関わり合う事はなくなりますし!」 それより、もっと大事な事がある。 「これで、滝川さんのお仕事のお手伝いに集中できます!」 ぐっと拳を握って張り切って告げる私に、滝川さんは楽しそうに笑った。 「ははっ!確
last update最終更新日 : 2025-11-06
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72話

翌朝。 私は滝川さんのお部屋にお邪魔をして、前日のように着替えを手伝った。 初めは凄く滝川さんに渋られてしまったけど、怪我をしたのは私の責任。 私が折れない事を早々に悟ってくれた滝川さんは、渋々ながら着替えの手伝いを承諾してくれた。 着替えが終わって、2人でゆっくり階段を降りる最中、私たちは談笑していた。 「全く……覚えていてくれよ?俺の腕の方が加納さんの怪我より早く治るから、俺が治ったら加納さんの移動は全部俺が抱き上げて移動するからな」 「ふっ、ふふっ、それは凄く恥ずかしいですね、お断りしたいです」 「駄目。俺が恥ずかしいから間宮を呼んでってお願いを断ったろ?だから俺も加納さんが恥ずかしがる事をするよ」 じとっとした目で滝川さんが拗ねたようにそう口にするのがおかしくて、ついつい私は笑ってしまう。 いつもキリッとしていて、余裕たっぷりで、何でもそつなくこなしてしまう滝川さんが恥ずかしがって、拗ねている姿がとても珍しい。 滝川さんにも、こんな一面があるんだな、と。そして、そんな一面を私に見せてくれた事が嬉しくて、楽しくて私は笑うのをやめられない。 私が笑いながら、滝川さんが少し拗ねたまま、リビングに到着すると、朝食の準備をしてくれていた持田さんと間宮さんが不思議そうに私たちに話しかけた。 「加納さん……?社長は一体……」 「気にしないでくれ、持田さん。本当に気にするな」 「ふっ、ふふ……」 持田さんが困惑していて、間宮さんはキョトンとしている。 なんだか私は、滝川さんや持田さん、間宮さんとの距離が近付いたような気がして嬉しい。 こんな風に砕けた態度を私に見せてくれるようになった。 それが「ただの顔見知り」から「友人」と認めてくれたような、そんな気がして私は嬉しくて
last update最終更新日 : 2025-11-07
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73話

滝川さんから、思ってもみなかった言葉をかけられ、私はぎょっとしてしまう。 「わ、私がですか…!?と、とんでもないです!私は、会社に勤めてもいませんし…とても私が行けるようなところじゃあ…!」 「加納さんは、俺の相談にも乗ってくれているし、これから先デザインの仕事だって頼むかもしれない。充分加納さんも参加できるだろう?」 どう?と首を傾げて私を誘ってくれる滝川さんに、私はそれでも首を縦に振れない。 私が、滝川さんと一緒にパーティーに参加するなんて。 怪我は、来月末ならある程度治っていて、松葉杖無しでも歩けるようになっていると思う。 入院2週間以上、そして滝川さんのお家に来てから1ヶ月以上が経っている。 そして、来月末に行われるパーティーまではまだひと月半以上ある。 無理をしなければ、足の怪我は問題なく治るはず。 だけど、それ以上に。 大企業を経営している滝川さんと一緒にパーティーに参加したら。 注目を集めてしまうし、得体の知れない私なんかを一緒に連れて行く滝川さんの評判が悪くなってしまう可能性だってある。 それを考えたら、折角だけど滝川さんの誘いを受ける訳にはいかない。 「滝川さん……、私は」 「怪我の事を心配してるなら、安心してくれ。もし、加納さんの怪我が治っていなかったら無理して行かなくていいし、それに……招待状はパートナー同伴じゃないと参加できないみたいだ。俺を助けると思って一緒に参加してくれないか?」 滝川を、助ける──。 「そんな言い方、ずるいです……」 「申し訳ない。こう言わないと、加納さんは頷いてくれなさそうだったから」 苦笑混じりに滝川さんにそう言われ、私は頷くしかない。 私は、ずっと滝川さんに助けてもらっていた。 滝川さんの怪我も、私を庇ってくれたお陰で怪我を負ってしまったのだ。 滝川さんに返しきれない程助けてもらっている私に、出来ることがあれば何でも手伝いたい。 そんな気持ちを抱いている私は、滝川さんからの「お願い」とか「助けて欲しい」という言葉を断る事なんてできない。 「私は……本当に何のお役にも立てないかもしれませんよ?それでも、大丈夫ですか?」 「ああ、問題ないよ。俺は加納さんと一緒にパーティーに参加したい。だからパートナー、よろしく頼むよ」
last update最終更新日 : 2025-11-07
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74話

