大輔は太っ腹にも車を買ってやると申し出たが、明里は当然のように断った。数年の付き合いで、彼女の頑固さを熟知している大輔は、結局妥協案を飲んだ。それは、展示即売会への同行だ。会場には高級車も並んでいたが、その数は少なく、大半は一般向けの、手頃な価格帯の大衆車だった。普段、欲しい車があれば海外から空輸で取り寄せるような大輔にとっては、もはや異世界に等しい。しかし彼は、黙って見ていられるタイプではない。明里があるモデルに興味を示すと、片っ端から難癖をつけ始めた。その態度は、横にいる販売員が、たとえ相手がどれほどの美男子であろうと、殴りたくなるほど尊大だった。ついに明里も我慢の限界に達した。「ねえ、もう黙っててくれない?車を買うのは私であって、あなたじゃないのよ」「俺はお前の安全を考えてるだけだ」大輔は悪びれもせずに言い放つ。「たかだか二百万円の鉄の箱で、本当に安心して大通りを走れると思ってるのか?」だが明里は、展示会に来て初めて実感していた。この数年、経済と技術の進歩に伴い、国産車の性能とデザインは目覚ましい進化を遂げていた。当初の予算は六百万だったが、二、三百万の車を見ても心が動くほどだった。一方の大輔は、苛立ちで爆発寸前だった。彼の所有する車の中で最も安いモデルでも、軽く八桁は下らない。二百万円では、彼の愛車のタイヤ一本すら買えないのだ。明里は反論する。「街を見てよ。数千万もする高級車がどれだけ走ってる?みんな普通の車に乗ってるじゃない」大輔は根気強く諭す。「だからこそ、安全のために……」だが、何を言っても平行線だった。車を買うのは明里であり、彼女は一度決めたらテコでも動かない。大輔の意見には聞く耳を持とうとしない。大輔は苛立ちを募らせたが、どうすることもできなかった。今すぐにでも彼女に最高級の車をプレゼントしてやりたいが、彼女が決して受け取らないことを誰よりも知っているからだ。その時、彼のスマホが鳴った。会社からだ。大輔は明里に目配せをし、通話のために静かな場所へと移動した。明里は一人で車を見て回った。本当は胡桃に来てもらうつもりだったが、大輔が強引についてきたのだ。明里は、大輔が戻る前に決めてしまおうと、以前から目をつけていたブースへ足を急がせた。ある国産メーカーの車で、機
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