たった一度、顔を合わせただけ。どれほど端正な容姿をしていようと、それだけで心を奪われるほど、明里は夢見がちな少女ではなかった。けれど、その後、不意に訪れた潤との再会が、彼女の運命を変えた。それは、あまりに危うい瞬間だった。ボールを追いかけて道路に飛び出した子供に、猛スピードの車が迫る。最悪の事態が頭をよぎったその刹那、潤がその小さな体を引き戻していた。明里もその場に居合わせていた。助けようと駆け出そうとしたが、あまりに距離があった。潤が人を救ったその瞬間を、彼女は目に焼き付けた。最初は親戚の子かと思った。だが、駆け寄ってきた母親は潤の前に膝をつき、嗚咽で言葉にならないほど泣きじゃくっていた。潤は何も言わず、ただ軽く手を振っただけで、その場を立ち去った。その迷いのない後ろ姿が、明里の心に深く刻まれた。恋は唐突に、そして抗いがたいほど鮮烈に訪れる。以来、彼女の心に他の男性が入り込む余地などなかった。この人が、彼女の青春のすべてを奪ったのだ。今、明里はまだ二十七歳。世間一般では十分に若いつもりだが、本人の実感としては、もうすっかり年老いてしまったような気がしていた。少なくとも、心にかつての瑞々しさは残っていない。だからこそ、潤の言葉を聞いても、一瞬だけ胸が騒いだだけで、すぐに凪のような平静を取り戻した。「変えられないこともあるよ。二宮社長、あなたとはもう関わりたくないわ。どうしてそこまで自分を追い詰めるの?」「過ぎたことだが、やっぱり話しておきたいことがある」潤は明里の瞳を直視できず、視線を傍らの観葉植物へと逃がした。自分が選んだ、あのプレゼントのことが頭をよぎる。これだけは、どうしても説明しておきたかった。「あの時のピアスだが……」口を開こうとしたが、言葉が喉に張り付いた。「ネックレスもピアスも、どちらもお前のために買ったんだ。けれど帰る途中で陽菜に会って、彼女がひどく気に入った様子だったから……てっきり、彼女がピアスを持っていったものだと思い込んでいた。まさか、ネックレスの方だったとは。お前がピアスを気に入らなかったから、後で別のものを買えばいい。どうせ好きじゃないなら、いっそ全部彼女にあげようかと、そう考えていたんだ。似たようなことが、他にもあったかもしれない。俺の配慮が足りなかった
続きを読む