明里は胡桃に「忘れた」と告げた。けれど夜、ベッドに一人横たわると、どうしても頭の中に潤の姿が浮かんでくるのを抑えることができなかった。初めて彼に出会った瞬間から、深く恋に落ち、夢中で追いかけ、結婚し、そして多くの絶望を味わった。過去に美しい思い出などないと頭ではわかっているのに、傷つくとわかっていながら、心は何度も記憶を巻き戻してしまう。もし潤の言う「好き」が、あの冷淡な態度を指すのなら、彼は「好き」という言葉の意味を根本から勘違いしているのではないか?「隠し通せないものが二つある。咳と、愛だ」──そんな言葉があるが、明里は潤の中に、その「愛」の欠片すら、感じ取れなかった。あれで好きだと言うのは、「好き」という言葉への侮辱だ。以前、潤が子供の存在を知って戻ってきたのではないかと疑ったこともある。だが冷静に考えれば、それはあり得ない。もし潤が、宥希が自分の子だと知ったなら、回りくどい真似はしない。即座に奪い取りに来るはずだ。こんな風に、遠回しに愛を語ったりはしないだろう。とにかく、事情がどうあれ、もう潤と関わるつもりはない。明里はようやく思考を断ち切り、眠りについた。翌朝早く、朝食を済ませて、鈴木と宥希を幼児教室に送り出した。宥希の順応性は悪くなく、今はまだ鈴木が一日中付き添っているが、数日もすれば一人で大丈夫になるだろう。その後、明里は母校であるK大学へと向かった。迷った末、彼女は結局K大学で教鞭を執る道を選んだのだ。彼女の経歴と能力は申し分ない。在学中に発表した論文の数々だけで、国内の有名大学が喉から手が出るほど欲しがる人材だった。だが、恩師である健太がいることもあり、最終的な選択はやはり母校だった。K大学の上層部は当然、諸手を挙げて歓迎した。健太はさらに大喜びだ。明里は彼の最後の弟子にして、最も優秀な教え子とも呼べる愛弟子だ。その彼女が戻ってくるのだから、これ以上の喜びはない。仕事の配分について相談した結果、週に二コマの講義を受け持ち、残りの時間は研究に注力することで合意した。K大学は、研究費を惜しまない。明里が成果を出せば、その名声はそのまま大学の利益となるからだ。それに、K大学への寄付金は潤沢だ。財界の重鎮や成功者を多く輩出している。「母校への投資や寄
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