店の前に停まった車に気づいたオーナーは、運転手の顔を確認するとすぐに表情を緩めた。「おや、白石さん、仕事帰りですか?今日もいつものお酒で?」倫也は軽くうなずく。「はい、いつものもので」常連客の顔はだいたい覚えているオーナーだが、とくに倫也のことは印象に残っていた。店ではあまり売れないメーカーのビールを、なぜか彼だけは気に入ってよく買っていくからだ。そのやり取りを聞いていた紬が振り返り、倫也を見た瞬間、ぱっと表情を明るくした。まるで救世主でも見つけたかのように、勢いよく駆け寄る。「えっ、白石さん?ちょうどよかった!」突然声をかけられた倫也は眉をひそめる。オーナーは二人を見比べながら首をかしげた。「お二人は、知り合いなんですか?」倫也が答える前に、紬が先に口を挟む。「はい、昔からの知り合いなんです!で、さっきのモバイルバッテリーの利用料金、いくらでしたっけ?払います!」オーナーは手をひらひら振った。「数百円だけですし、常連さんのご友人ってことで、今回はサービスしますよ」そう言って店の奥へ酒を取りに戻っていく。紬は満面の笑みで頭を下げた。「ありがとうございます!本当に助かりました!」その様子を見ながら、倫也が淡々と口を開く。「どうしてここに?」紬は振り返って肩をすくめた。「ちょっと道に迷っちゃって……でもすごい偶然だね。こんなところで白石さんに会うなんて」「道に迷った?」「そうそう、それで――あの、一万円貸してもらえません?」倫也は無言で彼女を見た。「どうしてですか?」「それは……ちょっと詐欺に遭っちゃって、今お金持ってないの」紬は表情を曇らせながら、一気に事情をまくしたてる。「お義姉ちゃんに迎えに来てもらう予定だったんだけど、今いる場所を教える前にスマホの電源が落ちちゃって……だからここまで歩いてきたの。しかもカードも制限かかっちゃって使えなくて、さっきのモバイルバッテリーもオーナーさんが代わりに借りてくれたし……ほんと今、手持ちゼロなの」倫也は黙って最後まで聞き、短くうなずいた。「それなら、滝沢社長に連絡すればいいのでは?」紬は言葉に詰まる。深く息を吸い込み、気持ちを立て直してから言い返した。「たまたま白石さんに会えたんだから、あなたに助けを求めたほうが早いじゃない。わざわざ祐一兄ちゃんに連絡
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