由奈が再び目を覚ましたのは、病院のベッドの上だった。白い天井をただ見つめたまま、意識がどこか遠くに沈んでいる。そんなとき、ドアが静かに開き、倫也が入ってきた。「目が覚めたんですね」声に引き戻されるように、由奈はこめかみを押さえながらゆっくりと体を起こす。「私……どうしてここに……?」倫也は付き添い用の椅子に腰を下ろし、少しだけ表情を和らげた。「あなたも医者ですし、分かると思いますが、今は無理してはいけない時期です。あまり気を張りすぎないようにしないと」やわらかく諭すようなその言い方に、由奈はかえって違和感を覚えた。ぴたりと動きを止め、彼を見つめる。「……どういう意味ですか?」倫也は一瞬だけ言葉を選び、やがて静かに告げた。「あなたは妊娠六週目です。気づいてなかったんですか?」その一言で、時間が止まったように感じた。由奈は無意識に、自分の腹へと手を当てる。中道家のことで頭がいっぱいになっていたから――生理が遅れていることにすら、きちんと向き合えていなかった。まさか、それが妊娠だなんて。もともと自分は、妊娠しにくい体質だと診断されていた。だからこそ、こんなタイミングで妊娠するなんて思いもしなかった。何の準備もできていない。心も、状況も、追いつかないままだ。由奈の揺れる表情を見つめ、倫也も事情を察したらしい。少しだけ間を置いてから、控えめに口を開く。「滝沢家には……今は行かない方がいいでしょう。身を休めることを最優先にしましょう」由奈は視線を落とし、しばらく黙り込んだ。けれど、やがて小さく息をついて首を振る。「……いいえ、行きます」静かな声だったが、その奥に決意があった。「戸籍上は、まだ祐一の妻ですし……行かないわけにはいきません」わずかに言葉を詰まらせ、それでも続ける。「それに……おばあさまに、ちゃんとお別れを言いたくて」訃報を聞いた今も、どこか現実味がない。あの人が、もういないなんて……海都市を離れたあの瞬間が、永遠の別れになるなんて思いもしなかった。ふいに視界がにじむ。涙がこぼれそうになった瞬間、由奈は顔をそむけた。倫也は何も言わず、そっと視線を外す。気づいていても、あえて触れないまま。「……私も一緒に行きましょう」……祭壇の前には、黒い人影が静かに連なっていた。滝沢家はまだ今回の事故を発表し
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