それから、朝食が終わると滝川さんは在宅で仕事をするため、1階の仕事部屋へ。 私は一旦部屋に戻る事にした。 滝川さんが急ぎの仕事を終わらせたあと、来月末のパーティーに招待してくれた国内ブランドの企業を教えてくれる。 私は部屋に戻ってきた後、国内ブランドで人気のブランドを数社パソコンで検索した。 最新のトレンド、海外での反応、価格やデザイン面。 それらを調べ、比較していく内にあっという間に時間が経っていたらしく、持田さんに声を掛けられるまで私はパソコンに集中していた。 持田さんから、滝川さんが呼んでいると聞いた私は、滝川さんの仕事部屋に向かった。 「加納さん。来てもらって悪い。大丈夫?」 「はい、大丈夫ですよ滝川さん。ありがとうございます」 私が部屋に入ると、滝川さんが椅子から立ち上がり、私を出迎えてくれる。 滝川さんが仕事をしていたデスクは、書類がいくつも所狭しと散らばっていて、とても忙しいのだろうと言う事が分かる。 あまり滝川さんのお仕事の邪魔をしないよう、早く話を終えないと、と私が考えていると、持田さんが「お茶を持ってきますね」と言い部屋から退出した。 私をソファに案内してくれた滝川さんが、私がソファに座ると隣に腰を下ろした。 そして、手に持っていた書類の何枚かを私に手渡してくれる。 「このブランドが、今回招待状を送ってきた企業だ」 「──あ、この会社、さっき調べたところです」 私は、滝川さんから渡された資料に目を落とし、そこに書かれているブランド名と会社名を見てすぐにさっきまで調べていた複数のブランドの内の一つだ、と分かった。 「ここ2、3年で急成長している国内ブランドですよね?来春には国内のインフルエンサーとコラボをするって…」 「ああ
last update最終更新日 : 2025-11-08
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75話

滝川さんと持田さんの話が終わったのだろう。 持田さんは「それでは、何かございましたらお呼びください」と告げ、頭を下げてから出ていった。 それから、私は滝川さんとパーティーの事を少し話し合い、私はパーティーの主催会社の事を調べる事。 滝川さんはまだ仕事が残っている事から、少しだけ話し合いをした私たちは解散した。 ◇ パタン、と扉が閉まり、加納さんが部屋から出て行く。 松葉杖をついて歩いていく背中を見送った俺は、自分のパソコン前に戻りパソコンに表示されている文字を見て、眉を顰めた。 「……これ、は言わなくてもいいよな……」 パソコンの画面に表示されていたのは、国内ブランドの新経営者。 若手経営者に関する記事。 彼の手腕は間違いない。会社を急成長させた腕は確かなものだ。 だけど、彼には女性関係にだらしない、という噂が常に付きまとっていた。 「パーティーの時、加納さんは俺と一緒にいるし……大丈夫なはず。俺が守ればいい……」 加納さんは綺麗だ。 綺麗だけど、どこか可愛らしい雰囲気を纏った女性。 パーティーではきっと多くの男の視線を集める事だろう。 きっと、この経営者も記事の内容が本当なら、加納さんに目をつけるだろう。 女好きで、女性関係がだらしない。性に奔放な性格。 「──そんな男を、加納さんに近づけないようにしないとな……」 当日は、招待状で入れるのは招待された本人と、そのパートナーだけ。 秘書の持田さんと間宮は参加できない。 加納さんを守れるのは、俺だけだ。 それに──。 「もしかしたら、清水瞬と柳麗奈も参加するかもしれない……」 清水の会社も、衣類の自社ブランドを持っている。 加納さんに、これ以上嫌な思いをさせたくない。 この日、加納さんを守れるのは俺だけだ。 俺は、パソコン画面に映っている若手経営者の顔を睨みつけるように見据えてから、仕事に戻った。 ◇ 滝川さんの仕事部屋から部屋に戻った私は、自室のテーブルに近付き、椅子に腰を下ろした。 「──ふう」 息を吐き出し、滝川さんに渡された書類をテーブルに置いた。 「国内ブランドの、企業の事を勉強しなくちゃね」 書類に手を伸ばそうとした私は、ふと先程滝川さんの仕事部屋で見た光景を思い出す。
last update最終更新日 : 2025-11-08
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76話

