たしかに――帰っておとなしくお嬢様をしていれば、欲しいものは何でも手に入る。今みたいにみじめな思いをする必要もない。実際、紬は苦労に慣れていない。アルバイトを始めてまだ半月、もう心が折れかけている。それでも――紬はわずかに視線を逸らし、小さく言った。「……いつかは、自分の力でやらなきゃって思ってるから」倫也は淡々と返す。「力が足りないのに無理をする。その結果の苦労を、自業自得と呼ばずして何と呼ぶべきでしょう。それとも、同情して欲しいのですか?」彼の声音は、あくまで穏やかだった。けれどその静けさは、彼女には皮肉のように響く。どこか突き放すような、不信の色さえ滲んでいた。――どうせ続かない、そう思っているのだろう。自分が本気で自立しようとしているなんて、きっと信じていない。確かに、自分がどこまで踏ん張れるのか、はっきりとは言えない。それでも――軽く見られるのは、やっぱり悔しい。まして、それが好きな人からだなんて。そう悟り、胸の奥がじわりと痛む。紬はぎゅっと拳を握り、まっすぐ彼を見据えた。「同情なんていらない!どうせみんな、私には無理だって思ってるんでしょ。松本家の娘だから、甘やかされて育って、そのまま用意された道を進むだけだって。でも、それは私の望んだ人生じゃない!私は操り人形じゃないし、やりたいことくらい、自分で決めたいの。見下すのは勝手だけど、できないって決めつける権利はないでしょ!」それ以上は何も言わず、紬は踵を返して走り去る。ドアの前に残された倫也は、わずかに眉を寄せた。しばらくして、小さく息を吐く。――言い過ぎたのは分かっている。だが、ああでも言わなければ、彼女の気持ちは断ち切れないのだろう。……同じ頃、秀雄は栄東市のテレビ塔にある回転レストランを貸し切り、妻と一緒に息子の誕生日を祝っていた。少年は十七、八歳ほど。整った顔立ちに、屈託のない明るさと自信がにじむ。大切に育てられてきたことが一目で分かる。その隣に座る女性はベレー帽をかぶり、化粧っ気は薄い。だが骨格の整った顔立ちと、どこか人目を引く気品を隠しきれていなかった。秀雄は息子――光俊に視線を向ける。「光俊、賑やかな誕生日パーティーを用意できなくてごめんな……がっかりしてないか?」光俊は首を横に振る。「ううん。家族で一緒にい
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