Semua Bab ポンコツ悪役令嬢の観察記録 ~腹黒執事は、最高のショーを所望する~: Bab 11 - Bab 20

47 Bab

第11話 波紋広がるバーレスク

 そして、王立アカデミー。 事件から、わたくしへの風当たりは、もはや逆巻く暴風雨と化していた。「見まして? あの方……“シャーデフロイの魔女”よ」「王太子殿下にあのような前代未聞の無礼を働き、謹慎にすらならないなんて……」「よほど、後ろ暗い力をお持ちなのね。いえ、目を合わせるのすら恐ろしいわ」 廊下を歩くだけで、空気がシンと静まり返る。今まで牽制しあっていた宰相派の令嬢たちが、海を割る聖者の奇跡のように避けていく。 す、すごい! これぞまさしく、悪役令嬢としての威光!「でも、さすがにこれは……寂しいかも」 というか、なんで味方であるはずのシャーデフロイ派の子たちまで、より一層遠巻きになっているの? ねぇ、味方じゃないの? うー、まあいいわ! これも作戦のうちよ! きっと、そう! と、無理やり気を取り直そうとしたその時。「お待ちしておりましたわ、ベアトリーチェ様っ!」 暗雲に差し込む一筋の陽光、明るく、ぱたぱたと駆け寄ってくる影が一つ。噂の的、ルチアだった。 周囲の視線など気にもせず、わたくしの手を取って、ぶんぶんと子犬の尻尾みたいな勢いで振る。「大変だったのですね! でも、ご無事でよかったですぅ!」 ちょ、ちょっと慣れ慣れしくないからしら!? 元庶民ってこんなものなの!?「え、あ、はい。あの、わたくしたち、そこまで親しい間柄でしたかしら?」「バージル殿下が、すっごく怒っていらっしゃいましたけど、後でローラント様がこっそり教えてくださったんです! 『あれはきっと、ベアトリーチェ様が、私や殿下の身を案じて、体を張って警告してくださったに違いないのだ』って! なんて勇敢で、お優しい方なのでしょう!」「ば、バージル殿下がすっごく怒ってた……!?」 ち、ちがう! 断じて違うのよ、ルチア! その解釈は、もはや詩人の幻想の域に達しているわ! ローラント殿、護衛の
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-04
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第12話 乙女心は、エイデンの森の天気の如く

 貴族とは、自らの領地を守り、民を導く者。 そのためには、時に牙を剥く自然の脅威――すなわち、魔獣や魔法生物への正しい知識が不可欠である。 なんて、『魔法生物学』の教科書冒頭で誰もが読んだ、実にお堅いお題目よね。 王立アカデミーのエントランスホール。 中央に鎮座する掲示板を見上げながら、今日一番の深いため息をついた。 わたくしが次の一手を模索している間にも、単位取得という、逃れられぬ現実は迫ってくるものですわ。『必修課題:夜間魔法生物学実習(エイデン森)』 なんだか気分がどんよりしてしまう。 エイデンの森。王立アカデミーの西に隣接する、広大な森林地帯。牧歌的な美しさを持ち、夏はわりと涼しくて過ごしやすいわ。(でも……夜、森、実習。つまり、虫だらけ。泥に塗れれながら、虫と戯れるなんて、淑女の嗜みではございませんわ!) しかも、エイデンの森は、ひとたび天候が崩れれば、湿気の多い濃霧が立ち込め、この季節ですら凍えるほどの冷たい風が吹き抜ける。 まるで、気まぐれな妖精が住んでいるかのようにね。 「乙女心は、エイデンの森の天気の如く」なんて言葉があるくらい、自然は決して優しくはない。「マジかよ、森に入れだって? せめて狩猟なら楽しめるのにな」「しかも、夜だなんて。気が滅入ってしまうわ」「まあまあ。『黒の森』との境界へ行かされるわけではないのだから、まだマシだろう?」 周囲の令息令嬢たちも、同じようにぼやいている。無理もないわ。 『黒の森』というのはね。アカデミーから離れたずっと先。木々が密集し、昼でもなお暗い最奥部のことよ。 御伽噺で妖精や怪物が登場する舞台と言えば、決まってそこなのだから。「ベアトリーチェ様! ご覧になりましたか? 夜の実習先、エイデンの森ですって!」 憂鬱に眉を寄せていると、鈴を転がすような、快活な声が飛び込んできた。「ええ、見たくなくても目に入りましたわ、ルチアさん」 振り返れば、栗色のポニーテ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-05
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第13話 憂鬱の森の悪女、閃いちゃう!