◇ 「ああぁあぁ!!」 ガシャン! パリン! と、何かが壁に当たって割れる大きな音が部屋中に響く。 ここは、瞬と麗奈が暮らしているマンションの一室。 滝川の家を飛び出した麗奈は、苛立ちを顕に部屋の中にある様々な物を投げ、壊していた。 「なんで!なんで瞬は私を追って来てくれないのよ!」 パリン!と、再び音が響く。 心と瞬が、記念日にお揃いで購入したワイングラス。 それが、粉々になって床に落ちた。 「どうして私があんな風に責められなきゃならないのよ!どうして私が心に頭を下げなきゃいけないのよ!どうして瞬は私を追いかけてこないのよ!」 まるで癇癪を起こしたように叫び続け、部屋中の物を壊す。 「あの女が悪いのに!あの女さえいなければ!あの女が瞬を横取りしたのよ!?それなのにどうして私があの女に!!」 ガシガシ、と髪の毛をめちゃくちゃに掻き回しながら麗奈は気が触れたように叫ぶ。 「どうして私ばっかり…!瞬は私の物よ、あの女の男じゃない…!あんな女より、私の方が瞬の事を分かってる、瞬を悦ばせる事だってできる、あんな女より私の方が価値のある女なのよ!」 それなのに、と麗奈はマンションの玄関に視線を向けた。 あの後、麗奈を追って来る事もなく、この部屋に戻って来る事もなく、麗奈が何度も何度も瞬に電話をしてやっと繋がったと思ったら、瞬は仕事のために会社に泊まる。と、それだけを答えた。 麗奈が泣いて、困っていた時に、瞬が麗奈を放置する事など今まで1度だって無かった。 麗奈が泣いていれば、瞬は直ぐに駆けつけ、麗奈に寄り添い、優しく抱きしめてくれた。 心より麗奈が大事だと。心と別れ、一緒になると言ってくれ
last update最終更新日 : 2025-11-09
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77話

