その誘いに、由奈は静かに頷いた。「ぜひ、お願いします」勉と別れたあと、三人は駐車場へ向かった。車の前で足を止めた由奈は、ふと思い出したように紬を振り返る。「そういえば……千代さんの容体、どうなったんですか?」紬は一瞬だけ言葉に詰まり、視線を落とした。「……あまり変わってない。意識も戻らないままで、医者も……正直、難しいって」由奈は何も言わなかった。ただ静かに頷く。紬は慌てたように言葉を足す。「でも、由奈お義姉ちゃんは何も気にしなくていいからね。うちは、今回の事故を由奈お義姉ちゃんのせいにしてないし。それから、真由美さんの言うことも真に受けなくていいから。あの人、今は滝沢家がぐちゃぐちゃになるのを面白がってるだけだよ。あ……それと、奈々美にも気をつけて。あの子、何するか分からないから」――その言葉が現実になるまで、そう時間はかからなかった。数日後、勉との食事の席で、由奈は思いがけず奈々美と顔を合わせることになる。同じレストランの、別の個室だった。勉の席には、かつて脳神経外科で一緒だった同僚が二人。由奈が現在取り組んでいるアルツハイマー新薬の研究に興味を示し、話は自然と専門的な内容へと流れていった。途中、由奈は席を外して洗面所へ向かうその時、廊下の曲がり角で、奈々美と鉢合わせる。視線がぶつかった時、奈々美の表情がわずかに固まる。次の瞬間、その目にははっきりとした敵意が宿っていた。「……よく海都市に戻ってこれたわね。もう二度と顔見せないと思ってたけど」由奈は軽く目を伏せ、わずかに笑う。「別に、何か悪いことをした覚えはないし。戻ってきちゃいけない理由もないでしょ?」奈々美は一歩、距離を詰めた。その瞬間、ふわりと漂う濃いローズの香りに、由奈の胸がむかつく。思わず身体を引いた。その反応を、奈々美は別の意味に受け取ったらしい。口元に冷たい笑みが浮かぶ。「……やっぱり後ろめたいんでしょ?おばあちゃん、あなたのことどれだけ気にかけてたか分かってる?それなのに、彼女が入院中、あなたは一度も見舞いに来なかった。祐一さんはあなたのために命を懸けて、自分の家族すら顧みなかった。おばあちゃんのことさえ守れなかった。あなたって、本当に――疫病神以外の何者でもない」由奈の眉がわずかに寄る。挑発だと分かっていた。ここで感情的になれば
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