「それより、ルチア。付き合う相手は選びなさいな。貴族とて家柄によって、相応しい生き方というものがあるのですから」 「えー、でも……」 戸惑うルチアの耳に、ツェツィーリア様はそっと顔を寄せて囁いた。「いいこと、ルチア。あの女は、ただの性格悪いだけじゃなくて、シャーデフロイの『魔女』なのよ。下手に深入りすると、あなたまでどんな噂を立てられるか。あたしは、あなたのことが心配で言っているの」 「魔女……ですか? でも、ベアトリーチェ様、とっても優しい瞳をしてらっしゃいますよ?」 「いいから、こちらへいらっしゃい!」 ルチアの腕を引き、ツェツィーリア様はわたくしをキッと睨む。  もうっ! 全部わたくしには、聞こえてますけどね! 別に、そんな顔をしなくても、あなたのお友達を盗ったりはしませんことよ。(それでも、なんだか。よくわからない関係ですわね) 殿下を巡るライバルかと思っていたのに、二人はまるで、年の近い姉妹のよう。  べつに、羨ましいなんて、これっぽっちも思っておりませんから。ええ、これっぽっちも! 「……わたくしはこれにて失礼しますわ。こう見えて、何かと忙しい身の上ですので」 当たり障りのない挨拶をして、すたすたと離れる。「あっ」とルチアに呼び止められた気がしたが、今はもう振り返れない。 回廊の角を曲がる直前、バージル殿下とローラント殿の会話が、ふと耳に入った。「エイデンの森か」 バージル殿下の真剣な呟き。いつになく険しいお顔。「国境付近で、ガリアの斥候らしき影が目撃されたとの報告も上がっている。警備はいつも以上に厳重にしろ」 「はっ! 今度こそ、万全を期します」 どうやら、あの堅物王子様は、ただの実習とは考えていないみたいね。  ……ああ、本当に、どうにかしてサボることはできないのかしら。顔も合わせたくないのに。(――いいえ、待ちなさい、ベアトリーチェ!) 不意に、脳裏に悪魔的なひらめきが舞い降りた。(この憂鬱な課題こそ、彼に嫌われるための、最高のチャンスになるかもしれないじゃない!) そうだわ。暗い森、潜む危険、そして、浮かれる生徒たちっ!  ふふふ、まさに悪役を演じるための、お誂え向きのシチュエーションですわ!  わたくしは、先程までの憂鬱が嘘のように、口の端を吊り上げて、ほくそ笑んだのだった。 ***  内心
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-06
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第14話 つまり、結局はノープランでございますね?

 やれやれ、と紅茶を一口含む。んっ、と思わず目を見開いた。「あらっ! これ、とても美味しいわねっ!」「お気に召しましたか」「いつもと違う味ね」 瞼を閉じて、イヅルは一礼する。「開発された、新ブレンドでございます。茶葉はシーズンごとに、品質が安定しませんので難航いたしました。が、ようやくお試しいただけるところまで。シャーデフロイ家の名を冠するブランドとしては、一切の妥協は出来ません」「そうなのよね。貴族としての格式と、商売の両立は難しいものですわ」 お金稼ぎにも、格好つけないといけないのも窮屈ですわね。 まあ、それはさておき。本題に戻る。「いいですこと。わたくしが期待する、“本性”というのは、皆が夜闇に怯え、動揺するということですわよ」「ほほう?」「でも、わたくしだけが冷酷非情に振舞えば、殿下も『なんと非人間的な! こんな女と婚約継続できるか!』と、ドン引きすること間違いなし!」「はいはい。実に素晴らしい作戦ですね。夜闇に怯える、か弱い学生が大勢いれば、きっと成功することでしょう」 ……どうしてかしら。全然、同意されてない気がする。「それで? 具体的には、どのように演じられるおつもりで?」「ふふん、よくぞ聞いてくれたわ、イヅル!」 立ち上がり、壁の人物相関図をピシッと指示棒で指す。示された似顔絵は――。「まず、ターゲットは当然! あの太陽みたいに眩しくて、なんだか子犬のように鬱陶しい、ルチア男爵令嬢よ!」「また、あの方でございますか。……少々、食傷気味では?」「うるさいわね! あの子を悲しませるのが、一番殿下の心を抉るのだから仕方ないでしょう!?(たぶん)」 わたくしは、計画を滔々と語り始める。「夜の森では、何が起きてもおかしくありませんわ。例えば、そう! ルチアが、木の根に足を取られ、派手に転んでしまうとかね」「ええ、いかにもありそうなことですね」「周りの令嬢たちは、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-07
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第15話 鳴きホタルの間奏曲(インテルメッツォ)

