見物していた人たちは、いつの間にかすっかり散っていた。裕人もそれ以上その場に残る気はなかったらしい。倫也の肩を軽く叩き、そのまま立ち去っていった。廊下には、重たい沈黙だけが残る。しばらくして、由奈はようやく我に返った。倫也があんな形で騒ぎを収めるとは、思ってもいなかった。しかも、自分の評判まで顧みずに。人前で、既婚の女性を好きだと認める。それがどんな意味を持つか、倫也が分からないはずはない。世間からどれほど非難されるかも、きっと理解しているはずだ。それでも――あえて、ああ言った。由奈は小さく息を吸った。「白石先生……そこまでしてもらう必要はなかったのに」倫也は振り向いた。先ほどまで張り詰めていた表情が、わずかに和らぐ。「今回の騒ぎは、もとを言えば私が原因です。なら、私が責任を持って片付けるべきです」一瞬、由奈を見つめる。「あなたが気にする必要はありません」それだけ言うと、倫也は由奈の返事を待つこともなく、彼女の横を通り過ぎていく。白衣の背中が、ゆっくりと廊下の奥へ遠ざかっていった。由奈はその姿を黙って見送り、胸の奥で複雑な気持ちが込み上げてくる。一方そのころ、麗子は、病院で起きた一連の騒ぎをすべて祐一に報告していた。祐一はソファに腰掛け、雑誌をめくっている。麗子の話を聞くと――ページをめくる手が止まった。とりわけ、「離婚したとしても、倫也とはただの友人」と由奈が言ったと聞いたとき、祐一の眉間にかかっていた冷たい影が、わずかに薄れる。雑誌を静かに閉じた。「……なるほど。今回の件は、皐月さんの身近な人間が関わっているらしいな。なら、彼女に対応を任せよう」麗子は思わず眉をひそめた。「それでは、白石倫也さんにチャンスをあげることになるのでは?」祐一と由奈の関係は、いまだに冷え切ったままだ。だからこそ、自ら動き、由奈の信頼を勝ち取るべきではないだろうか。しかし祐一は首を横に振った。「それはない」その言葉は、倫也にチャンスはないという意味なのか。それとも、自分が決してチャンスを与えないという意味なのか。麗子は一瞬戸惑ったが、結局それ以上深く追及することはしなかった。……皐月のもとにも、すぐに騒ぎに関する報告が届いていた。話を聞き終えた瞬間、皐月の顔色が一気に険しくなる。「梓さんも馬場さんも……なんて
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