本当にしつこい人だ。由奈は画面を見つめながら、短く返信した。【物忘れひどいから。明日のことは、また明日考える】一分ほどして、祐一から拗ねたようなスタンプが返ってくる。思わずため息が漏れたところで、「池上様、こちらのお部屋です」というスタッフの声に意識を引き戻され、スマホをしまう。ドアを押し開けると――室内には静華と、もう一人若い男がいた。どこか見覚えがある。……いや、違う。見覚えどころじゃない。次の瞬間、由奈の表情がわずかに硬くなる。あの宴会で、いきなり自分の手を掴んだ、あの男だ。「どうぞ、おかけになって」静華は柔らかな笑みを浮かべて言う。だが、隣にいる男の視線がまとわりつくように絡みつき、由奈は落ち着かない。とはいえ、この場で相手の言葉を無視するわけにはいかず、席に着いた。「うちのプロジェクトにご興味を持っていただき、ありがとうございます」慎重に切り出すと、静華は穏やかに微笑む。「中道家と神田家は、昔から付き合いがあるのよ。あなたは戻ってきたばかりだから、まだご存じないかもしれないけれど。でも大丈夫、これからはいくらでも、親睦を深める機会があるのだから」その言葉に由奈は違和感を感じ、わずかに眉をひそめた。「こちら、息子の和馬です。会ったことはあるでしょう?」紹介を受け、由奈は口元だけで笑みを作る。向けられる視線を正面から受け止めることなく、さらりと流した。「ええ。一度だけ」普通なら、あんな露骨に人を見つめたりはしない。けれど――この男は違う。その異質さに、胸の奥でじわりと不安が膨らんでいく。静華が話を続ける横で、由奈はそっとスマホを取り出し、視線を落とすふりをして位置情報を送信した。「お母さん、料理はもう頼んであるんだろ?早く出してもらってよ。池上さんを待たせちゃ悪いからな」和馬が苛立ったように口を挟む。静華は苦笑した。「ごめんなさいね、話に夢中で。すぐ用意させるわ」「いえ、お構いなく」ほどなくして料理が運ばれてきた。テーブルいっぱいに並ぶ品々。さらに別のスタッフがワインとデカンタを持って現れる。「お酒は少しだけでいいわ。まだ仕事の話があるから」そう指示してから、静華は由奈に向き直る。「池上さん、お酒は大丈夫?アレルギーがあるなら、別のものを」「車で来ているので、控
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