 告知から、数日の準備期間経て――日没。 わたくしたち魔法生物学の履修者は、指定された革エプロンと分厚い手袋を身につけ、アカデミー西門に集合させられていた。「皆さん、準備はよろしいですか。これより夜間の魔法生物学実習を開始しますよ」 宵闇は、ゆっくりと空を茜色から深い藍色へと塗り替えていく。 肌を撫でる森の風は、昼の暖かさが嘘のようにひんやり。 チチチチ……虫の鳴く声が誘うよう。「各自、革エプロンと手袋を必ず着用すること。それから、携帯用の魔力灯は、指示があるまで決して強く点灯させないように。夜行性の生物を不必要に刺激する恐れがある」 引率の先生と、研究員が話し合いながら指示を飛ばす。 ごわごわする革の感触に、顔をしかめちゃうわ。鉄門が開けば、エイデンの森が暗い口を開くの。(ああ、本当に来てしまったわ。……もう既に帰りたい) ざわり、と風が木々を揺らせば、森が不気味に嗤ったみたいに見える。背筋がゾクゾクっ。 (虫は嫌い! 暗いのも嫌い! でも、ここで怖気づいては、シャーデフロイの名が廃るというものよ!) 背筋を伸ばし、「余裕ですわよ」という顔で歩を進めた。でも――。「きゃっ!」「なにかしら、今の音っ!?」 どこかで梟が鳴き、ガサゴソと繁みが揺れれば、令嬢たちが小さく悲鳴を上げる。 もうっ! わたくしも、ちょっとだけ肩が跳ねてしまったわ!(うう、イヅルぅ……ちゃんと近くで見守ってくれているの?) そうなの。実は心配性の家臣を仕方な~く、ひっそりと付き添わせてあげてるの! だから、何かあったら助けに来てぇぇっ!「落ち着け! 各自グループごとに分かれ、担当エリアの生物を観察、記録せよ。決して、単独行動はするな!」 先生に叱咤され、しぶしぶと各々集まっていく。 わたくしのグループには、幸か不幸か、あの二人……ルチアとツェツィーリ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-08
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第16話 ウサギなんて別に可愛くないもんっ!

 それから実習は、グループでののフィールドワークへと移った。  配られたリストを元に、指定された魔法生物を見つけ出し、生態を記録するという、地味な課題。「ええと、月光苔、発見。眠り蝶も、さっき見たわね」 うーん、魔力灯が暗くて見づらいわ。羽ペンでチェックを入れていく。  やっぱり、課題自体は面倒なのよね。 でも、ちょっとだけ見直してしまったわ。やっぱり、虫は嫌いだけれど。  わたくしたちが暮らす王都のすぐ側に、こんなにも神秘的な世界が広がっていたなんてね。  すっかり忘れていたわ、昔はわたくしだって――。《幼い頃は、男子顔負けで、領地の森や野山を駆け回っておられたではございませんか》 ふと、あの執事のからかうような声が蘇る。  でも、そんなお転婆な自分は、もう、ずっと昔に、淑女というドレスの下に閉じ込めてしまったじゃないのよ。(いけないっ! いけないわ、ビーチェ。今は、感傷に浸っている場合じゃないのよ! ちゃんと意地悪しないと!) そう、悪役を演じなければ! 離れた場所でこちらを見ているバージル殿下が、顎が外れて絶叫するほどに、悪い女になるのよ!  改めて決意を固めた、まさにその時だった。「先生! あちらの繁みになにかいます!」 ルチアの、ひときわ大きな声が響いた。  声のした方へ、近くにいた他のグループも、好奇心に引かれ何事かと集まってくる。  茂みの奥、小さな窪地にソレはいた。「まあっ! なんて愛らしいのかしら!」 「ったく。なんだよ、驚かせやがって」 そこにいたのは、数羽のウサギの群れだった。  月光を浴びて銀色に輝く、純白の毛並み。宝石のようにつぶらな、赤い瞳がきょとんとこちらを見つめている。  そのあまりの愛らしさに、令嬢たちがうっとり。  にしてもルチアったら、本当にどんどん見つけていくわね。夜の森に慣れてるのかしら。「これは……シロガネウサギ。この辺りにも生息しているのは知っていたが……ムムム」 駆けつけた研究員が、首を傾げ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-09
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第17話 嘘から出た『真っ赤なウサギ』