幼稚園、小学校、中学と瞬とは同じ学校に通い、幼馴染として育ち、次第に2人は惹かれ合うようになった。 だけど、麗奈が中学の時。 家の事情で国内を離れなくてはいけなくなり、瞬とも離れ離れになった。 最初の頃は瞬とも連絡を取り合っていた。 けど、いつからか。 瞬から連絡が届かなくなった。 それは、麗奈の家があちらこちらの国を転々とする事になったから。 家族からも、外部との接触を断て、とキツく言われてしまい、そもそもまだ中学生だった麗奈にはスマホを取り上げられてしまえば、自然と瞬とは連絡が取れなくなってしまう。 それからの生活は、一変した。 1つの国に落ち着く事はなく、短期間で国を変え、家を変えた。 裕福だった頃が嘘のように貧しくなり、厳しい現実に打ちのめされる事も度々経験した。 そして、瞬と連絡が取れなくなってからあっという間に月日が過ぎてしまった。 気づけば、10年近く。 ようやく麗奈自身も仕事をし、安定した暮らしを送る中。 瞬が婚約した、と言う噂を聞いた。 瞬にとっても、麗奈は初恋の人で、麗奈にとっても瞬は初恋の人。 瞬が婚約したと言う話を聞いて、当時の感情がぶわり、と込み上げた。 瞬が誰か、他の女のものになる。 そんな事は、許せない──。 幸い、瞬は大企業の御曹司で、コンタクトを取ろうとすれば容易に取れる。 だから麗奈は瞬に自分の情報をわざと流した。 敢えて、瞬が自分を探し出してくれるような情報を流し、自分を探させたのだ。 麗奈の思惑通り、案の定瞬は麗奈の前に現れた。 それからは、簡単だった。 瞬の庇護欲を誘い、度々麗奈のいる国に呼び寄せ、熱い夜を過ごした。 初恋が再熱し、燃え上がるような日々はとても幸せで、麗奈は瞬を手放したくなくなった。 瞬の全ては、自分のもの。 瞬の持つ権力も、財力も、愛も全部自分のものだ。 奪われたものを取り返す。 泥棒女に取られたのだ。元から瞬は麗奈のものだったのだから、何もおかしな事ではない。 「そうよ…あの女さえいなくなれば…」 麗奈は、涙に濡れた瞳を陰らせてうっそりと笑った。 麗奈の視線の先には、瞬宛に届いた一通の封筒がある。 先日、瞬が麗奈に話したのだ。 あの封筒の中身は、とある国内ブランドの新
last update最終更新日 : 2025-11-09
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78話

◇ それからの私は、滝川さんの怪我が良くなるまで彼の身の回りの手伝いなどを続ける傍ら、デザインの勉強を続けていた。 そんなある日、いつも通り滝川さんの朝の着替えを手伝いに彼の部屋に行った私は、部屋に入った時に用意されていた彼の服を見て驚いた。 「──滝川さん?まさか、この服……」 滝川さんが用意していたのは、ワイシャツにスーツ。 今までは自宅で仕事をするから、ラフな格好だった。だけど、今私の目の前にあるのは見慣れた滝川さんのスーツ。 彼は、会社に向かうつもりなのだろう。 だけど、もう本当に会社に復帰して大丈夫なのだろうか、と私は心配になってしまう。 「もう会社に出社するんですか…!?だ、大丈夫なんですか!?」 「加納さん。ああ、大丈夫だよありがとう。加納さんは、足の治りはどう?良くなってきてるかな?」 「私の方も大分良くなってきています。まだギブスは外せませんが、無理をしなければ…と言う形ですね」 会話を続けながら、滝川さんの着替えの手伝いを始める。 滝川さんは、もう自分で殆ど着替える事ができるようになったけど、細かい作業──ボタンを閉めたり、ネクタイを結んだり、とするのはまだ難しそうで。 だから、ワイシャツのボタンを留めるのを手伝い、ネクタイを結ぶ。 そんな私の様子を見つめていた滝川さんが、ふと零した。 「怪我が治れば、こうして加納さんに手伝ってもらえなくなるのか…治るのが惜しいな」 「──え」 「……っ」 滝川さんは無意識だったようで、はっとして自分の口元を手のひらで覆った。 そして、バツが悪そうに私から視線を逸らしてごにょごにょ、と話す。 「ごめん…俺の怪我が加納さんの負担になってるのに、不謹慎な事を言
last update最終更新日 : 2025-11-10
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79話

