徹也は手にしていたグラスを静かにテーブルへ置くと、ゆっくり立ち上がって智宏の方へ向き直った。「お前たちがいるだろう?だから大丈夫だと思ってさ」先に部屋を出るよう、智宏は視線だけで駿介に合図する。駿介は一瞬だけ徹也を見てから、黙って部屋を出ていった。扉が閉まり、室内には二人だけが残る。智宏はデスクの向こうに腰を下ろした。「美羽さんの件はともかくとして。あなたの母親がああいう状況になってるのに、ずいぶん落ち着いているね。少しくらい様子を見に行こうとは思わなかったのか?」「母は自業自得だよ」徹也は本棚の前まで歩き、金融関係の本を一冊手に取る。「止めたんだけどね。聞かなかった」ページをめくりながら続ける。「靖彦さんと密会なんてしていれば、いずれバレるさ」まるで他人の話でもしているようで、表情は少しも動かない。智宏は指先で机を軽く叩く。その視線は鋭く、徹也の背中から外れない。智宏には分かっていた。徹也は、ただ世間話をするために自分を訪ねたわけではない。「それで、用件は?」徹也は本を棚へ戻すと、振り返っては困ったように笑う。「智宏。今日は本当に、少し話がしたくて来ただけだよ。お前と俺は立場こそ違うけど、年はそんなに変わらないだろ?だから、俺はお前のことを甥だなんて思ったことはない。弟みたいなものだと思ってるんだ」「叔父と兄弟ごっこする趣味はない」キッパリそう言うと、智宏は扉の方へ手を向ける。「他に用がないなら帰ってくれ」徹也の表情が一瞬だけ固まった。だがすぐ、苦笑に変わる。「相変わらず容赦がないな」ゆっくり歩み寄り、机の縁に両手をついて、少し身を乗り出す。「家の事情について、お前だって分かってると思うけど、俺には選択肢がないんだ。それに――俺の敵はお前でも、お前の父親でもない。だからお前たちと争うつもりはない」それだけ言い残して、徹也は部屋を出ていった。しばらくして、駿介が戻り、首を傾げながら問いかけた。「結局、あの人は何をしに来たんでしょう?」智宏はしばらく扉を見ていた。やがて静かに言う。「忠告だろうね。あるいは警告か」……由奈は澪の家を出たあと、病院へ向かった。ナースステーションで話を聞くと、看護師長が静かに説明してくれる。「お母さまは穿刺のあとも、意識障害が続いています。たまには覚醒しますが、継続時間
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