 そう、わたくしは心の中で、高らかに勝利宣言をした。……はずだったの。 けれど、返ってきたのは、予想していた反応ではなかった。「あら、ベアトリーチェ様。どうして、そのようなことを仰るのですか?」 しゃがみこんだルチアが、ぎゅっとウサギを抱きしめて。心底不思議そうに問いかけて来たの。 本当に、純粋な問いかけだった。軽蔑でも、怒りでもない。 ただ、どうして? と、問いかける、曇りのない瞳。(あれえ? なんだか……ちょっと予想と違う、わね?) もっとこう「きゃー! ひどいわ!」みたいな、分かりやすい非難が巻き起こるはずだったのに。 周りの生徒たちも、ひそひそ囁きあい始めているけれど……困惑の色が濃い。「そんなの、ルチア。この女の行動に、理由なんかありはしないわよ。きっと、あたしたちに難癖をつけてるだけに決まっているわ」 怒っていたツェツィーリア様の声も、どこか歯切れが悪く聞こえる。 まさか意地悪だと、あんまり思ってもらえてない?(こ、こうなったら、もっと分かりやすいアクションで示さなければ!) 例えば、えっと……あの、ふわふわウサギを足でげしげし追い払う、とか? ……ちょっと想像してみる。(この子たちにそんなひどいことを!?? そ、それは自分でもちょっとひどすぎると思うのだわ! ムリよ、ムリっ!) あわわ。なら、どうしたらいいのよっ!?「みなさん、落ち着いてください」 仲裁に入ったのは、協力する研究員だった。彼は、やれやれと首を振りながら、困ったように笑う。「シャーデフロイ嬢の言うことにも、一理ありますね。野生動物には、常に敬意と警戒心を持って接するべきだ。しかし、ギャニミード嬢の言うように、この子たちは、今のところ我々に敵意を持っていない様子。恐れすぎても観察にはさしつかえるものですよ」 やんわりと窘められ、わたくしは「ふん!」と、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-10
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第18話 スコップの聖女、泥まみれの魔女

「馬鹿な、擬態だとっ!? これは、シロガネウサギじゃない! |血啜り兎《ブラッドラパン》だッ!」 研究員の絶叫が、惨劇の始まりを告げる。 教員が、騎士たちが剣を引きぬく。あちこちから悲鳴が上がる。「きゃあああああああああっ!!」「い、いやああああああっ!」 そこから恐怖の連鎖だったわ。「ウサギの肉体に刻まれた術式っ、これは罠だ! みんな離れろっ!」 教員が混乱を落ち着けようと、声を張り上げる。 しかし、バージル殿下は待ったをかけた。「ダメだ! 散りじりになる方が不味い! 周囲に何かが潜んでいるやもしれんぞ!」 懸念は、すぐにその通りになった。 最初の一匹が誕生すると、他のシロガネウサギたちまでもが、姿かたちを変え始めたの!(あの群れが全部、本当は怪物だった!? いえ、もっと潜んでいるかも!?) もう、どこから襲われるか誰にもわからないっ! エイデンの宵闇は、一転にして、地獄の様相を呈していた。「――くっ! ローラント、早く生徒たちを避難させろ!」「はっ!」 バージル殿下に命じられて、ローラント殿や騎士達が、生徒たちを庇うように前に出ようとする。 でも、今はそんなことに感心している場合じゃない!「グルルゥゥゥ……」 出現したブラッドラパンは一番近くにいた無防備な獲物……ツェツィーリア様に、血走った視線を固定した。「ひゃっ! いやぁっ! 来ないで!」 腰を抜かし、後ずさるツェツィーリア様。 絶望と恐怖に歪む顔に向かって、魔獣が、地を蹴る。「危ないッ、ツェツィちゃん!!」 瞬間、魔獣とツェツィーリア様の間に、割り込む影。 ――なんと、それはルチアだった! 彼女は、近くに立てかけてあった、作業用の鉄製スコップをがっしと掴み取ると、魔獣の突進を払いのけたのよ! ガギィィィィンッ! 魔獣の爪と、鉄
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-11
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第19話 ド派手に決めたら、それがファンファーレ