「す、すみません滝川さん!怪我は大丈夫ですか!?」 「いや、俺こそ…何やってるんだ。…ごめん、加納さん」 「いえ…」 私も、滝川さんもさっと目を逸らしてしまう。 何だか変な空気になってしまい、間宮さんが気まずそうに待っている中、私は滝川さんのネクタイをささっと結び終えた。 スーツを羽織る手伝いをしていると、さっきの空気など微塵も残さず、普段通りの様子に戻った滝川さんが話しかけてきた。 「加納さん、今日って忙しいかな?」 「──へ?あ、いえ!特に予定はないです。家で国内ブランドの調べ物をしようと思っていたくらいですね」 「それなら、少しだけ時間をもらってもいいかな?」 「はい。もちろんです」 滝川さんはにっこりと笑みを浮かべると、それなら良かったと笑顔で言う。 「来月末のパーティーに参加する準備をしよう。色々準備が必要だろう?」 「準備、そうですね。分かりました、よろしくお願いします」 私がぺこり、と頭を下げてそう答えると、滝川さんは嬉しそうに笑った。 ◇ パーティーのための準備、と滝川さんが言っていたから、私はてっきり当日どんな会社が来て、どんな人達とどう言った交流をすれば良いのか。 そう言う事を話し合うのだと思っていた。 だけど、一緒に家を出ようと滝川さんに誘われ、外出してみれば。 車の行先は滝川さんの会社ではなく、高級ブランド店がずらりと入っている場所に私は案内されてしまった。 「加納さんごめん、少しだけ立てる?裾の長さを見よう」 「お客様、とっても綺麗な御御足をされていますね!足を隠すより、せっかくですし綺麗な御御足が見えるようなデザインにしましょう!」 「そうだな…だが、あまり裾が短いのは避けてくれ」 「ふふふ、かしこまりました。それなら、スリットが入ったこちらのデザインなどはいかがでしょう?」 「──ああ、いいな。持田さん、加納さんの着替えを手伝ってくれ」 「かしこまりました、社長」 私が唖然としている間に、とんとん話は進んでいってしまい、あっという間に私は持田さんに連れられ、試着のために別の部屋に案内された。 車椅子が別室に進められ、パタンと扉が閉まる。 その閉まる音で、私ははっとしてキビキビと店員と話す持田さんに話しかける。 「も、持田さ
last update最終更新日 : 2025-11-10
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80話

「思ったよりデコルテが開きすぎている。これは駄目だ」 滝川さんの「駄目」の一声で、違うデザインのドレスに着替える。 「背中……っ!開きすぎだ!これも駄目!」 前面のデザインにうんうん、と頷いていた滝川さんが、私の背後に回った瞬間、顔を真っ赤にして顔を逸らした。 「ああ、これはデザイン性も良いし、機能面も良さそうだ。加納さん、どう?動きにくくはない?」 「大丈、夫です……」 「よし。それじゃあ、ドレスはこれを。次にドレスに合う靴をいくつか持ってきてくれ」 滝川さんの言葉に、店員は笑顔で「かしこまりました」と告げ、直ぐにいくつかの靴を手に戻って来る。 「た、滝川さん……」 私は事態が飲み込めないまま、滝川さんに小さく話しかける。 店員と話をしていた滝川さんは、すぐに私に顔を向けてくれて「なに?」と優しく聞いてくれた。 そしてすぐにはっとして、慌てて続ける。 「加納さん、もしかして痛みが?無理をさせてしまったか…気付かずにすまない。一旦休憩にしよう。座ってくれ」 「えっ、あっ」 私が大丈夫だ、と言う前にあれよあれよと言う間に休憩室に連れられ、お茶が目の前に置かれてしまう。 滝川さんは車椅子に呆然としたまま座る私の前に来て、片足を床に着いて私の足の怪我の様子を確認してくれた。 「ギブスでしっかり固定されているとはいえ、やっぱり長時間立ちっぱなしは負担になったか…。すまない、加納さん。もし良ければ、靴は家に持ってきてもらって決めようか」 滝川さんの言葉に、私はぎょっとしてしまう。 家で決めると言うことは、店員を家に呼び寄せて買い物をすると言うことだ。 私は慌てて
last update最終更新日 : 2025-11-11
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