その言葉を聞いた瞬間、千代の瞳にわずかな寂しさが浮かんだ。「……そう」短く返した声には、少しだけ落胆が滲んでいた。きっと、自分が昔してしまったことが原因なのだ。由奈にとって自分は、今でも忘れられない「嫌な姑」のままなのだろう。それに――今の由奈と祐一は、まだ離婚したままだ。そう思った瞬間、千代はふと祐一へ視線を向けた。先ほどまでの柔らかな表情は消え、途端に厳しい顔つきになる。「祐一、あんた何をしているの?」「え?」突然責められ、祐一が目を瞬かせる。「まだやることがあるでしょう。由奈があんたの子どもを妊娠しているのに、どうしてまだ復縁していないの?」千代は勢いよく言葉を続けた。「早く迎えに行きなさい!」そして、まるで念を押すように最後の一言を付け加える。「もし子どもが生まれた時に、その子たちがあんたを父親だと思ってくれなかったら……その時は絶対に許さないからね」その剣幕に、そばにいた使用人は思わず肩を震わせた。祐一も、口にしていたお茶でむせそうになる。つい先ほどまで由奈が来ないことを寂しそうにしていた母が、次の瞬間には自分を責め立てている。あまりにも変わり身が早く、祐一は呆れながらも苦笑した。けれど、千代自身も分かっていた。これまでのことは、自分にも責任があるのだと。しばらくして、彼女は小さく息を吐いた。「……もし由奈が私を許してくれるなら、これから先、一生あの子の世話をして暮らしてもいいと思っているわ」祐一は思わず笑みを漏らした。指先でカップの縁をなぞりながら、からかうように尋ねる。「母さんが、由奈の世話を一生するんですか?」「ダメなの?」千代は少し慌てたように言い返す。「祐一をここまで育てたんだから、老後に嫁や孫の面倒を見るくらい、いいでしょう?」「もちろん、いいと思いますよ」祐一はカップを置き、ゆっくりと立ち上がる。「ただ、復縁については俺が決められることじゃない。でも、由奈は子どもを海都市で産むつもりだと言っていました」そう告げて、少し笑う。「母さんには、これからいくらでも会う機会がありますよ」その言葉を聞いた瞬間まで沈んでいた千代の表情が、ぱっと明るくなった。……祐一が部屋を出ると、外では麗子が待っていた。「例の薬の品質問題について、もう調べがついたか?」
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