 ああ、もう思い出したくないのに! あの腹黒執事の声が、不敵な表情がこびりついて離れない!《されど、お嬢様。もし貴女が、それでも“駒”を見捨てられぬ、甘ったれのままで栄光をお目指しになるのでしたら》 浮かぶ幻。イヅルの涼やかな微笑みが、頭のなかで弧を描く。《やり遂げるしかありませんね。ベアトリーチェ・ファン・シャーデフロイ。……無理を、お通しになりなさい》 怖い、死にたくない。でも――!「――ここで逃げたら、悪役令嬢ですらなくってよ」 醜い卑怯者には、なりたくないっ! ジャリッと土を噛み潰しながら、今度こそ立ち上がった。 乱れた髪も、革のエプロンも、新調したばかりの|狩猟乗馬服《ハンティングハビット》も、もう泥まみれ。淑女の威厳なんて、どこにもありはしない。(怖い! 怖いのよ、帰って、ふかふかのベッドで泣きたい! ママ、お願いだから抱きしめて!) 本音はそれよ! それしかないに決まってるじゃないの! でも、それ以上に、ここで逃げ出す自分の姿を想像したら……死ぬほど虫唾が走るっ! 戦場で最も早く死ぬのは、一番勇ましい者と臆病な者。 ええ、そうね。勇ましいルチアは、今にも牙の餌食になりそう。怯えてるだけのツェツィーリア様も、きっと同じ。「だけど! 臆病なだけの“わたくし”は、もうさっき、泥に埋まって死んだことにするっ!」 見渡せば、地獄絵図。 数の増えたブラッドラパン。先生や騎士たちは防戦一方。生徒たちは怯えて固まっているか、意味もなく逃げ惑っているだけ。 バージル殿下も、ローラント殿たちに守られ、歯痒そうに戦況を見つめている。「このままじゃ、ジリ貧っ! 下手したら、全滅するかも!」 そうだ。でも、イヅルは……いつだって、わたくしに二つの道を用意する。 たっぷり砂糖の利いた……優しいけど堕落の道。 もうひとつ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-12
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第20話 仁義なき毛玉、各羽一斉にスタート!

 向けられた殺気に、全身の産毛が逆立つ。土と、獣と、血の匂い。 今すぐ逃げ出したい!  でも――まだよっ!《良いですか。弱い駒が……敵の強い駒を、複数惹きつけて生き残っているだけで、戦術的には“勝利”なのですよ》 誰が弱い駒よ! イヅルの、大馬鹿者ぉぉおお!「み、見なさい! この、醜いケダモノッ! わたくしは、ここにいますわよっ! さっさとかかってきなさい、耳付き毛玉っ!」 声が裏返った。ブルブル震えながら、必死に挑発する。もうヤケクソだった。 わたくしの半ば悲鳴のような叫びで、魔獣はカッと目を見開いた。「そんな!? ベアトリーチェ様、お逃げください!」 ローラント殿の悲痛な声が聞こえる。 ごめんなさい、あなたたちが刃になってくれるなら、死ぬ気で囮になるしかないのよ! だって、わたくし、戦えないものっ! 魔獣が、地を蹴れば土くれが舞う。まずいわ、速い!『指揮官の仕事その②――地の利を整える』 えと、地の利? 地の利って何だったかしら!?《囮役は、敵の注意を惹きつけたら、すぐに障害物の多い場所へ退避。敵の機動力を削ぐのですよ》 障害物!? 障害物なんて、どこにもないじゃないの、そんなの!「きゃーーーーーっ! そこの腰抜けの殿方っ! 突っ立ってないで、木の一本でも倒しなさいな、殻付き|雄鶏《チキン》! さっさと障害物をぉぉぉぉぉっ!」 立ち尽くす男子生徒たちに向かって、もはや命乞い近い罵倒をぶつける!「ええっ!?」「まさか、俺たちに言ってんのか!?」 鬼気迫るわたくしの形相に、ハッと我に返ったように、彼らは一斉に杖を構える。近くの腐りかけた大木へと、それぞれ魔術を叩きつけた。 ゴゴゴゴゴ……メキメキメキッ! 巨木が、魔獣の進路上に倒れこむ。 即席のバリケード。魔獣たちの動きが鈍り、機動が制限された。「ひぃいいいっ! もうな
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-10-13
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