業界のサミットを終えた祐一は、数人の経営者たちとともに国際貿易センターの会議棟から出てきた。談笑しながら並んで駐車場へ向かう一団の中で、祐一は少し前を歩いていた。背筋の伸びた長身に、指先には先ほど渡された煙草が一本挟まれている。だが火をつける気はないらしく、ただ無造作に持ったまま、次の提携案件について交わされる会話を淡々と聞き流していた。その横を、半歩後ろから麗子が付き従う。必要な場面では柔らかく会話に入り、秘書としての有能さを自然に示しながら、滝沢グループの立場もしっかり守っていた。駐車スペースに着くと、他社の社長たちは笑顔で挨拶を交わし、それぞれ去っていく。祐一は吸わなかった煙草を麗子へ渡し、処分を任せると、そのまま車へ向かう。ドアを開けようとしたその時、車体に擦り傷が入っているのが目に留まる。祐一は眉をひそめ、スマホを取り出そうとした。すると横から、遠慮がちな女の声が聞こえた。「すみません……こちらのお車の持ち主の方ですか?」祐一が振り返る。女性の顔を見た瞬間、彼の動きがわずかに止まった。だが、それもほんの数秒だった。すぐに視線を外し、淡々と答える。「そうですが」「さっき、うっかり擦ってしまって……本当に申し訳ありません。修理代、弁償させてください」由夏はバッグの持ち手をぎゅっと握り締めていた。緊張で肩が強張り、声もどこか上擦っている。祐一は車を一瞥して、答える。「そこまでおっしゃるなら……十万円ちょうどでお願いします」由夏は一瞬固まったが、すぐに頷く。「……わかりました」そしてその場で送金を済ませる。入金を確認した祐一は、そのまま車に乗り込もうとした。「ま、待ってください!」由夏が慌てて呼び止める。閉めかけたドアを止め、祐一が横目で彼女を見た。「まだ何か?」「その……連絡先を交換しませんか?もし後から何か問題があった時、連絡できた方が――」無理に作った笑顔だった。スマホを握る手は小刻みに震えている。祐一はそんな彼女をしばらく見つめていた。やがて視線を逸らすと、車内の収納スペースから一枚の名刺を取り出し、差し出す。「何かあれば、秘書へ」それは麗子の名刺だった。「ありがとうございます」由夏は表情を引きつらせながら受け取る。次の瞬間には、車のドアが閉まり、黒い車体はそのまま走り
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